第6話[罪と罰と棚ぼたと未来]
モンドはそのままルークが寝ていた部屋の隣に入るとそこにはルークの看病疲れで机に突っ伏して寝てるリズが居た
「やれやれ、看病疲れもあるのにキッチリ書面業務はやりきってるのな。リズ」
「···ふぁあい。なん
「お使いを頼みたい」
「わ
「せっかくルークが目覚めたから
ルークが目覚めたと聞いて数秒の間を開けて
「先生が!」
がばっと跳ね起きて隣の部屋のドアノブに手をかけようとした瞬間
「···っと、用件は何でしたでしょうか?」
「痛み止めとパン粥を頼···ぶふっ」
「そんなに笑わなくてもぉー」
「すまんすまん、オレは各方面に報告せにゃならんから後は頼む」
「はいっ!」
リズは部下に冒険者ギルドに報告を指示してからミネルバ騎士団寮に赴いた、途中目を逸らされたりしたが気にも止めずに一直線に向かって行くと中庭でカミラが新人相手に剣の手ほどきをしている
「カミラ!」
「リズお姉さ···ぶふっ」
「なんでカミラ達まで笑うの?」
カミラ達は笑いを堪えつつ
「用件は後で伺いますので、先に顔を洗ってください」
左ほほを指差し
「頬と髪にインクついてますよ」
「えっ!じゃあ使わせて貰うわね。あー、先生の意識が戻ったからとりあえず飲む方の痛み止めとバーニィにパン粥を用意する様にお願い」
「先生が!分かりました早急に用意します」
一方、エルンヴェイカー城ではモンドがエーリッヒ王子に謁見している
「ローディス卿が気づいたか!」
「マグナ・カルタの宝を失わずに済んで
「ベトナ鉱山を閉鎖して良かった、あのまま採掘させていたら被害は甚大なモノになっていた。今更だが
「殿下?」
「支度をせよ、見舞いに行く」
「畏れながら殿下、今行くのは愚策かと思われます。ローディス卿の性分をご存知でしょう」
「···そうだな、余が寝てろと言っても無理して起きようとしかねんな···ならば言伝てを頼む」
「御意」
その頃、騎士団詰所では
「先生、上体起こしますよー」
「うん、ありがとうアリスちゃん。寝てる間こうやって拭いてくれたのかい?」
「清拭とストレッチとマッサージは
「そうか、今度なにか御礼をしないといけないな。一つ聞いて良いかな?」
「何です?」
「店···どうなってる?それが目下の心配で」
「ご近所さんが心配してましたよ。事情は言ってますから大きな混乱はありませんでしたけど」
「仕事···溜まってるだろうなぁ」
「仕上げが出来なくて引渡しが出来ないからシルキーさん怒ってましたよ」
「帰りたくないなぁ···使うようで悪いけど、急ぎの分と仕事道具持って来てくれるかな···って、あれ?」
「どうしました?」
「清拭やケアをリズちゃんがしてくれたんだよね?」
アリスはそうですよって感じで頷く
「···そっかー···リズちゃんが戻ったら話があるって伝えて欲しい」
「分かりましたっでは行って来ますねー」
アリスは大八車を引きながら
(そう言えば何で先生は清拭の話してた時に顔赤くしてたんだろ?清拭···肌···裸?···裸!)
ルークがなぜ顔を赤らめてたのか
「そっか、そうだよね。男の人のケアするって···」
ルークが目覚めてから三日後、リズの介助付きではあるがリハビリを前提とした
「誰か、
「いえ、お気持ちだけありがたく。本来ならば帝国の国益を損ねた罪人です」
「そうか、ならば卿を咎人として余が裁決を下す」
「如何なる処罰も甘んじてお受け致します」
「ルーク=ローディスを終身刑に処す!」
謁見の間がどよめきだす
「城外での側近として余の権限で子爵位を与える。
どよめいた場内から一転、割れんばかりの拍手に溢れている、脇に控える衛兵も喜びを堪えて居る
「殿下」
「モンドか」
「素晴らしき名裁きにございます。かような刑罰は私も知りませぬ」
「そもそも
「ルークの養父に報告に行っときます」
「うむ、後は任せた」
そして翌日、リビルドワークスでは
「皆さん、納品が遅れて大変申し訳ございませんでした!」
「そんな事より先生が元気になった事がアタシらには嬉しい事だよ」
「もう半月だっけ?先生が居ないと町内が不便でなぁ」
「分かりました、見回りがてら直しておきます」
しかしルークが子爵になった事は町内の噂で持ちきりで
「でもよぉ、
「ボクは引越しませんよ」
「ほ···本当かい?」
「爵位だって皇太子殿下に呼ばれた時に平民だと登城するのに手続きに時間かかりますから暫定的な
「そんな事ぁ無ェ」
店の奥からドワーフのガンドールが汚れた顔を濡れタオルで拭きながら出てきた
「ベトナ鉱山にはワシの仲間も数人行っててな、閉鎖して無かったら今頃
「ガンドールさん···」
「でもさぁ、このまま店を畳むのかい?」
「畳みません、皇太子殿下にここでの営業の認可をいただきました。皆さんには不便をおかけしますが身体を治すのにまた戻らなければなりません、時間はかかりますがご容赦ください」
地域住民の歓喜の声が上がる
「そうなると子爵様には大事な仕事があるンじゃないかい?」
近所でも有名な仲人おばちゃんがしゃしゃり出る
「先生···子爵様も良い歳なんだしさぁ」
「あー、間に合ってるんで大丈夫です。それじゃあリズちゃん」
ルークの言葉に付き添いのリズの胸に痛みが走る
「···リズ?」
「あ、はい!」
「帰るよ?」
(そうよね、先生程のお相手なら私より沢山居られるものね···)
ルークの足取りは騎士団詰所とは反対方向の小高い丘の公園に向かっている
「先生?詰所は反対方向ですよ」
「こっちが良いんだ」
丘にある公園はそこまで高くは無いが帝都マグナスを一望出来る場所でもある
「遅くてごめんね」
「病み上がりですから仕方ないですよ」
「詰所じゃ言えない事もあったし」
またリズの胸に痛みが走る
「リズちゃん···いや、リーゼロッテさん」
「どうしたんですか?急に改まって···」
「騎士団長として忙しかったのに献身的に介護してくれてありがとう」
「そんな、当然の事をしただけです」
「もしもリーゼロッテさんが許してくれるなら···ボクの···」
「先生の···」
「ボクの
想定外の告白にリズの思考回路が
(今···何て?伴侶?妻?奥さん?嫁?あ、ウチのカミさんがねぇ?)
「こんな事って中々言えなくて、それに詰所だと大騒ぎするのも居るだろうし···ああ、返事は急がなくて良いよ?歳は離れてるし、リーゼロッテさん程の
リズにとって憧れの
「理由ってあるんですか?それともこの歳にもなって嫁に行かない私に対する憐れみですか?」
「
「それは当然ですよ」
「当然じゃないよ。身体の隅々
「それって私に恥をかかせた責任って意味ですか?そんな打算なんて要りません」
「そういう意味じゃ無いんだが···」
「私は先生だから···ルーク様だから出来たんです。歳の差とか身分とかじゃなくて···」
「リズ···」
「先生に愛されるなら騎士団長とかオルレアン家なんて要らない!私は···」
ルークはベンチに座ったまま両手を広げリズに対してハグを求め、リズもそれに応える
「本当ならそこでボクから抱きしめるンだけどなぁ···
「謝らないで」
「
「私が愛してる先生はダメなんかじゃないです。今でも輝いてる私の···」
「あー、団長ココに居たん···先生もどうして抱き合ってるんです?」
突然のアリスの
「ボクが無理してここの景色が見たいと駄々をこねまして、今座らせてくれてたンです」
「なぁんだそっかー」
「私、ちょっと水汲んで来るわね」
リズは丘の公園から少し降りた湧水の小川に向かう、アリスはそれを
「式はいつ頃ですか?」
「いつから見ていた?」
「先生がリズ姉と一緒に階段登って来た時からです」
「最初っからじゃないか」
「最初も何もここ、私のランニングコースですもん。2人が来たから思わず気配消して隠れちゃいましたよ」
「ボクは良いけどリズちゃんをからかっちゃダメだからね?」
「そこは誰にも話すなーとかじゃないんですか?」
「こういうのは遅かれ早かれバレるけど、まだ確定じゃないからね。余計な期待をさせたくないんだよ」
「アハハ、先生らしいや」
数日後、ルークは帝都内のとある神殿で司祭の相談を受けている
「墓荒らし···ですか?」
「正確には埋葬前の遺体を買い取る
最近、研究者と名乗り状態の良い遺体を買い取る集団が居るらしい、表向きは後の医学の為らしいがどうも後ろに危なっかしい連中が居るのでは無いか?と神官達は見ている
「
「それで、
「関係性が見えないのですが?」
「それが関係あるんだ」
事は騎士団指南役、剣聖レオンが港を歩いてると年端もいかない少女達が連れ去られる場面だったそうだ
「ルーク卿も過去にそういう経験があったからその話は嫌でしょうが、中には亡くなった家族を
「死んだ命を
「分かっている。問題はここからでな、剣聖と賢聖がその手の誘拐団を壊滅させたそうで」
「運の悪い奴等···いや、
「容疑が全ての宗派に向けられたのだ」
「それはとばっちりでしたね」
「それで卿に頼みたいのは[死体を動かす術の存在]があるのなら教えて欲しい」
ルークはそっちが本命かと得心がいった。確かに遺体を操る
ましてや生命や魂、倫理や道徳にうるさい神職の連中の一部が
「で、マグナ・カルタの神職はこの件に一切関わって居ないと証明出来ればよろしいのですね?」
「そこでルーク卿に伝えねばならぬのが壊滅した筈のメロリン教の残党の噂があるのだ」
メロリン教とは
「···聞きたくも思い出したくも無いのが出てきましたね」
「だが
ルークは相変わらず難しい顔をして司祭の話を聞いている
「奴等が
「聖クリストフには?」
「聖堂騎士団の手配も済んでいる」
帝都マグナスの北のとある貴族の邸宅では
「
「そのようですね」
「何を呑気にしているシーガル!このままでは貴様もタダでは済まんのだぞ!」
「まあまあ、誰も成し遂げ無かった
「そうだ!その為に帝国を騙し貴様を擁護し多額の寄付までしたのだ」
「それには感謝しております···が」
シーガルと呼ばれた神官風の男が指をパチンと鳴らすと貴族は数名のメイドに取り押さえられる
「ぶ···無礼者!何をす···る···」
貴族は背中に戦慄が走る、メイド達の目に生気が無く押さえられている手のひらからは体温すら感じられなかった
「シーガル!貴様!」
「私が
「や···止めろぉぉぉ!」
貴族の男は暴れて抵抗していたが次第に激しく痙攣した後に動かなくなる
「さて、早い所帝国を出ますよ」
「施設はそのままにするのか?」
「少々惜しいですが焼却します。ですがご安心ください、私が居ればどこでも魔法···いえ、神の奇跡は完成出来ます」
シーガルは白衣の剣士に向かい
「護衛と
「分かっている、さっさと逃げろ」
神官が部屋を後にするのと同時に数名の同じ白衣を着た剣士達が入って来る
「やれやれ結局ボクたちは捨て駒ですか」
「口が過ぎますよリッド、これも全てはタマーニ様復活の為」
「マズルカは
「タルカス」
「お呼びで?団長」
「お前を頭にリッドとマズルカで
「はっ!」
「ドニスとダッカは俺と共に囮として騎士団を迎え討つ。動きを封じて逃げろ、決して殺すな」
「不可抗力じゃ仕方無ェよなぁ?」
「ああいう仲間意識の高い連中は仲間が殺されると士気と怒りが尋常じゃねえ、逃げる隙を作るには殺さずに済めば良い。リッド、ダッカ、極力麻痺か遅効性の毒にしておけ」
「そういえばタルカスはどうした」
「アイツなら馬車の用意にいったよ」
「相変わらず仕事の着手が早いヤツだな!」
「それと···」
「まだ何かありますか?我々なら必ず···」
「元メロリン教徒が言っていた、
「無能に配慮?噂にしても取るに足りませんよ。では団長、国境線で」
帝都マグナスのエルンヴェイカー城に隣接する一般兵士用の訓練場兼闘技場で、新兵と同じ砂袋を入れた大きいリュックサックを背負って観客席の階段をゆっくり歩くルークとルークに着いて歩く
「
「これはオルレアン騎士団長。今日もあの様に階段を昇り降りしております、しかしよろしいのですか?」
「何が?」
「ピエール王子ですよ、護衛も付けず子爵の傍に遊ばせて」
「先生の教育方針だからほっといて良いわよ」
「あれが
「私の二代前の騎士団長が仰ってたわ『
「そんな意図が」
「軍曹は普通に先生の様に地道に階段を
「出来ますよ、
後日、軍曹は騎士団と兵士から相当恨まれる事になる
「第一回!チキチキ、闘技場の階段を歩きまっショー!」
城では見れないハイテンションのエーリッヒ皇太子殿下のタイトルコールで
「ルールは至って簡単、この闘技場の階段を一段ずつ昇り降りして何往復出来るかのタフネス勝負!尚、男性陣はハンデとして5往復毎に背中のリュックサックに砂袋を入れてもらい。段飛ばしをしたり動けなくなったら失格とする、以上」
ゼッケンを着けられ困惑しているルークがそこに居る
「なんでボクが?」
「それはそこで余裕の表情をしている軍曹に言ってくれ」
「それになんで冒険者や一般国民まで居るんですか?」
どうやら
「なんか簡単そうだったし賞品が魅力的で」
「···賞品?」
ルークの隣で入念にストレッチをするアリスが
「知らないンですか?冒険者ギルドから1ヶ月間ギルドの酒場のエール飲み放題なんですよ」
「そういえばリズちゃんの姿は見えないが?」
「
「
アリスは理由が分かってルークに向かってニヤニヤ笑う
「さあ?でもフェニクスはリズ姉の故郷ですし。ねえ、先生?」
「さあ?ボクもリズちゃんの事を全部知っている訳じゃ無いからね」
スタートラインである観客席最前列に参加者全員が立ち並ぶ。
「先生ー頑張えー!」
「ルークさん、エール1ヶ月飲み放題は
「コホン、それでは···」
スタジアムの中央には
「はぁじめぇぇい!」
ドォン!と大きな太鼓の音を合図とし競技がスタートするも数人の選手が数段で身動きが取れなくなる、その中にはディアナとアリスも居る
「ど···どうして脚が動けなくなるンだい?」
「何かのトラップ?」
困惑する選手達にアルテアは
「殿下が言ったであろう?
「皆、スピード勝負だと勘違いしすぎ」
係員のカミラが失格になった選手のゼッケンを取り外すと身体が自由になってその場にへたり込む
「うはー面目無い」
「リズ姉に顔向け出来ないよぉ···先生は?」
「先生ならもう最上段だよ」
「嘘でしょ?」
ルークは最上段に上がると軽く屈伸をして一段一段確実に手すりを使って降りる
「え?手すり使っちゃ
アリスの指摘にモンドが
「ちゃんとルール読め!段飛ばしと妨害さえしなかったら手すりを使おうが途中でストレッチしようが構わんと書いておる」
アリスとディアナは参加要項を見てみる
【[注意事項]今大会は
「···書いてたわ」
大会は予想を覆して短期決戦となりつつある。タフな騎士も鍛錬を重ねた兵士も歴戦の冒険者も飛び入りの傭兵もたった一人の魔法使いに追いつけないのだ
「あれ?どうしたんですか軍曹」
「アンタ化け物か?」
「これじゃあ大会にならなかったのぉ」
アルテアが呆れた顔で来賓席から見ている
「アルテア様」
「なんじゃルーク、文句でもあるのか?」
「いえ、賞品を変えて欲しいんです」
「あれ?お主下戸だったっけ?」
「1ヶ月飲み放題より、今日だけ参加者観客問わずに闘技場を会場に酒を振舞ってください」
ルークの申し出に観客から歓声が湧く
「しょうがないのぅ、カミラ」
「はい?」
「城下の酒屋から酒と肴を集めさせよ」
「了解しました」
ルークは何故か胴上げされて民衆から喝采を浴びている、エーリッヒはそんな姿を見ながら
「ローディス卿は完全復活と言って良さそうかな?」
「
唯一人アルテアだけはルークに対して厳しい目で見ている
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