第5話[生きる理由と生かされる理由]
一方、ルークの方はと言うと皇帝家の
「秘密裏に必ず治せ、勅命だ」
「しかしエーリッヒ殿下···皇帝陛下の許しは得たのでしょうか?」
「そんなもの後からいくらでも貰ってやるわ!早く手を動かせ」
典医は治療室に戻るが半ば諦めている。無理矢理回復魔法で延命してはいるが、強力な魔法は逆に毒になりかねない、かと言って今のままでは手の施しようも無く死を待つだけだ。エーリッヒ殿下の剣幕に押され無理だとは中々言えなかった
「全く王子も無茶を言ってくれる、こんな馬の骨にどんな価値があるんだか。とにかく手を尽くした事にするか、さすれば王子も諦めるじゃろう」
典医がルークの生命維持にしている自然治癒力強化の護符を外そうとした時
「ヒッヒッヒッ、それは
「大魔女ヘドリアラ様?」
「よいよい、普通ならヌシの様に諦めるわい。悪いがこやつの身柄は
ヘドリアラはルークを
「どちらに行かれるので?」
「このまま外に出せまい、数年も使ってない離れの馬小屋を使わせて貰う」
「馬小屋って···」
「逆に城内の方が気が散ってかなわん」
離れの馬小屋に到着するとアルテアとモンド、ロックスと女王キャロラインが待っていた
「ロックス、準備は出来とるか?」
「寝かせる器は木桶に銀を厚めにコーティングしただけだが
「まあ数時間でこれだけ用意出来たのは良しとしよう。キャロ、
「ローディス卿の治療と説明したら快諾してくれました。でもドライアドをどうするおつもりで?」
「我々生き物の呼吸とドライアドの呼吸の性質が逆なんで」
ロックスはコーティングした桶にPFC液をなみなみと入れてその中にルークを漬けながら説明をする
「実はこの液体は特殊で液体の中で呼吸が出来るんです、ただ維持する為にドライアドの清浄な息が必要なんでキャロライン様に頼んだ次第です」
「さて、一応準備は整ったかの?これからこのヘドリアラが治療の手順を説明する」
ヘドリアラの治療プランは内蔵及び感覚器官の修復、骨格、腹膜、筋組織、各種神経、皮膚の順番で
「二つだけ問題がある」
ヘドリアラはそのまま説明する
「一つ目は
「ルーク本人に生きる意思が無い。わざわざ陰腹を詰めたり人柱になろうとする愚か者が今更生きる事を考えてはおらぬじゃろうな」
「良くも悪くも
「それはワシの役割では無い、それにあの地下都市を調べねばならんのでな」
残念ながらこの場に居る誰もがルークに活力を湧かせる術を持って居なかった、たった一人の弟のロックスでは逆に最悪の事態を招きかねない
一方、帝国騎士団では鬼気迫るオーラを放ちながら黙々と業務を熟すリズに誰も近づけなかった。そんな中
「団長、お茶でーす」
「アリス?」
「お茶とお茶請けと···」
アリスはリズの机に書類の束を置く
「コレは誤字脱字計算違いで差し戻しされた書類です」
「え?そんなに?」
「そんなんじゃ仕事してないのと一緒ですよぉ?一度帰って風呂入って寝てください」
「そうね、コレじゃあ騎士団の士気に関わるものね」
リズが騎士団寮に戻る途中、疲れた感じのロックスと目が合った
「バッシュ卿?」
「ん、オルレアン団長か」
「先生は···無事ですよね、だって八大賢者が治してるんですもの」
「身体は治るよ、でも兄上に生きる意思をどうやって取り戻させるかが分からないんだ」
「そう···ですか」
「こんな時に力になれないなんてなぁ···」
「私が先生の傍に居ても良いですか?ちょっと仕事でミスしまして帰って休めと追い出されたんです」
「団長なら良いか、使われてない馬小屋を治療室にしてるからそこに行けば良い」
ルークが目を開けると真っ暗な空間だと認識出来る場所に寝かされている、空に浮かんで居るのか水の中に居るのかそんなフワフワした感覚の中
「こりゃ!お前どこから来た?」
驚いて後ろを振り向くと足下までスッポリ包み込む長いローブに牛か山羊の様な頭蓋骨の面で顔を隠し左手にはロウソクの入ったランタンを下げた、声で判断するなら老齢の男性の声に
「すみません、ボクはルーク=ローディスと言います」
「ルーク=ローディスぅ?あーちょっと待て」
ローブの男は懐から分厚い本···どうやら名簿らしいのを出しランタンの灯りを頼りに一枚一枚確認しながら
「ふむ、やはりそうか」
「何か不備でもありました?」
「
「あの先ってなんですか?」
「誰しもいずれは必ず
「えーっと···それはつまりボクが生きても死んでも無いって事ですか?そんでここは生と死とは関係ない別の世界···」
「ふむ、理解が早くて助かる。流石ワシのぉ···」
「ワシの?」
「な···なんでも無いっ!ついてこい未熟者めが」
ローブの男を先導に後を大人しくついて歩くルーク。暗闇に目が慣れると左に棺桶の倉庫の様なモノが見える
「あれは自殺したバカモノじゃ。良かったのぉ、お主はそこに入らんで···いや、一つ間違えばそこに居ったかも知れん。帰る前に説教じゃ」
「え?ボクが何したかご存知なんですか?」
「ワシは一応[神]じゃからな。存じておる」
「死神ってオチじゃ無いですよね?呪文がアジャラカモクレンとか最後にロウソクがどうとか」
「察しの通り死神じゃがそれは
「
しばらく歩くと人骨を固めた様な柱に大きな両開きの扉が見え、門の前に黒い馬に乗り血のように赤い鎧を着た騎士が二人を呼び止める
「お前ら。話は聞いておるが一応止まれ」
「公爵。こやつが言っておられたルーク=ローディスにございます」
「ふむ···小僧、あの御方からコレを預かっておる」
赤い騎士はルークに金の逆さ五芒星のペンダントを手渡す
「通行証代わりだ、それは我らの客の証。この門を出るまで外してはならんぞ」
ルークと死神は赤い騎士の案内で地下に案内される、時々小さい悪魔にちょっかいかけられるがペンダントのおかげで無事に来れた
「客を連れて来たぞ」
「ふむ、ご苦労」
黒革のボンテージに身を包んだ金髪女性が奥から現れる、よく見ると口はガスマスクをつけている
「お前がアタシ達をココに閉じ込めた忌々しいやつかぁい?」
「え?初対面で···あがっ!」
ボンテージの女はルークの口に指二本をぶち込む
「その辺にしろ水魔」
「フン、まあ昔の事覚えて無いヒョロガリをイジっても面白く無いものね」
「あ···りが···」
ルークはここの重圧に耐えるだけで精一杯のようで、それを察した大柄の丸っこい悪魔がルークに椅子を用意する
「お前座れ、コレ食うか?」
大柄の悪魔はコンプライアンス的にモザイクがかかる肉塊をルークに差し出す
「またの···機会···」
「さっさとしろ、腹立たしい!」
「騒々しいと思ったら炎魔ですか」
「その鬱陶しい口調は降天か」
「早くして欲しいンですよねぇ、
「知った事か!」
黒い翼の天使と赤い翼の悪魔が言い争ってる中ルークは段々と面倒くさくなってきており
(なんか、あの人達の都合で生かされるのなら面倒くさくなってきたなぁ)
しかしルークの思考がバレたのか
「分かるけどダメなんだよねぇ。キミはキミの
ルークはピンと閃いた、この重苦しい空気で喋れないなら頭の中で考えれば相手は理解してくれると思い隠し事せずに頭の中で考えてみた
(貴方達は考えてる事が分かってくれそうだからこっちで意思表示します)
「お、理解が早いねぇ」
(ありがとうございます。それでボクの責務って何ですか?)
「輪廻転生って分かるかい?」
(生けとし生けるモノは必ず何かに生まれ変わるっていう宗教観のアレですよね?)
「そう、それでお前は世界を
(すみません、話がデカ過ぎて分かりません)
「だろうね、だがお前は一度
(それだけですか?)
「
「ホッホッでは遠慮なく」
降天はルークと死神を鳥かごの中に押し込むとカラスの姿になって高く高く飛んで登る。到着した先はさっきまでの陰鬱とした世界とは異なり清浄で荘厳な感じでコレはコレで息苦しい世界だった
「貴方にはあの御方に会っていただきます。ですがその前にその焦げたみすぼらしい姿を何とか出来ませんか?頭の中でイメージしなさい」
ルークは要人に会う為のちょっと良いローブをイメージするとその通りに服が変わった
(そうか、物理じゃないからイマジネーションが大事なんだな)
「本当に理解が早くて助かりますが、決してあの悪魔の言葉に惑わされぬ様にお願いしますよ」
(全部聞いてから判断します)
とある湖の中央にある小島に建てられた神殿の前に二人は降ろされる
「水天様、お客様ですよ」
「中にお通しください」
(貴方は来ないのですか?)
さっきまで一緒だった死神は入ろうとしなかった
「ワシは呼ばれてはおらんからな。ここに居るから終わったら声をかけよ」
ルークが奥に行くと中庭らしき場所で1人の女性がロッキングチェアに揺られながら本を読んでいた
(綺麗な
「ありがとう。さて早速ですがお話しますわね」
水天と呼ばれた女性は淡々とルークについて語り始めた。ルークの魂のルーツは過去3つの並行世界を滅ぼした破壊者である事
そして4度目の今、世界に影響を与える5つの天使と8つの悪魔の力を魂に封じ現在数十回目の転生体がルークだと言う事
現世で魔法が使えるのは魂が封じた力が多少漏れ出しただけ、上位の魔法が使えないのはそもそも現世の魔法がルークが使える魔法の大幅な下位互換なので使えなくて当然だと言う事
『護った秩序』『抗った自由』『許容した多様性』そのどれもが世界を実現し行き過ぎて崩壊させたのは紛れも無いルークの過去世だと言う事
「だからと言って
(ボクはまたこの世界を滅ぼすのでしょうか?)
「どうかしら?
ルークはとぼとぼと神殿から出るとどうやって用意したのか1艘のカヌーが水面に浮かんで死神は乗り込んで待っていた
「意外と早かったのぉ、さぁ乗れ」
ルークが乗ると死神が指差す方向にカヌーが進む
(ボクはどうすれば良いのでしょうか?)
「それは分からん。だがこれからある方に会ってもらう」
(ボクの前の人が何かしらやらかした被害者ですか?)
「それは知らん」
ルークはそのまま何かに呼ばれた様に奥へ奥へと歩き出す。すると1人の男性···というか石膏で作られた人形がまるで生きているかの様に滑らかに動いている
「ようこそ[
(それはボクをからかって居るのですか?)
「愚かなヤツだ3度絶望したのにまだ希望を失わぬとは」
(1度目とか前のは知らないですけど)
「自分勝手な唯一神の支配から逃れるには根本的な破壊しかないと散々言っていたのにまだ分からぬとはな。どれだけ足掻いてもお前は神や悪魔、人間にさえ救世主と都合良くこき使われて裏切られ危険視され殺される人生を何度繰り返せば目が覚めるんだ?」
(それじゃあまるで[呪い]だな)
「そうだ、お前は呪われてる。だからこそこんな馬鹿げた世界を···」
「ボクはどれだけバカにされても良い」
ルークは腹の底に力を入れて言葉を絞り出す
「それでもボクはボクを必要としてくれる人を悲しませたくないんだ!」
「面白い事を言う」
「何がだ!」
「今、思い切り身近な人を悲しませているのに悲しませたく無いとは滑稽が過ぎる」
ルークの脳裏に両親と
「お前に三つの可能性を示してやろう。一つは
「ボクは選ばない、今を守るだけで精一杯ですから!」
憤慨してカヌーに戻ると死神は
「決めたのか?」
「決めたと言えば決めましたね」
「どうするね?まぁどっちみち忙しくなりそうじゃな」
「大それた事じゃ無いですが、
死神はかんらかんらと笑い
「そうか、そっちを選んだか!流石はワシの
「曾孫?ではまさか!先代時の賢聖ランドリット様?」
「いやはや、嬉しゅうてついバラしてしもうたわい。これからお前を現世に戻してやろう、お主が迷わぬ様にずっと手を繋いでおった恩人を
ルークはただ静かに頷いた
「この狭間の出来事を頭で覚えている事は無いが、その
(身体が重い···ああ、ボクはあの時爆発で吹っ飛ばされたんだっけ?
「お?目が覚めたか」
鮮やかな青く喋る
「そのままで良い、ゆっくり寝ててくれ」
「どのくらい寝てました?2日ぐらいですか?」
「確か···今日で8日目って所か」
「そんなに?1日ぐらいだと感じてたのに···あれ、なんでそう思ったんだろう···」
「ほら、アレだ死後の世界とかなんとかってヤツ」
「そうなんですかねぇ···でも何がすごく大事な事を聞いた筈···痛っ!」
思い出そうとすると眉間の奥からズキィンと鈍く刺さる様な痛みが来る
「大丈夫···じゃねえな。痛み止め煎じて持って来るように言っとくから何も考えずに寝てろ」
「すみません···」
「
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