ガサツだと勘当された男爵令嬢、道端でクール系男子と出会いテゥクンする

安ころもっち

思い出した……

あれは14才の時だった。

私はいつものように仲良くしている貴族令嬢たちとお茶会をしていた。


来年からはいよいよ成人した貴族令嬢として社交界デビューする私たちは、洗練された作法で紅茶を嗜み、ホホホウフフとどうでも良いことを話して時間をつぶしていた。

そこへやってきたのはいつも生意気な兄とその取り巻き達。


偉そうに邪魔だと囃し立て、いつもは私たちがその場を明け渡すと、侍女たちが忙しなくテーブルなどをかたずけはじめお茶会はお開きになる。広い庭の一角だというのに……

空いた場所で遊べば良いのにそうしないのは、どう考えても嫌がらせである。


いつもはオロオロしてしまう私だったが、その時は震える手にグッと力を籠めて「おやめくださいお兄様、あちらをお使いになれば良いでしょう?」と震えながら言ってみる。

いつもと違う私の反論にワナワナと怒りに震える兄を見て、ひっと声を出してしまう。そして私は兄に突き飛ばされ、地面を転がり頭を打った。


「あー痛ってー!」

つい口が勝手に動く。


そして思い出してしまった。

覇王と呼ばれ恐れられたレディース集団、『我神奈川乃覇王也ワレカナガワノハオウナリ』の初代にして絶対君主、18才で神社の石段で足を滑らせ死んでしまった悲しき18才の乙女だった前世を……


そして、フランソワ・アンデーヌと言う今世の記憶と同居する現状に「あ、これあれだ。弟が呼んでた漫画の異世界転生ってやつだ」とそう思った。


スッと立ち上がる私を見て、兄たちはニヤニヤとこちらを見ている。

そして私はおもむろに拳を胸の前にかまえ、腰を低くかまえてファイティングポーズをとる。その姿に兄たちはギョッとして身構えるが、遅い!遅過ぎるんだよ!


私は軸足に力を籠めると前世以上の何かを感じ、体が動き出すと兄のすぐ目の前まで移動した。すげーな私の体!

そして私は兄の頬に右の拳を振り抜いた。


ドウンドウンと刎ねるように吹き飛ばされる兄。

それに慄く取り巻きの2人。

そして侍女やお友達の令嬢たちも同様に引いているようだ……やっちまったかな?


侍女の1人が兄の元までたどり着くと、右手で抱えるようにして上半身を起こし、そして左手をかざすと緑色の光が兄へと注がれた。そして修復される兄の壊れた顔面。ああそうか。この世界は魔法が使える世界なのか。


そう考えると先ほどの私の動きはいわゆる身体強化というやつだろう。前世以上に素早く力がこもった拳を放つことができた。これがあればきっと世界チャンピオンにもなれただろう。


そしてその夜、私はクソ親父に呼び出され説教された。


「お嬢様は悪くありません!」

震える声で私の前に立ったのは、専属侍女のアリスであった。


アリス。可愛い名前だよね。

私のフランソワも可愛いけどさ。私には似合わないよ?私は木梨勝子キナシカチコという名前だったからそっちの方がしっくりくる。とは言え今は金髪くるくるの縦ロールだ。カツコじゃ恰好が付かないなとも思う。


「侍女ごときが!俺に盾突くってのか?」

そう言ってアリスに詰め寄ってくる兄。


そういえば兄は良くアリスの尻を触ったりしていたな。そう思ったら無性に腹が立ってきた。私は兄の頭をガシリと掴み、そのまま持ち上げる。


「ウガガガガ!放せ!何をする!無礼だそ!」

「うっせー!何がぶれーだ!お前は私と同じ貴族だが爵位なしじゃねーか!」

そう言って今世の記憶を頼りに言ってみる。


「やめんか!エルヴィーノは次期当主になる!お前とは違うのだ!」

クソ親父、ガヴィーノ・アンデーヌがそう叫ぶ。


仕方なしにケッと言い捨て兄を投げ飛ばし解放する。

また兄のお付きの侍女が回復魔法をかけていた。私もできるかな?まあ私に傷を負わすような猛者はいないだろうが……


「大人しいお前はどこに行ったのだ!人が変わったようだぞ!なあ、悩みがあるならアリスやセバスにでも言うが良い。可愛い私のフランに早く戻っておくれ?」

そう言って気持ちの悪い笑顔を向けてくるが……生理的に無理かもしれんね。


ちなみにセバスはこの男爵家の家令である。きっと悪魔の力などがあるかもしれないから注意しなくては……そんあ前世の知識で無駄な気を張ることになる私。


「私は何も変わってはいないですわ。ただ、今までの横暴に我慢ができなくなっただけだですわ親父殿」

精一杯の敬語を使って答える私。


「おやじ、どの?」

混乱させてしまったか?確かにいつもを御父上とか言ってたが、さすがにそんな呼び方もこっぱずかしい。何より母が居るのに別の女を侍らせている変態親父にはそれでも自重した方だと思っていた。


「ちょっと思うところがあってな。もう親父殿で良いかなと。それが駄目ならクソジジーになるかもですわ?」

「クソ……ジジーだと……」

あっ、ちょっと顔真っ赤だけど。血管大丈夫かな?頑張れ血管!まだ死ぬにははえーぞ?


「お、お嬢様、さすがにそれは謝った方が良いのでは……」

涙目で顔を赤くしたアリスが縋り付く様にそう言うが、うーん、可愛いな。これは、自分が罰せられると思って不安なのかもしれない。


「大丈夫。何があっても守ってやるからな」

「お嬢様……」

そう言って顔を赤らめ体を密着させてくる。


かなり育った胸をグイグイ押し付けてくるあたり、前世の親衛隊の英子を思い出すな。英子は多分ガチだったから同じような視線に身の危険を感じる。あいつは風呂に一緒に入ったらかならず鼻息を荒くして揉んできたからな。


「英子、じゃなかったアリス?私はその、ノーマルだからな?まあ男なんて今は考えられないが、だからと言って女もちょっと……だから勘違いとかはしないようにな?お前もまだ若い。自分の身は自分で正せ?」

「ノーマル?」

「そう。ノーマル」

「ノーマルとは?」

「つまり、なんだ……その女性同士でな?」

誤解をされないようにゆっくり説明している私に、耳をつんざくほどの声が聞こえた。うっさいな今大事なところ!


「お前は聞いているのか!」

「あ、ごめんごめん。聞いてなかったからもっかい言ってよですわ親父殿!できれば短めにどうぞ」

私がそう返すと親父殿はまた顔をぷるぷるさせている。いい加減、血管切れっぞ?


「おまえはもう、出ていけー!娘でもなんでもないわっ!ガサツで愚鈍なお前を他家に嫁など行かせられるか!勘当だー勘当!もう二度と戻って来るな!」

あっ……そう言っちゃう?言っちゃうのか……そうか……


少しだけ悲しくなったが、すぐにそれ以上の怒りが込み上げ悲しみを上書きしてしまう。


「そうかよ!そう言うならしかたねーな!こんな家、今すぐ出てってやるよ!後から帰ってこいって言っても知らんからな!そのクソ親父!」

「く、クソ親父だと!」

「そうだよクソ親父!」

「なんたる侮辱!このガサツなクソ娘が!」

「なんだとー!このハゲ!つるピカはげ親父!アブラギッシュデブチビがー!」

つい言ってしまった買い言葉にさすがに言いすぎたかな?と思ったら、目の前の親父殿は口を大きく開け涙がツーっと流れそのまま後ろにひっくり返った。


さすがに少しだけ罪悪感が胸を締め付けるが、すぐに気持ちを切り替える。あのクソ親父殿は合意の上の女を侍かすばかりか、嫌がる侍女たちの彼方此方と撫でまわしたりしてたからな。

とんでもない変態クソ親父だったと今なら言える。


「アリスすまん。すぐに家を出るから多少の着替えの準備を頼む」

そう言って部屋へと戻る。


手早く衣服を鞄に詰めている間に、ドレスを脱ぎ捨て動きやすい普段着に着替える。そしてアリスが準備したバッグを手にして「世話になった」そう言って部屋をでる。いや、出ようとしたんだがバッグが動かない。


バッグを見ると、アリスが頬を膨らましながら必死でバッグを掴んでいた。


「アリス?」

「私も、お嬢様にお供します!」


私は行く当てもない金もないと現状を諭す様に伝えるが、「私も少しならお金を持ってます!むしろお嬢様は無一文じゃないですか!」と逆に説教されてしまった。

確かにそうだ。そう思って何度も「後悔しないな?」と確認するが、アリスの意思は固かった。


そして屋敷を出ようとしたのだが、玄関には母上がいた。横にはセバスも立っている。


「フラン。話は聞きました。後悔はしませんね?」

「ああ。母上殿もお元気で。たまに気が向いたらこっそりと会いに来ますですわ」

母上はふふっと笑って抱きしめてくれた。


目から汗が……

私はズズズと鼻をすすると、セバスが真っ白なハンカチで鼻を挟むので遠慮なくブビビビと鼻をかんだ。


それを笑顔で見るセバスに、"こいつ変態じゃないだろうな?"と思ったところで金貨を10枚ほど手渡された。これは私の鼻水と交換で獲た金か!そう思ったところで母上に頬をつねられた。


「な、何ふふんでふは母ふへはは!」

「何か変な勘違いをしているようでしたからね。セバスは紳士でしてよ」

「ああ、うん」

どうやらセバスは母上殿も認めるほどの紳士な変態だったようだ。いだだだだ!再び頬をつねられ、ちゃんとした紳士だったと思いなおす。母上殿は心を読み取れる魔法でも使えるのかもしれない。摩訶不思議異世界ワールド。


こうして、私は着替えと金貨10枚、そしてアリスという可愛い侍女を連れ、家を出た。目的地はそう、この街の冒険者ギルドだ。私のできることは戦うこと。それしかできない不器用な女さ。そう思ってアリスの道案内でギルドへ向かった。




あれから1週間。

無事生きています。


冒険者ギルドに登録する際は、厳つい男パーティにナンパされたが、さくっと断り憤慨した相手の手足を折って切り抜けた。アリスの尻に触った男は特に念入りに指を折っておいたから、もうおいたをする冒険者はよそ者以外いないだろう。


そんな私は『暴君令嬢』と呼ばれているようだが、なぜにアリスが『聖母アリス』と呼ばれているかは分からない。折れた指を回復魔法で直したからだろうが、正直ちゃんと位置を修正してから直していないからずれてるんだが……


アリスもそれは分かっているようだが、「ギャーギャーうるさいからこのぐらいなら良いかなって」と可愛く首をかしげるのを見て、若干の恐ろしさを感じた。

私もさすがにズレた指を見て可哀想になり、善意で「もっかい折ってくっつけようか?」と笑顔で言うと、顔を青くしてひっくり返ってしまった。失礼な奴だと放置してその場を後にした。




街のダンジョンで快進撃を続ける2人。


私は身体強化の他に、石の礫を放つ土魔法が得意なようだ。前世の知識も相まって石礫にらせん状の溝を作るように生成し回転させるように飛ばしていた。これで魔物の眉間を打ち抜けば一撃で仕留めることができている。


アリスは回復魔法に水魔法。アリスの出す水は純水で井戸水より美味しい。戦いは私に任せてレベルだけ上げて行くスタイルだ。


私たちは目立ちに目立ちまくっていたが、前世でも男を毛嫌いしていた私は暴君令嬢の二つ名にも負けず言い寄ってくる男たちに、ガンを飛ばして追い払っていた。

そんな中、ギルドを出て美味しい茶店へアリスと歩く私。


アリスと今日のアイアンボアの頭は固かったやら、今度美味しい焼肉食べにいこーぜ!と言った話をしながら歩いていたが、何かにぶつかりドサリと人が倒れる音がした。


「あっすまんすまん。ちょっとよそ見してたわ。大丈夫だった……か……」

私は立ち上がろうとしている優男に、テゥクンした……


いや、何がテゥクンだ!私は!男なんかに!惑わされたりしなーい!


「大丈夫だ。じゃあ」

そう言って私の顔をチラリと見た後、その金髪イケメンはパタパタと裾を叩いた後、執事の様なおじさんと一緒に行ってしまった。


「ふう」

大きく息をはき心を落ち着ける。


なんだ、あれは。私をほとんど見ずに行ってしまった。

見た感じ多分貴族だろうが、普通の貴族ならこんな平民冒険者丸出しの私がぶつかれば「無礼だぞ!」と騒ぎ立てるだろうに……そうだ、きっと私はそんな予想外のことに戸惑ったのだ。


決してテゥクンしたわけでは無い!

そう思いなおして再度深呼吸を繰り返していた。


「お姉様、大丈夫ですか?」

最近はすっかりお姉様呼びとなったアリスに、何でもないことを伝え夕飯を食べて宿へと戻った。




「だめだって言ってるだろー!」

翌朝、私は大きな悲鳴をあげながら目を覚ます。


なんて夢を見てしまったんだ。

昨日会ったあの男と、くんずほぐれつとんでもないことをしている夢を……私はそんな自分の顔面をガツリと殴りつけ、その痛みで頭が覚醒する。鼻から流れる鮮血も今は自分への戒めとして流しておこう。


そしてまだ揉みしだかれている胸の感触に、私は欲求不満だったのか?と恥ずかしさに顔がなお赤くなる。そして胸元を見る。


「おいアリス。何をやってるのかな?」

「えっ、お姉様鼻血が!」

そう言って左手を私の顔に向け緑の温かい光が私を包む。


「アリス。ありがとうだけど右手を離せ」

「えっ?」

「いいから離せ。今なら怒らないから」

「はい……残念無念です」

そう言って私の胸をもみもみとしている手を離す。手を放す瞬間に軽く頂点を指でこするのでやはりゲンコツを落としてしまった。


まったく……変な声が出たらどうするつもりだ。

やはりさっきまで見ていた変な夢はアリスのせいだったんだ。私は正常だ。そんなことを思いつつ冒険者装備に着替えて食堂へと向かった。


気を取り直して遺跡へもぐる。

最近品薄で買取価格の上がっている火猪を大量に狩るため、12階層までダンジョンの入り口から召喚陣で移動する。


そこそこ人がいるが、広大な草原をアリスを背負って移動する。

暫く歩くと周りに人がいなくなり、アリスがまた胸を揉みだしたのでその手をつねって投げ落とした。


「お姉様痛いですー!」

「アリスが変なことするからだ!なんだ昨日から!」

「だってお姉様、昨日からメスの匂いをただよわせてるから……」

私はアリスの頭にゲンコツを落とした。


涙目になりながら回復魔法を使うアリス。

すでに周りを火猪に火猿、風鼬が集まってきていた。


「バースト!」

その掛け声でおよそ20発の石礫が飛び散り、正確に魔物達の眉間を貫いてゆく。


レベルも上がり体力と魔力を増えた私は、さらに魔法の制御がさえわたりこのぐらいの魔物では物足りなくなってきていた。

とは言え、今でも十分に生活できている。

泊まっている宿はこの街でも一番の高級宿だ。


そんな宿も一生泊まるだけの資金はとっくに貯まっていた。

さらなる敵を求めて中心都市エッサラムにでも行ってみようか?とも思うが正直迷っている。


現状この街の生活は楽しい。

畏まった貴族生活から解放され自由な毎日。街の茶店は美味しいスイーツにあふれている。前世の知識のある私にも美味しく感じるほどスイーツ文化は発達しているこの世界。


異世界チートと言う弟の漫画にあるようなことをやろうとしても、残念ながら私が作れるのはパンケーキかパウンドケーキ、蒸しパンぐらいだ。かろうじてカスタードプリンとかも作れるかもしれん。

だがこの世界にはすでに美味しいプリンも数多く存在していた。とても素人の基本プリンじゃ太刀打ちできない。きっと異世界転生で知識チートなんて漫画の世界だけの夢物語なんだろう。


そう思うことにした。


私は前世ではお菓子を作るより血溜まりを作る方が得意だったからな。


そんな考え事をしながらも次なる獲物に石礫を飛ばし続ける。

数日、遺跡にこもり続け大量の素材を確保して地上へと戻った。


そして久しぶりに茶店でくつろぐ私たち。

目の前には旬のベリーが乗ったジャンボパフェ。着いて早々に食べた山盛りの海鮮パスタの別腹として巨大なものをチョイスした。


「おい、フラン!良いところであったな。ここの支払いは俺が持ってやるから、同席させろや!」

気分よくパフェにかじりついている私に、野太い声がかかる。


こいつはヴァンニ。ここらでは有名な冒険者だが、素行が悪く女癖も悪いと評判だ。私も何度も声を掛けられては骨を砕いているが、一向に諦める気配がない。機会があれば可及的速やかに処分しなくてはと思っている。

そんなヴァンニを睨みつける。私は今パフェに集中したいんだ。


「そう怖い顔すんなよ。アリスちゃんも一緒に食べるだろ。俺がまとめて面倒見てやるからよ」

そう言ってアリスに手を伸ばすので、私は石礫を汚い手に向かい放った。


それに反応するようにヴァンニが石礫を握る。


顔を歪ませ「いたたた」と声をあげるが高速回転しているそれを掴めば普通なら手の皮がずる剥けで無残な状態となるだろう。痛いで済んでるのはさすがベテラン冒険者と言わざるえない。

だが私の敵ではないがな。


そう言ってスッと立ち上がるのに合わせ、ヴァンニも身構える。

そんなヴァンニの後ろから細い腕が伸び、ヴァンニの腕を捻りあげていた。


「静かにしてくれ。邪魔だ」

そう言って床にたたきつける優男。数日前にぶつかった金髪のイケメンだ。


私はまた胸がテゥクンした。


「ちっがーう!今のは違う!」

「お、お姉さな、何が違うんですか?」

声に出てたようだ。


私は「何でもない。気にしないように」とアリスに伝え、男を押さえつけている金髪イケメンに話しかける。


「ありがとうだけど私は大丈夫だから。あんたは気にしないで、ほら、自分の席に戻ってどうぞ」

そう言って声を掛けるが、自分でも何を言ってるのか?何が大丈夫で何がほらなのか?


金髪イケメンは「そうか」と言って執事風の男の待つ席へと戻って行った。あーあんな近くに座ってたのか。気付かなかったなー。そんなことを考えながら席に座ると、すぐに衛兵が現れヴァンニを連行していたった。


私はパフェを流し込み高鳴る鼓動を押さえつけた。中のアイスクリームで頭がキーンとなることで悶えてしまったが、少し冷静になれた。私は病気なのだろうか?同じ男に二回もテゥクンするなんて……


店を出る時にあの金髪イケメンの横を通る。

軽くあいさつ代わりに「さっきはありがとう」と言ってそのまま会計まで移動した。小さく「ああ」と声で返ってきたことにまた胸がトゥクンしそうになり心臓を「ん”-!」と叩き堪えた。どこの筋肉芸人か。


背後から、「ライモンド様、そろそろ……」と執事風の声が聞こえた。ライモンド様か……私はふたたび心臓を叩き筋肉芸人と化した。

会計の人にはドン引きされたが、「釣りはいらん」と会計の三倍近くの金貨をバシンとトレーに叩きつけ店を出た。


その夜、また卑猥な夢が始まるところで「ドワー!」と声をあげ体を起こす。目を閉じながら私の両胸をくにくにと揉み続けているアリスにゲンコツを落として隣のベッドへ放り投げ二度寝した。


◆◇◆◇◆


ライモンド・グラニャーニ。

この地域を任せらている辺境伯である。


「ライモンド様、今日も視察といって出るのは良いのですが、毎日同じ場所に行っても視察になりませぬよ?」

「そんなこと分かってる」

執事のコルラードはため息とついた。


いつもと同じ素っ気ない返事。

だがその頬は赤い。


偶然あったあの冒険者。

素性を調べたら元は男爵令嬢だったようだ。


感情表現に乏しいぼっちゃまがあんなに頬を染めて我儘を……そのことに嬉しさが込み上げて涙が溢れそうになる。


きっとぼっちゃんにとっては初恋なのかもしれない。であれば、私も全身全霊を籠めて尽力しなくては……

まずは私の持つ女性を落とす108つの技法を全て叩き込んでみようか?


そんな事を考えてしまう執事コルラードであった。



~ つ・づ・け ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガサツだと勘当された男爵令嬢、道端でクール系男子と出会いテゥクンする 安ころもっち @an_koromochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ