7話 一般最強と軍家最強と
バンバンバン!!
魔法訓練室に三発の銃声が響き渡る。そしてその直後、その音の主である凛が私の方を見た。私がそれに対して親指をぐっと立てると、テンションが上がったのか凛が抱きついてきた。
「やった、僕やったよ鏡!!撃てるようになったよこれ~。」
「うん、頑張ったね凛。これで皆クリアだね。」
あれからさらに一週間が経過して、凛を最後に、ついに私たちの部屋は全員が弾を的に当てられるようになった。
あの後、ルイは既に撃ててるから多分別の問題だろうと言って一人で練習を続け、凛
は私が魔力を知覚する感覚を教え続けた。
その結果として、ルイは三日後、凛は1週間後に弾を当てることに成功したんだ。
かく言う私も、次の日の訓練で渚隊長に正式に合格を貰ってから、もっと早く撃てるようにと毎日撃ち続けて、ルイほどじゃないけど前よりは早く弾を撃てるようになったし、成長出来てよかった。
「おー、自分らついに全員当てられるようになったんか。今年はやるやつがぎょうさんおるなぁー。」
その時、私たちのスペースに渚隊長がやってきた。どうやら、さっきの凛の射撃を見てたみたい。
「よっしゃ、自分ら合格。明日からあっちの補助魔法訓練に行ってええで。」
「…まあ、風花はめっちゃ厳しいから、覚悟しぃや。」
最後の部分だけ何か怖いものを思い出すかのような表情でそう言うと、渚隊長は元の場所に戻って、皆の射撃の様子を再び見始めた。それを見て、私も周りを見渡してみると、前に比べて銃を撃てている子は増え始めていたけど、当てられている子は未だに少ないままみたいだ。
「渚ちゃ…隊長暇そうだね~。補助魔法訓練ができる人が出てから、風花ちゃ…隊長があっちいっちゃって寂しそうだよ。」
「そうね、あの二人相当仲良さそうだし、心に来るものがあるんじゃない。あと、あんたはいい加減敬語に慣れなさい。」
「えー、僕そういう堅苦しいの苦手なんだよね~。軍の上下関係ももっと軽かったらいいのに。」
凛は口を少しすぼめながらそう言って、射撃の方に戻った。今日撃てるようになったのに、できるようになってからは成長が早いのか撃つ速度が格段に上がってる気がする。
そういえば、ルイは訓練が始まったばっかりの頃に補助魔法のことを既に言ってたけど、どこまで知っているんだろう。
「ねえ、ルイって補助魔法使えるの?」
「…あれだけ言っといてなんだけど、実はあたしは使えないの。知識として知っている程度よ。ただ、軍に配属される時に、あたしの魔法の先生が初めに習うなら補助魔法だろうって言ってただけ。」
「そうなんだ。じゃあ初めて同士だね、頑張ろ。」
「そうね、どうやら白河明里の言ってた通り、あたしも『お家でちょびっと訓練しただけ』位の能力だったみたいだし、学び直しってとこかしら。」
そう言って珍しく少し笑うと、ルイも再び射撃を始めた。前から撃つ速度がダントツで速かったから、それが当たるようになるのを見ると圧巻って感じだった。
それからは、各々普通に訓練を終えて食堂についた。すると、他の人のテーブルにはいつもの不味いご飯が置かれているのに対して、私たちのテーブルにはトンカツが乗っかっていた。
「あーーーー!!!トンカツだよ鏡!!僕感動だよ…。あの不味い飯とはもう今日でおさらばなんだね~。」
「柳田凛、あんた騒ぎすぎよ。…まあ、気持ちはわからなくもないけど。」
「やっと…やっと美味しいものが食べられるね凛…私も感動…。」
「え?あんたもそっち側なの?」
感動を噛み締めながらみんなで席につく。その瞬間、テーブルから漂ってくる匂いが昨日のものとは全然ちがって、改めて当たり前のご飯のありがたみを実感することになった。
私たちがトンカツを美味しく頂いていると、やけに周りが騒がしくなってきた。
気のせいか、騒がしいだけじゃなくて人がよってきているようにも感じる。
「ね、ねえあなた達。それ食べてるってことは全員あれクリアしたの?」
「え、そうだけど…」
話しかけてきた子の質問に答えると、途端にざわめきがさらに大きくなった。
「凄いよ!!あの東条さんのとこの次だよ!!」
「天才だよ!!」
「どうやったのか教えて欲しいな。」
取り囲む人たちが、一斉に私たちに質問や賛美を投げかけてくる。私とルイはご飯を食べるから後でと返事をして食べて続けていたが、既に食べ終わっている凛はデレデレしながら色々会話をしていて楽しそうだった。
「いやー、僕もねー最初は全然できなかったから、皆もすぐできるようになると思うよ~」
「皆凄いよ!!ほんとにてんさ…」
「おいお前ら、さっきうっせえ。」
突如、和気あいあいとしていた賑やかな空間に、真反対の怒気を帯びた言葉が降り注ぐ。その一言で、先程まで明るかった場の雰囲気が一気に凍りついた。言われた方を見ると、なんか明らかにイライラしてそうな人がこっちに向かってきていた。
「お前、佐倉鏡か?」
「…そうだけど?」
「お前さぁ、ただの一般人のくせに生意気なんだよ。軍家でもねえのに一番になって調子乗ってんじゃねえよ。」
その瞬間、胸ぐらを掴まれる。初めての事だし少しびっくりしたけど、あの凄く激しくて派手な魔法の戦いを見たせいか、不思議と全然怖がっていない自分がいた。
まあ、一方で隣の凛はブチギレたみたいで、さっきまでのデレデレニヤケ面が顔から一切消えてるし、ルイは相手を睨んで魔法っぽいのを撃とうとしていた。
「ちょっと待って、二人ともだいじょぶ、私だけで何とかできるよ。」
「は?お前舐めてんの?」
「…舐めてるというか、君が弱いだけだよ、実際に。」
「なんだとお前、やる気?」
胸ぐらを掴む手がより一層強くなるが、構わず続ける。
「…私は戦う気は無いよ。君はどうか知らないけど、君みたいな人と戦って、寮監に怒られたくないし。」
「口だけは言うのに腰抜けか?お前。」
「腰抜けは君だよ。さっきから一般だの軍家だの言ってるけど、要するに自分ができないことを出来てる私が嫌いってことでしょ。」
「それを身分の問題に置き換えて隠して大義ぶって、口調で威嚇して虚勢を張る。そこまして鬱憤をぶつけるなんて、腰抜けじゃない?」
「お前言わせて置けばつらつらとクソみたいな事を並べやがって!!」
これは殴られるな、そう思って避けるために相手の一挙手一投足に目を凝らしていると、勢いよく振り上げた拳は、誰かに掴まれてそのまま動かなくなった。
「はぁー…弱いしうるさいし恥ずかしい。なんであなたみたいな人と私が、同じ軍家って括りなの?」
「お前…東条!?」
相手の後ろの方をよく見ると、振り上げられた拳を掴んだまま離さずに相手を見下している東条美炎が立っていた。
「おい東条、お前離せよ。軍家最強だかなんだか知らねえけど、私はこの調子乗った一般人をぶっ飛ばしたいんだよ。」
「あら、私が離しても多分あなたじゃ佐倉さんに勝てないと思うけど?もうちょっと自分の弱さを自覚したら?」
「お前まであんま調子に乗るなよ、ちょっと強いからってイキリやがって!!」
そう言って、彼女が掴まれていない方の腕で肘打ちを喰らわせようとした瞬間、東条美炎は掴んでる方の腕を捻って投げ、相手の身体を床に叩きつけた。投げられた相手を見ると、気絶はしていないが相当な痛みだったようで、相手はしばらく悶絶して動けていなかった。
「あなたってつくづくバカね、あの銃もまともに使えないくせにどうして私に勝てると思うかな。」
「ま、とりあえず私は寮監のとこ行くから、あなたは除籍ってとこじゃない?。ご愁傷さま。」
その後すぐに、東条は食堂の出口の方へと歩いていく。そしてそのままドアを開けようとしたとき、何かを思い出したかのようにふと振り返ってこっちを向いた。
「そうそう、佐倉さん、あなたってやっぱり強いね。精神の芯と戦う度胸がしっかりしてる人は強い。」
「…そりゃどうも。」
「まあ私達が戦うことになるかはわかんないけど、とりあえず覚えておく。さよなら。」
そう言い残して、今度こそ東条は食堂から去っていった。残された私達も、そのあとしばらくしてから、周りの子たちに心配されながら食堂を後にした。
(東条美炎か…凄い魔法を撃てるのは知ってたけど…体術もすごく強いな、さすが最強って感じ。)
「東条さんってやっぱり凄い強いね~。入隊式でも凄いことしてたし、流石って感じだな~。」
「そうだね、あの人いなかったら私ちょっと危なかったかも。」
「そうよ、あんたいくら相手が弱いただのイキリだからって煽りすぎよ。いくらあたし達がいたってあんたが怪我すんのは変わんないんだから。」
「あはは…ごめんごめん。」
隣のルイからお叱りを受けて、思わず苦笑する。正直私も結構頭に血が上ってたと思うし、ちょっと反省しなきゃなぁ。
「そうだよ鏡、東条さんに感謝だね~。…でもさぁ~、東条さんってすごく強いのになんで」
「そうね、凛とする雰囲気、軍家最上位に相応しい気品があるのになんで」
「うん、しかもここ地下なのになんで」
『ずっとサングラスしてるんだろう…』
ハモった、やっぱみんなそう思うよね。
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