6話 初めての喜びと仲間との生活と
カチッカチッカチッ
(…今日もダメか…。弾出ないなぁ。)
あれから一週間が経っても、私の銃は一向に弾を吐き出さないままだった。どんな方法、考え、イメージを試してみても、帰ってくるのは虚しい不発音だけ。いい加減ノイローゼになりそう。
「…佐倉鏡、柳田凛、あんた達耳貸しなさい。」
そんな時、隣のルイが私とルイのもう一個奥にいる凛を自分のスペースへ呼んだ。それを聞いて私達は、自分のスペースをギリギリ離れないようにルイの方へと近づく。この訓練では、自分のスペースから離れなければ基本的に何をしてもいいため、この会話もOKなんだ。
「今日の自主練時間、ここに集合よ。」
「このままやり続けてもいたちごっこだし、作戦会議といこうじゃない。」
表情を変えずに銃を撃ち続けながら、ルイは私たちにそういった。最近みんなでの会話も減ってきてて、話し合う機会がなかったし、ちょうどいいかもしれない。
ルイの言う自主練時間、それは夜ご飯の時間と自由時間の間の二時間の時間のことをさすものだ。この時間では、軍施設内にあるジムやここ魔法訓練室など、あらゆる訓練施設が自由に使用可能となる。だから、話し合ったり、皆で訓練したりするにはすごくいい時間でもあった。
と言っても、私はこの四日間一度もここには来てないんだけど。
「えー、僕ジム使いたーい。もうペナルティ食らいたくないよ~。」
「あんたねぇ、確かにフィジカルも大事だけど、今はこっちが最優先よ。少しは協力しなさい。」
「大体あんた達が四日間一度も自主練時間にここに来ないから、こんなこと言わなくちゃいけないのよ。」
(あ、凛も来てなかったんだ。)
凛の発言に、さすがにキレそうになりながらルイがそう返した。口ぶりからして、凛は四日間ずっとジムにでも行っていたのだろう。通りで、凛にしては珍しく帰ってきたらすぐ寝てると思った。
でも昼間あんなに死にかけてるのに自主練するなんて偉いなぁ。昔っからちゃんと頑張り屋さんなとこは変わらないね。
まあかく言う私は、話し合うべきなのは分かってたんだけど、つい興味が湧いちゃったって理由で施設内を探検してただけなんだけどね…。これ言ったら怒られそうだから、黙っとこ。
その後私はルイの提案に即賛成したが、ペナルティを回避することに全てをかけたい凜はそうもいかないようで、しばらく問答が続いていた。
少しした後、ルイが何か思いついたような顔をして口を開いた。
「….ねえ柳田凛。補助魔法には『肉体強化魔法』っていうのがあるのよ。」
「うん、それがどうかしたの?」
「それは、使うだけで仕様魔力量に応じて自分のフィジカルを上げられるって言うものなんだけど…」
「うんうんうん、凛ちゃんはいつだってルイに賛成だよ~。自由時間にここだね、わかったわかった~。」
さっきまであんなに駄々を捏ねていた凛が、その言葉で一瞬にして賛成へと移った。凛は確かに頑張り屋さんだけど、自分が頑張らなくても他に楽な解決手段があるなら絶対にだらける人である。それを利用したなルイ、出会ってまだ少しなのに、策士だね。
それからは、いつも通り弾は出ず、訓練兵全員で不味いご飯を食べて自由時間になった。
私が訓練場に着くと、既にルイは射撃を開始しており、私も自分の銃を抜いて隣へ行く。
そのまま暫く待っていると凛が遅れて入ってきて、そのタイミングでルイが射撃を辞めた。
「あんた達、よく来たわね。とりあえず合格。」
「魔法使えないの困るしさすがに来るって、僕さすがにそんなわがままじゃないよ~。」
唯一駄々を捏ねていたやつが何を言っているんだろうか。そんなことを思いながら、私も銃を構えるのを辞めてルイの近くに行く。
集まって直ぐに、ルイは自分の銃を私たちに見せながら説明を始めた。
「あんた達には今日、とりあえずこれを撃てるようになって貰うわ。少なくともあたし一人だけで撃ち続けるよりも、三人で撃ち続けるた方が当てられる人が出やすいと思うし。」
「でも、風花ちゃ…隊長が感覚の問題だから自分で掴まないと出来ないって言ってたよ?」
「…そうね。でも、試す価値はある。あいつが教える気ないなら、あたしが教えるわ。」
いつも通り表情を変えずに、ルイは淡々とそう言った。確かにこのまま闇雲に続けるよりも、既にできている人から学ぶ方がいいのかもしれない。
「この銃の撃ち方、それは体の中の魔力を手のひらに集めて引き金を引くことよ。」
「魔力を集める?どういうことさそれ?」
体内の物を動かす、集める。それは私や凛には全く理解できない感覚だった。体の中の流れてるものなんて、正直血液くらいしかないと思ってた。
「まああたしも、体内に魔力が流れてるってのは何度も何度も属性魔法を使ううちに気づいたのよ。属性魔法を使う度に、何かが自分の中を動く感覚が少しあったのよね。」
「動いてるって言うのは、魔法を使ってる部位に向かって何かが流れてるって感じ。」
「それで、その移動を自発的に起こして手のひらに魔力を流せないかって思いついたのよ。で、実際に試してみて引き金を引いたら、弾が撃てたって訳。」
それでルイは説明を締めくくった。要するに、体の中の魔力を移動させるイメージが掴めれば、これを一応撃てるようにはなれるってことかな。
私と凛はとりあえず目をつぶって、意識を自分の内側に向けてみる。当然だけど、微かに心臓が動く感覚しかしないと思う。
「うーん、僕は何も感じないかもな~。」
「まあ、さっきも言ったけどあたしは魔法を使いまくってようやく気づけたから、意識しても最初は知覚出来ないものだと思うわ。」
「ただ、そういう感覚だっていうのを意識しながら練習してると、掴めるものがあるかもしれない、望みは薄いけど。」
確かに、魔力の移動の意識、これを知っているだけでも十分なアドバンテージを得られたんじゃないかな。
そう思って目を開こうとした時、私の体を何かが流れているような感覚を僅かに感じた。
(ん…?いや、ちょっと、ほんの少し何かが流れるような感覚がする…気が…)
なにか掴めるかもしれない。そう思った私は、目を開くのをやめて、全神経をその流れに集中して、なるべくその全部を手のひらの一点に集めるように意識した。
そうして、あらかた手の平に集まったような感覚がしたところで目を開く。そのまま、初日からずっと真似してる渚隊長の射撃モーションをしてから…
(狙いを定めて…引き金を~引くっ!!)
バンバンバン!!
(えっ)
ドンドンドン!!
『えぇーーーーーー!!!!』
引き金を引いた瞬間、今まで何も出てこなかった銃口から、渚隊長やルイが撃っているような半透明の光の線が発射された。そしてそれは、ルイのように横にそれたりせずに、真っ直ぐ的に向かって行き、なんと全弾命中してしまったのだ。
それを見ていた全員の叫び声が、射撃訓練室に響いた。その中には、まさか撃てるようになった一発目で当たるとは思ってもみなかった私の叫び声も混ざっていた。
「あ、あんたどうやったのよ。あたしは当て方は教えてないわ、ていうかあたしも当てられないし。」
「え、いや普通に言われた通りにやっただけなんだけど…」
「…は?ほんとに?」
そう言うとルイは振り返って自分の銃を手に取り、的に向かって発射した。しかしその弾はすべて真っ直ぐに進んでいかず、的には1発もかすりはしない。
「…やっぱり当たらないわね。あんた、もう一回やってみて。」
そう言われて、私も自分の銃をとり、そのまま直ぐに引き金を引いた。
カチッカチッ
(あれ…?)
「…今度は出ないわね。どういうことかしら。」
「んー、多分直ぐに撃っちゃったからじゃないの?鏡まだ魔力使うの慣れてないじゃん、時間かけてもう一回撃ってみたら?」
凛に言われてもう一度目をつぶって、自分の体内に意識を向ける。そして、さっきと同じように微かな流れを手のひらに集中してから、引き金を引いた。
バンバン!!
「撃てた…。」
しっかりと時間をかけて流れを掴んでからやってみると、今度はきちんと銃口から半透明の光が出て、弾に的命中した。それを見ていた凛はやっぱりねという感じで笑い、ルイは感心したように凛を見ていた。
「柳田凛、あんたの予想当たりね。さすがに速射ができるほど、佐倉鏡の魔力使用能力は無いって事かしら。」
「そうだね、多分慣れてないからかな。毎回撃つ度にこれじゃまだまだダメだね。」
「それでも佐倉鏡、あんた十分凄いわ。多分同期の中で的に弾を当てた最初の人じゃない。」
「うんうん、鏡凄いじゃん!!。やっぱり色々できるね~、相変わらず。」
目をキラキラさせながら抱きついて来る凛と、その後ろで珍しく笑顔を浮かべながらその様子を見ているルイに褒められて、思わず顔が熱くなる。出来ないことをできるようにする、これがこんなに楽しいなんて知らなかった。
「まあでも見ときなさい。あたしは直ぐに真っ直ぐに撃てるようになってみせるわ。そしたらあのまずい飯ともおさらばよ。」
「そうだね~。いつまでもお嫁さんに不味いご飯食べさせてたら夫失格だし、僕も今日からはジムじゃなくてこっちに来ることにするよ~。」
「うん、二人とも頑張って。あと、嫁じゃない。」
そう言いながら未だに抱きついてる凛を引っぱたいた。
それからは皆で部屋に帰って、久しぶりに穏やかな空気で話しをしてから床についた。このままみんなでできるようになって、強くなって行けたらいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます