第6話 追加依頼
後日、日廻探偵事務所にて。
「……カイトさん、すみません」
「なんですか、仕事ですから気にしないでください。これで六度目ですよ」
「でも、やっぱり不安だから事務所で保護してもらいたいっていうのは、ワガママかなって」
解人はスーパーの安いコーヒー粉を使ったコーヒーを飲む。
当然、依頼は既に受け入金は後日確認するつもりだ。
「家族がいない自宅にいるより依頼を受けた俺の事務所にいた方がまだ安全でしょう。襲撃への心配は少しは減りますし……事務所の前には、彼らもいますから」
暮部警部から聞いた話で、いいニュースは警察と連携をとれるようになったこと。
より、俺の事務所は彼女にとって安全地帯と化している。いいことだ。
「……でも、警察って殺人予告を出されたとしても、一人の女の子を特定のホテルに泊めさせるー、なんてことはないんですね。知りませんでしたっ」
「それは警察の仕事の範囲を超えてますよ。貴方が相当の金持ちでボディガードを雇うなら話は別ですが」
「……え、えへへ。お父さんからのお金がお小遣い制ですので」
頭を掻きながら、恥ずかしそうに笑う彼女の仕草はまだまだ学生だ。
……父親がデイトレーダーなのは知っているとはいえ、こういう時に父親が海外にいるとか、どんだけ不運なんだこの子は。
俺はあくまで探偵、依頼人の仕事をこなすこと。
同時に、俺は探偵として自分の復讐を果たすために彼女を利用する。
利害関係は一致しているのだから何も問題はない……が。
彼女の前では口にできない情報もある。
「……まぁ、自分の命は変わりがありませんからね」
俺は窓にあるブラインドの隙間に指をひっかけて外を見る。
悪いニュースは、名無路千尋の友人である少女が一人、殺されたことだ。
同級生の美術部らしい。なんでも彼女の死体は制服姿で顔面を抉られ、両手の手の甲に少女の両目があり、胸元には薔薇を置かれ指先に舌が飾るように置かれていた。
……なんともまぁ、
「世の中、いくらでも代わりが利くじゃないですか」
「……急に、なんです?」
「だって、その人だけの特別なんてその人に興味を持って、関心があって、初めて代わりが利かないなんて口にしているだけで、その人や物にそう感じないその他大勢の他人にとってはどうだっていいことじゃないですか」
「まぁ、興味がないなら、って話にはなるでしょうけど……」
「そうですね、本当は興味がないから人は簡単に裏切ったりするんですよね。たとえ、将来一緒の仕事を頑張ろうって約束した、相手であろうとも」
普段の温厚の彼女の言動から、闇が垣間見えてくる。
まぁ、友人を殺されて滅入っているんだろうが。
「……はい?」
「え? いませんでした? カイトさんには、憎くて腸煮えくり返るように憎い人が」
「……私は男ですから、あんまり女性の心情には詳しくないので」
「あ、最近ならあんまり男だからーっていうと後々面倒ですよ? LGBTがなんとかーっていう人、カイトさんの若い頃より比べて多いらしいですし」
「……はぁ」
指を立てながら不満そうに頬を膨らませる彼女に自分は頭の後ろを掻く。
多様性というのなら、そういう価値観も理解されずにただ特定の意識だけを尊重して、伝統や歴史などといった文化の破壊に走る方がどうかと思うが。
世の中には昔からある言葉がコロコロ若者たちに変えられて行っている気がする。わかりやすい例を挙げるならばだが、例えば、大根足とかもきれいな足という意味だったのが、今では大根役者の方に引っ張られて罵倒に感じる人が多いのが現状だ。
誇らしく思うべきか、悲しく思うべきか……まぁ、探偵業を営む自分にとってはそこまで気にする内容でもないか。
「とにかく、ここにいれば安全ですよ。千尋さん」
「はい、本当にありがとうございますカイトさんっ」
彼女の無邪気さを嫌う人間はあまり多くないだろう。
スペクターを逮捕するためにも、彼女との関係は良好に保たなくては。
「出前とか取ります? 寿司とか」
「あ、だったら私はハンバーガーがいいです」
「……ジャンクですねぇ、若いうちに高血圧になるんじゃないですか?」
「えー!? そんなことないですよぉー!!」
胸に
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