第8話 思考を止めない探偵の推理は正しいか?

 細やかな秋の寒さを残す探偵事務所にて。

 解人はできたてのコーヒーを飲みながら、テレビを見る。


『スペクターは、どうして名無路千尋という少女を標的に挙げながら、他の少女たちを殺しているのでしょう?』

『それは、おそらく名無路千尋が見つかっていないからでしょう。彼が彼女をおびき出すための作戦みたいなものなんじゃありませんか』

「……またか」


 テレビはスペクターの話題でいっぱいだ。

 コメンテーターとニュースキャスターたちがもっともらしいことを口にしている。大題的に千尋さんを上げていてニュースもスペクターで持ち切りだ。唯一の救いは俺の探偵事務所に記者が来させないよう暮部警部が補助してくれている点か。


「……何がしたいんだ、スペクターは」


 解人は頭を掻く。解人にとって今のスペクターの動向が読めないでいた。

 彼は殺すと決めた者は即刻殺す殺人鬼。

 今までの彼の殺人経歴的に考えてどう見ても怪しい。解人はコーヒーにミルクと砂糖を入れてスプーンで軽くかき混ぜてから口にした。喉でコーヒーを嚥下えんげしてから、解人は推理を始める。

 

「まず、スペクター自身に複数犯がいるはずはない。もしその可能性があるとすればスペル教の若者たちが模倣犯を行うような輩であって本人じゃない。実際のアイツは、大型ビジョンの画面をジャックしてまで千尋さんの殺害予告を出した……協力者は間違いなくいるのは明白になったのも事実だ」


 コーヒーのカップをソーサーに置き、冷静に、探偵として思考を深める解人。

 ……協力者が、スペル教の人間か。それとも彼を崇拝する信者か。

 猟奇殺人鬼を信仰したり模倣犯もほうはんとして行うやからめずしい話じゃない。

 だとしても、だ……何かがひっかる。なんだ? この違和感は。


「……アイツは、連続猟奇殺人鬼。ただ一人で世界の注目を集める、ただの異常者に過ぎないんだ」


 人の心を持っている者が、殺人を行うはずがない。

 殺人を行う人間をとうとぶことなど、道徳的にありえないはずだというのに。どうして人々は殺人鬼の模倣をしようとする輩が世の中にいるのか、その理由は、今の自分にだって理解できない。

 大切なものを奪われた経験がないから、そんなものに興味が湧くんだ。


「はやく、スペクターを捕まえないと、千尋さんまで殺されてしまう……それだけは絶対に阻止そししないと」


 回転椅子に背中を持たれながら、解人は重い息を吐いた。

 大概たいがいある理由なんて、「ただ殺したかったから」、「殺す経験を得たかったから」、「気に入らなかったから」……そんなくだらない理由で人を殺す輩が増えていると思うと頭が痛い。

 最近ならば警察も不祥事を行う輩も大分増えた。人である前に警察、という昔の人間性の高いあり方よりも屑ばかりが増えてきている。

 漫画やアニメ、小説やゲームといった類に影響を受けたからとか変な建前を理由にして自分の行いを正当化する、本当にそういう輩もいると思うだけで腹立たしい。


「カイト、さん?」

「……千尋さん、どうしたんですか」

「いえ、怖い顔、してたから」


 千尋さんはモフモフな白いパジャマを着ながら扉を開けてこちらを見る。

 不安げにこちらを見る千尋さんを怯えさせたことを反省し、小さく笑った。


「大丈夫ですよ。私が絶対に千尋さんを守りますから」

「……カイトさん、頑張りましょうね! 絶対、スペクターを捕まえましょう!」


 千尋さんは両手で小さくガッツポーズをし、幼い少女のような仕草をする。

 ああ、いつも通りの千尋さんだ。よかった。

 ……まだ可憐な少女の将来を、こんなところで終わらせてなるものか。


『臨時ニュースです、スペクターの殺人を行う模倣犯が逮捕されました』

「え!?」

「……なんだって!?」

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