第8話[騎士団長と未来の魔法剣士]
周辺国との緊急会談より数日後、ルークにとって胃が痛む原因が馬車に乗ってやってきた
「来たか···」
「諦めなさい」
「お待ちしておりましたオルレアン卿」
「ルーク先生···いや、ローディス
「ここでは呼び捨てで構いませんよ」
「ですが私より爵位が上ですからな」
「
ルークはオルレアン卿を店内に案内すると
「お久しぶりですオルレアン卿」
「セドリック殿···孝行者のご子息が居られてさぞ嬉しいでしょうな」
「いやいや、隠居の私よりルークの方が大変ですよ」
「さて、ルーク殿」
「は···はいっ」
「我々はルーク殿とリズの婚姻には反対する考えは持っておらん。しかし、なにぶん急な話ゆえ互いに準備は出来ておるまい」
「あー、でも
「貴族の世界を侮るな、貴族というのは軽んじて見られたら負けなのだ」
「そうなんですけどね···」
「そこでだ、我々が
「そんな···」
「無論、使用人達もそのまま
ルークは腕を組んで黙ってしまう、屋敷を賜ると言う事は屋敷を維持する為に数十人もの人を雇用する立場になるという事になる。ルークの生まれは貴族だったとは言え貴族としての教育を受ける前にローディス家に養子に出されたものだからその辺りの事は一番の悩みにもなった
「オルレアン卿、少しよろしいでしょうか?」
「何かね?」
「恥ずかしながらボクは貴族としての生活を知りません。いきなり数十人もの人間を管理出来るでしょうか?」
「あの屋敷がそこまで広くないのは知っておるだろう?
「申し訳ございません、二日だけ時間をいただけますか?誤解されぬ様に言っておきますがリーゼロッテ嬢を迎える事は変わりませんので」
「ふむ、では我々は屋敷で朗報を待つとしましょう。リズ、お前はどうする」
「これからの事でございますので先生···いえ、旦那様と話し合いたいと思っております」
「ルーク、儂はオルレアン卿を送って行く。ではな」
「さてと···困ったな」
「何がですか?」
「
「子爵としての収入がございますでしょう?」
「それは名目上の爵位だよ?正式に賜った訳じゃないから無いと思うンだけどなぁ」
「では、確認されてはどうでしょう。私も共に登城いたします」
「そうだね、
翌朝、リズは騎士団長としてルークより先に登城しルークは貴族の慣例に倣い伝令を使者に立て登城とエーリッヒ皇太子殿下への目通りの許可をリビルドワークスで待っているとシルキーが煎れたてのコーヒーを持ってきてくれた
「
「多分···読まれてるだろうね、こういう時は顔に出やすいって言われてたし」
「それなら皆の総意を言うわね」
ルークは彼等全員
シルキーは街の地図を出し、オルレアン家を指差して
「オルレアン家の隣りの家ってここ数年使われて無い家でしょ?」
「確かオルレアン家に使える使用人の家の一つでしたね」
「そこに
想像の斜め上の提案を聞いて飲みかけのコーヒーが気管に入って思いっきりむせてしまう
「だ···大丈夫?」
「大丈夫ですけど、あの二人が良く了承···ああ、あの二人は還るつもりなんですね」
『何を言っとるか?ワシらの事を分かっておらんな』
いつの間にかルークの真向かいにレプラコーンとブラウニーが座っていた
「ですがあなた達は家に憑く精霊でしょう?」
『正しくは家と
『俺らは
ルークの涙腺が決壊する
『泣くな泣くな、男のクセにだらしない』
「いやぁ、四十路を過ぎると
そうすると外で馬車が停まり、ドアをノックされる
「ローディス子爵、お迎えに参上しました」
「じゃあ行って来ます」
ルークがエルンヴェイカー城に到着すると
「お待ちしておりました
リズはルークを普段王族が公務に携わる棟とは別の奥の方に案内する
「あれ?行先違わない?」
「本日は奥の方に案内せよと言われております」
[奥]とは王族が生活をする、いわばプライベートなエリアの事で貴族や上流階級ですら入れない場所で憧れの場ではあるが、ルークの目には[差別][見世物][牢獄]にしか見えなかった
「何か息苦しいね」
「誰だって緊張しますよ」
奥の棟の入り口には四人の近衛兵が二人を凝視する。リズは腰の剣を預け、ルークは魔法封じの首飾りをかけられる
「
「では入らせていただきます」
入り口を通されるといかにも凛として厳しそうな執事が案内をする
「畏れ多くて吐きそう···」
「巷で噂の
「裏路地の大賢者?」
「城の侍女が市政の噂を聞いて来るもので」
「ボクが賢者なんてそれこそ買いかぶりで畏れ多くて困ってしまいます。たかだか未発見の遺跡を見つけただけの成り上がりでございますゆえ」
「またまたご謙遜を、ではこちらに」
執事がドアを開けるとピエール王子が出迎えてくれた
「ピエール王子、出迎えありがとうございます」
「じぃじも会いたがってたぞ」
ルークの胃酸のペーハーが上がる、ピエールに手を引かれた先には高齢の男性が極東の着物の様な装いでアームチェアに揺られながら本を読んでいた
「陛下、ローディス子爵およびオルレアン騎士団長にございます」
「ヌシがエーリッヒの言うルーク卿か」
ルークは片膝をつきかしこまったまま返事をする
「ヤコブソン、彼等に椅子と茶を用意せよ」
「ここは
「はぁ···それにしても陛下」
「何じゃ?」
「見慣れぬ装いですね?極東ですか?」
「麻布で作られた
そこに遅れてエーリッヒが入って来る
「ルーク、遅れてすまぬな」
「皇太子殿下、この度は色々と世話になりました」
「構わん、
「ありがとうございます、殿下」
「で、私に用件とは?」
「実は、同席しているオルレアン騎士団長を妻として迎えるのですが。いかんせん平民からの成り上がり子爵に養っていけるだけの財産がございません」
エーリッヒはルークの自虐に。[は?何言ってんのお前]という
「財政官より話が無かったのか?」
「聞いてませんよ」
「
「ボクのは
「おかしい、余はルーク卿に伯爵位の給金で支給する様に通達したのだが」
「もしかして
「手順は色々とすっ飛ばしているが、ルーク=ローディスは
エーリッヒはリズを慈しむ様に見て
「立場上祝宴には出られぬが祝辞は送らせてもらう。それとオルレアン団長はこのまま騎士団長を続けるのか?」
「許されるならば続けたく存じます」
「ならばオルレアン騎士団長を騎士団
「それは···」
「なるほどのぉ、それならば後々ローディス卿の子を成しても騎士団の面倒は見れるのぅ」
ルークの子供と聞いてリズの顔は耳まで紅く染まる
「それにルーク、ピエールの
「はっ!」
奥の棟を離れて
「リズ···」
「はい?」
「どこか座れそうな所ありそうかな?正直ホッとして疲れた」
「でしたら騎士団詰所まで我慢して貰えますか?」
「ありがとう」
騎士団詰所の屋内訓練所まで来るとルークはそこで一息つく事にした
「先生!」
「アリスちゃん、あの子は?」
青紫のざんばら髪の少女が新米騎士と同じ列で
「あの子···すごいね」
「先生ならどう見ます?」
「カミラちゃんと違うタイプの魔法剣士だね。カミラちゃんをバランスタイプとするならあの子は火力重視かな?」
「私みたいな?」
「アリスちゃんは純粋にパワーでしょ、覚えた魔法も強化系だったし。あの子は火炎系と相性が良いね」
「先生···」
「ん?」
「私、今度の休みに両親に会いに行こうかと思ってるんです」
「良いじゃないか、きっと喜ぶよ」
アリスと入れ替わりに先程の少女がルークに近づく
「お前が
あの二人の事かと思い、ツッコもうかとしたがその言葉を飲み込み対応する
「合ってるかどうかは分からないけど、ボクに何か用かな?」
「アンタならアタシの魔法を強くする事が出来るってババアが言ってた」
視線をレオンに向けると[頼むよ]と申し訳なさそうなリアクションをしている、どうやら言葉遣いと礼儀作法までこっちに押し付けたようだ
「ボクはルーク=ローディス。キミの名前は?」
「···ミリアム」
「それじゃあミリアムさんは剣と魔法を習ってどうなりたいのかな?」
「強くなりたい、オッサンよりもババアよりも」
「ボクの教え方は退屈だけど大丈夫かな?」
「ババアがアンタなら最短で強くしてくれるって言ってた」
ルークはミリアムの目をじっと見ていた、少女の目からは[怒り]と[自責]と[決意]が感じられた
「誰か、棄てても良い金属製の棒みたいなのはありますか?」
すると何人かが曲がってたり錆びたりしている金属の棒を持ってきた
「この金属の棒を皆なら
若い騎士達は口々に諦めの言葉を吐き、中には金属を加工してノコギリにしてから切るという案も出た
「正解は
その場に一緒に居たレオンは前に火炎系の魔物に剣を焼き斬られた事を思い出していた
「今から
身近な遊び道具を例に出されて騎士達の中には頷く者も少なく無かった
「どうすれば遠くまで飛ばせるかな?」
「小さい穴で勢い良く押し出します」
「そう、それが高圧の正体です。そしてその穴を更に細くして圧力を高くすると···」
ルークが金属棒に対して水を纏った手刀を横薙ぎにすると水煙が立ち上がり、真っ二つになる
「嘘だろ?水だぞ?」
「おいおい、基礎魔法しか使えないンじゃ無かったのか?」
「コレは
ミリアムはルークに
「なあ、炎でもさっきの様に切れるのか?」
「結果は一緒だけど理屈は別かな?手のひらにこうやって炎を出してみて」
ミリアムはルークの真似をして自分の手のひらに収まる大きさの
「へぇ、そこまで上手く使えるんだね。すごいよ」
「ババアに感謝かな」
「それと名前を知ってるならババアとかオッサンじゃなくて名前や先生って呼んであげてください、ミリアムさんも口汚く呼ばれたら気分良くないよね?」
ミリアムはアルテアの所に保護されるまではよく居るスラムの孤児で今は亡くなった姉と共に
「そっか···ごめん、ローディス先生」
「よし、じゃあその火の温度を上げてみようか。皆は炎は温度が上がるとどうなるかわかるかな?」
「え?炎って赤いままじゃないのか?」
「家が鍛冶屋だけどオレンジっぽかったぞ」
「そう、火は赤から黄色、そして色が薄くなる程温度が高いんだ。金属を焼き斬るならオレンジか黄色が望ましい」
「先生コレ難しい!全然色が変わらねぇ」
「じゃあ皆、ボクの右手を見て」
ルークは右手を刀印(握り拳から人差し指と中指を伸ばした形)にして
「今は普通に木を燃やせる温度、そして魔力を集中すると···」
炎の色がオレンジから赤味がかった黄色になりつつある。安全の為に離れていても熱気がビリビリと伝わる
「魔力で強化されてない限りほとんどの金属はコレで」
軽く指でなぞっただけでお湯で温めたナイフが冷やし固めたバターを切る様にスっと金属の棒を焼き切り、驚きと感嘆の声が溢れかえる
「切断面を触らないでね?えげつない火傷するから」
「先生!アタシにも出来るか?」
「大丈夫、出来るさ」
余熱で温かい手がミリアムの頭を撫でる。その様子をリズが遠目から見ていた
「どうしたの?リズ姉様」
「ルーク先生もレオン先生も凄いなって見てたの」
「分かる」
「さて、今週末に各師団長と副隊長を全員集めて緊急会議をするわ」
「何かあったの?」
「あったから呼ぶのよ」
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