第2話[探すモノと隠すモノ]

 ステュパリテスは入口から少し離れた広場に降り、ルーク達は二手に別れてそれぞれの仕事を始めた


「マグナス帝国騎士団です!責任者は居ますか?」


責任者監督は中に閉じ込められちまってる、お前本当に騎士団員か?」


 アリスは騎士団の紋章が入った短剣を見せ


「先遣隊の勅命を受けたアリス=ハミルです、災害復旧・救助の為すぐに救援部隊が来ます!落ち着いて指示に従ってください!」


 ルークは周囲を見渡し使えそうな資材を確認し、アリスを呼びつける


「アリス!」


「はい!何です?」


「今から作業員と一緒にそこの金網と角材を準備して貰えますか?」


「金網と角材でどうすんだよ」


 作業員が怪訝そういぶかしげに聞いてくる


「後続の騎士団員が揃い次第、ボクがトンネルの魔法を使い維持している間壁に金網をあてがって大雑把だいたいで1メートル間隔で柱とはりを作って貰えませんか?」


トンネル穴あけか。人足はいつどれだけ来る?」


「2時間ほど時間を貰えれば」


「さっきの鳥か?」


「いえ、特例措置で転移魔法ゲートの許可が出ましたので直ぐ到着します」


 作業員は歓喜の声をあげる。一方カミラ達は巻物スクロールを使い騎士団寮の裏庭と空間を繋げ、そこにはリズ達が待ち構えていた


騎士団長リズ姉様!」


「カミラ、先生から指示は?」


「入口が土砂崩れで塞がっていましたので力仕事が得意なメンバーと土木事業経験者を集めて欲しいと仰ってました」


「冒険者ギルドへ伝令!先程のメンバーを至急騎士団寮まで!騎士団員も直ぐ駆けつけよ!」


 リズを中心とした第二陣はモンドが固定した転移魔法ゲートを使い現場に急行する、騎士団の姿を見て作業員達から歓喜の声が上がる


に直ぐ来てくれた!」


「良し!野郎共、の為に気合い入れろ!」


 作業員の士気の上がり方にリズはあっけにとられ


「アリス···どうしたの?」


「あー、先生効果ってヤツかな?」


 アリスが指差す方を見ると報告とは異なり縦横5メートルで坑道の入り口までぽっかり空いた道が出来ている


「コレは···」


 リズについて来たモンドが驚くが、リズとアリスは全く驚く様子は無い。アレがルークのなのだから


「モンド師匠、先生の基礎魔法は普通じゃありませんから。で、先生は?」


「現場監督と一緒に一層目の中心に行って反響定位エコーロケーションで生存者探すって」


「アリスはここで作業員の護衛をお願い、私はモンド師匠と一緒に先生の護衛につくわ」


 モンドがリズに問いかける


「なあ」


「はい?」


「マジでルークって何者だ?」


「基礎魔法しか出来ないの先生です」


「規格外···ね、言い得て妙だ」


 のトンネルの魔法だと、たかだか直径2メートルで奥行きが数メートルでしかない。移動の補助的な魔法なのにそこまでされたら驚くのも無理は無い


 しばらく歩くと周囲をヒカリゴケの薄明かりに照らされた場所にルークと応急手当された現場監督に遭遇する


「先生、ご無事でしたか」


「ああ。これはリズにモンド様、これから探索始めますからしばらくお静かに」


 するとルークはカバンから音叉を取り出し地下に続く下りスロープに向けて


「天にあまねく語り部よ、我に見えぬまことの姿を教えたまえ[反響定位エコーロケーション]」


 術を唱え音叉を一度鳴らす


(術も術式も至って基本中の基本。なのに何だ、この気圧けおされる魔力は?)


 ルークを知ろうとしたモンドがあからさまに動揺するルークの態度に気付く···が、まだルークから調査終了の合図が無いので動けない


「監督、もう一度地図を見せてください。 リズも来てくれる?」


「はい!」


 ルークは監督が出した数枚の坑道の地図の複製に丸とバツの印を付けだす


「丸の位置は生存者、ケガをしているかも知れません。バツの位置は残念ながら犠牲者になります」


(待て待て、普通の反響定位エコーロケーションの範囲を逸脱いつだつし過ぎだろ!)


「監督、この鉱山は本当に地下三階までですか?」


「ああ、地下三階はこの1ヶ月前に到達したばかりだ。それに生存者と被害者合わせても5人足りない···」


 ルークは無地の紙に定規をあて方眼を描き、そこから取り憑かれたかの様に驚くべき速さで地図を複数枚作成する


「これが地下三階の正式な地図です、それとこれはその下の地下四階になります」


「四階?」


 地下四階の地図には残念ながらバツ印が五つ記されている


「先生···アイツらを地上に引き上げるのは可能ですか?」


 ルークは難しい表情をしながら


「二次災害を防ぐ為に災害対応に訓練されたチームとそれを護衛する手練てだれのチームが必要だと思います」


 ルークが監督を気遣って言葉を選んでいるのがモンドにも分かり


「コイツの代わりに言ってやる、地下四階を根城にしてる怪物の飯になった可能性がある。良くて遺品回収だろうな」


「モンド様、すみません」


「当面、安全面を考慮して採掘は地下二階まで。それと地下四階の存在は陛下と八大賢者オレ等と高ランクの冒険者で共有シェアする、それで良いなルーク?」


「···分かりました」


 倒れそうになるルークをリズが支える


(基礎魔法とは言えあんな広範囲に使ってたらバテるのも無理は無ェからな。しかし、これが本当に無能な魔法使いなのか?俺にはそうは見えねえ)


「とにかく外に出るぞ、救助の編成をしなきゃならんからな」


 バテたルークを鉱夫寮のベッドで寝かせ、モンドはリズを呼びつけた


「どうかなさいましたか?」


「ルークの見方を改めた方が良いな」


の先生はすごいでしょ」


「そうだな、アイツは基礎しか使えない訳じゃない」


 モンドの言葉にリズが困惑する


「え?でも先生は基礎以外他に魔法を使った事無いですよ」


「そうじゃない、基礎以上の魔法を覚えるんだ」


「必要が無い?」


「さっき反響定位エコーロケーション使ってただろ?」


 リズは軽くうなず


「その時発した魔力の質は八大賢者オレ等···いや、アルテアと並び立つ程強大だった。コレはオレの仮説なんだが···アイツは天賦の才の持ち主ギフターズなら納得出来る」


天賦の才ギフターズ···ですか」


「オレが見る限り[強化]と[魔力量]は間違い無ェな」


「では先生は無意識に魔法強化を?」


「だろうな、そうでないと説明がつかん。まあ知っててもアイツは努力は怠らなかっただろうな」


「怒ってます?」


「ルークの資質を見抜けなかった自分自身にな。本来ならアイツはバッシュ家の当主になっててもおかしく無い」


「バッシュ家って古参貴族の?先生が?」


「知らなかったのか?」


「先生はご自身の事は言わなかったもので」


「まあ、あんまり大っぴらに言うモンでも無ェがな」


 その時ドアの外からノックする音がしてリズの了解のもとアリスが入って来た


「報告します!作業員生存者救出完了し、転移魔法ゲートにて帝都総合病院へ搬送完了。翌日、司祭による犠牲者鎮魂の儀を執り行うとの事です」


「第三陣の布陣はどうなってますか?」


「冒険者ギルドより捜索をメインとした布陣を複数派遣するそうです」


「分かりました、これより朝まで現存する団員を4つに分け入り口を警戒。アリス達先遣隊は朝まで休息してください」


「え?アタシはまだ動けますよ。それに団長だって」


「私はこれから食事をとって休むつもりでした、明日から忙しくなりそうですからね」


 そこでまたノックされ、今度はバーニィが駆け込んで来る


「すみません!あの、先生がモンド師匠を呼んで欲しいと言われましたので」


「オレだけ?」


と話がしたいと···」


「···分かった、直ぐ行くと伝えてくれ」


 モンドはリズとアイコンタクトを取りルークの居る部屋に向かった


「よぉ、もう起きて大丈夫なのか?」


「ご心配おかけしました、早速ですが」


 ルークが指を[パチン]と鳴らすと部屋の壁や天井や床まで魔力が行き渡る


振動遮断エリアミュートとは念入りだな」


「昔から聞き耳を立てたがるが居るもので」


「で、オレに話って?」


 ルークはテーブルに1枚の図面を出す、それはベトナ鉱山を縦にしたものだった


「まず、モンド様に謝罪をします。あの時は余計な混乱を招かない様に最低限必要な事しか言えませんでした」


「地下四階の件はギリギリの所だったんだろ、それでは?」


「実は自然洞窟の地下四階より下があったんです」


 ルークは小規模の街の地図を取り出した


「これは我々から見て地下五階と思われる地下都市です。そしてその下がありまして」


 もう一枚、紙を出すそこには城らしき絵が描かれてあった


「ボクの実力不足で大雑把な外観でしかありませんが、ベトナ鉱山の地下には広大な遺跡、もしくは帝国とは別の王国が存在すると思われます」


「いや、どんだけ効果範囲拡げたンだよ」


 そりゃ倒れもするわ、と呆れた感じで話を聞いている


「可能性として一つ、過去の遺跡で土着の怪物が住み着いている。二つ、新旧に関わらずドワーフの居住区。三つ、帝国を狙う諸外国の拠点」


「なあ」


「はい?」


ルークお前主導であの遺跡を解明してぇって思わねぇの?」


「あっはっはっ、ボクはしがない裏路地の修理屋ですよ?ボクにそんな度胸も甲斐性も魔術の才もありませんし資格もありませんよ」


「オレはそうは思わ無ェがな。それに遺跡の発見者はその所有権を得られるのは知ってンだろ」


「知ってますよ。それにここは帝国が国有地に指定している鉱山ですから国に所有権がある筈です」


「欲の無ェヤツ」


「失礼な、ボクだって欲の一つや二つありますよ」


「お前に三大欲求食う寝るヤるの他に欲があったんか?」


「ボクに関わる人と生徒や子供達を悲しませたくないンです」


「くぁー!良い子ちゃんすぎて痒い痒い」


「ノミでもつきましたか?」


「うるせぇ!」


「冗談はさておき、帝国図書館の利用とドワーフとの事実確認の要請をお願いして良いですか?」


「条件次第かな?」


「王子の家庭教師の件は既に発注済ですので他にボクの出来る範囲であれば」


「いっぺんバッシュ家に顔を出してやって欲しい」


 モンドの提案にルークの顔が哀しみに歪む


「何の厳罰ですか?そこになんて無いのに」


「本当にそうか?」


「そうですよ、ボクはあのマグナ・カルタ開闢かいびゃくからの古参貴族のバッシュ家の面汚つらよごしなんですから」


「それはお前だけが思い込んでるだけだ」


「事実ですよ、事実だからボクがローディス家に行った時の両親の態度は今でも覚えてます。それが条件とするならば遺跡の件は現場監督に委任します」


「わぁかった!分かったからそれだけはマジでやめろ。心底嫌いなんだな」


「違いますよ、じゃなくてンです」


(コイツ、こういう所だけは金剛鋼アダマンタイトよりかてぇンだよなぁ)


「分かった、今回は俺が折れる」


 モンドの独断ではあるが今はまだ地下王国の存在は秘匿されねばならぬ。一目置くルークの想定だった場合、最悪戦争にまで発展しうる可能性もゼロでは無いからだ

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