4話 始まりの一歩と踏み出した地獄と
パパパパッパパパパッパッパッパッパパパパパー
「うぇ!?この音何!?」
突然、廊下から響くけたたましい音で突然叩き起される。そこに、驚いた凛の声が加わって私の頭はぐわんぐわんしっぱなし。朝っぱらからちょっとクラクラして視界がぱちぱちしてる気がする。最悪の寝覚めだ。
「柳田凛、あんたうるさいわよ。ただの起床のラッパじゃない。」
既に起きていたのかベットに座っているルイが少し不快そうに凛にそう言う。そういえば起床はラッパで起こすって入隊式で言ってた気がするな。
「起床って…まだ5時半じゃん!?僕は平日は8時、休日は12:00までぐっすり寝ないと生きていけないんだよ~。」
不貞腐れた顔で凛は不快そうに答えた。まあ実際凛は今まで生活習慣は不安定だったし、休日は起きている方が珍しいような人間だったから、5:30起床なんて拷問みたいなもんだろう。
「あんたねぇ…ここは軍よ?甘ったれたこと言ってんじゃないわよ。」
「それに入隊式で言われたでしょ?朝は五時半起床、夜は10時半就寝だって。」
ルイが言い切った瞬間、凛の顔が絶望へと変わった。昨日、二人でここで頑張ってやっていこうって言ってたのに、どうやら「頑張る」に生活習慣は含まれていなかったらしい。まあ私は元々早起きだったから別に辛くないけど。
「…凛ちゃんだけもう一度寝るって選択肢は?」
「あるわけないでしょ。六時にこの階層の大広間に集まんないと行けないし、遅れたら部屋連帯責任なんだから。」
どうしても自堕落を曲げたくない凛に、呆れ顔でそう返すルイ。さすがの凛でも連帯責任となると逃げられないし、それに加えて全員集合ってことは多分寮監、つまりあの白河明里がいるんだろう。これで凛の希望は完全に絶たれたっぽい。
「あーあー、軍部の人が皆鏡みたいに『全く凛はしょうがないね。じゃあ一緒に二度寝しちゃおっか、あ・な・た』って言ってくれる優しいお嫁さんなら良かったのに~。」
「え、あんた達ってそういう関係なの?」
「絶対に違う。」
すかさずベットを降りてから凛を1発引っぱたいて否定する。こいつは本当にいつも通りというかなんというか。
「まあ、どっちでもいいわ。ところであんた達、念の為1つ聞いておくけど、学校で制服はどうやって着てたの?」
「私は普通に指定通りかな。」
「えーっとー、僕はネクタイ捨てて第一ボタン開けてパーカー着てたよ~。」
凛の言葉にルイの顔がかなり曇る。まあこいつ幼なじみじゃなきゃホントにただの不良って見た目だったし、分からなくもない。中身はただのアホだけど、学校の校則に従わないで変な着方しかしないし、おまけでピアスもしてたしなあ。
「あんたねぇ、ここでは絶対にその着崩し方はやめなさいよ。連帯責任であたしまで処罰されるわ。」
「わかってるってさすがに。僕でもこの軍は舐めてないよ~。」
そう言って凛は服とかしまってる所まで歩いて行き、着替えを始めた。私もルイもベットをおりて、集合までの服装と身だしなみの準備を始める。制服は案外学校のものと似ている面が多くて、着方に困ることがなかった。それに加えて寮部屋はほんとに広いから、のびのび準備できて快適だ。
「鏡~ネクタイ結べないよ~結んで~。」
「学校で結ばないからでしょ。結んであげるからじっとしてて。」
「はーい」
凛のネクタイを結びながら考える。そういえば寮監は白河明里とあの黒髪の二人らしいから、多分どっちかが男子寮でどっちかが女子寮だ。黒髪のほうはなんか、常時人に殺気を放ってる雰囲気だったし、それよりかは入隊式では怖かったけど根は優しそうな白河明里がいいな…。
「出来たよ、凛。」
「おお~。こうするとネクタイも悪くないかもね。ありがと。」
「…さっきはどっちでもいいって行ったけど訂正するわ。あんた達、はたから見たら夫婦よ。」
言われた方をみると、着替えが終わったルイが、甘ったるいものを口いっぱいに含んだような顔をして立っていた。こいつが勝手に言い出したことなのに、心外でしかない。そう思いながら目の前でいつもより一層ニヤニヤしてる凛の頭をもう一回引っぱたいた。
準備が終わって三人で話しながら歩いていると、あっという間に大広間に着いた。私たちの部屋は比較的大広間に近い方だから、とりあえず遅刻しないですみそう。中に入ると、既にかなりの人数の人が整列を始めていたから、それに倣って私たちも前の部屋別の並び順に沿って整列する。
「まだ十分前とかなのに人いっぱいだね~。みんな真面目なのかな。」
「あたし達が少し遅かっただけよ。…特に柳田凛、あんたのせいでね。」
そう言っているうちに、続々と他にも結構な数の人が入って来た。入隊式の時は波乱の連続で、人数はそこまで気にしてなかったけど、ざっと見る限り300人くらいかな?。男子も同じくらいだとして、全部で600人。募集が不定期なのにしてはちょっと少なく感じる。
そしていよいよ開始時間の6:00が訪れる。どっちが来るのかとビクビクしながら待っていると、はしに整列してた軍人たちの横のドアが開いて、白のツインテが出てきた。
「はいはーい、皆元気かな?ということで、女子寮の寮監はこの僕、白河明里だよ~。」
(良かった…今日は普段の感じっぽい…)
入ってきた瞬間からあの重圧のままだったらと思うと本当に怖かったが、普段の優しそうな感じで胸をなでおろした。もしあの黒髪だったら、朝礼の時点で地獄の始まりだろうし、ひとまず安心ってとこ。
「それじゃあ早速朝礼なんだけど〜。まず最初に点呼かな。これは部屋番号順に代表者が『○○号室、総員三名、欠員ありません』って言ってくれればだいじょぶだよ。」
その後は普通に点呼が終わり、それから淡々と朝礼は進んで行った。最後に、連絡事項を言い渡されて平和に朝礼が終わった。入隊式とは売って代わり、そこまで緊張感はなかったがただ一つ、最後に白河明里が
『まあ紫暗程じゃないけど、僕も結構厳しくするから頑張ってね。』
って言ってたのが怖くて仕方がない。
それからは大広間から各自部屋に戻って、みんなで食堂でご飯を食べて、各自座学の授業の教室に向かっていた。正直、私と凛は軍部でこの座学だけがちょっと不安な時間だった。というのも、ここまで来て有り得はしないと思うが、学校と同じようなものだったらなんか幻滅してしまうから。
「ねえ凛、ここでも学校と同じことしか習わないと思う?」
「んー、さすがにないと思うなぁ。多分、僕たちが知らない知識を身につけさせるのが目的だろうし。」
「…大丈夫よ。あんたたち、この後気持ち悪いくらい楽しそうな顔してるわ。あたしからしたら座学なんて地獄みたいなもんだけど。」
私と凛の会話に対して、ルイは顔をしかめながらそう言った。発言から見るに、ルイは勉強が嫌いみたいだ。でもまあ、未来予知(?)を持ってるこいつが言うんだし、これで一応一安心なのかな。
結局、授業は知らないことの連続で新鮮なものだった。そのおかげで、私と凛は久しぶりに座学を面白く感じることが出来た。まあ結果として、ルイの言ってた「気持ち悪いくらい楽しそうな顔」は当たったっぽい。当てた本人は寝てたけど。
「いや~知らないことは久しぶりだねぇ。これからもいっぱい出てくるのかなぁ。」
「…あんた、あんなアホなのに勉強好きってどういうことよ。頭おかしいんじゃない。」
そう言って凛を軽く睨むルイ。そういえばこいつ知らないのか、凛が本当はめちゃめちゃ頭いいこと。確かに、普段のとこだけ見てるとアホにしか見えないけど。
「いや、凛は実は結構頭いいんだよ。一回聞いたことは忘れないくらい。」
「は?朝起きる時間は覚えられないのに?」
「あれは起きようとしてないだけだね。」
この新事実にはさすがにびっくりしたのかルイが凛の方をみると、そこにはニヤケ面がいつの間にかドヤ顔に変わっている凛がいた。それを見たルイは、少しフリーズしてから歩き出して言った。
「…あんた、この後の体力訓練地獄見るから、覚悟しときなさい。」
「え~?僕これでも学校の体育じゃ上の方だったんだよ?」
そう言いながら、凛はルイの後を追って行った。確かに凛が運動できないってイメージ、今まで思ったことなかったし、これは珍しくハズレかな。そう思いながら、私も二人に続いて運動場へと向かった。
<数十分後…>
「ゲホッゴホッゲホゲホッもうむりだよ、歩けないって。死ぬ、これっ、僕死ぬよゲホッゴホッゲホゲホッ。」
かなり長い時間の走り込みが終わって、今は一旦休憩時間。私の横にはこうぼやきながら死にかけてる凛と、その横でドヤ顔をしているルイという構図が、物の見事に出来上がっていた。かくいう私も、凛ほどじゃないけどさすがにこれはきつい、死んじゃうよ、普通に。
「ま、さっき言ったのは当たりってところね。あんたたち皆体力ないから、軍部も一刻も早く鍛えたのよ。」
「だからって…さぁ…。初日からぶっ通しで5キロも走ったら…僕死んじゃうよゲホッゲホゲホッ」
「それもそうだし…。30分以内に走りきれなかった人がいた部屋は…追加1キロってのもキツかったね…ゲホッゲホッ」
私たちの部屋は、ルイが20分、私が27分、凛が29分58秒で倒れながらゴールして、ギリギリ追加は回避出来た。でも、やっぱり最初だからゴールできないところも多くて、その部屋は結構険悪なムードになっちゃってた。
「それにしても、軍家の人達は皆楽々30分切っててすごい。切れてない子は皆一般の子達だ。」
「言ったでしょ、『魔法だけは』同じスタートラインだって。仮にも軍家だし、そりゃフィジカル訓練はしてるわよ。」
この結果をみると、やっぱり人一倍頑張らないとこの先置いていかれてしまうと思う。魔法でも、体力でも頑張らなくちゃ。
「でも、初日からこれは結構スパルタだね。覚悟はしてきてたけど、さすがは軍って感じ。」
「僕もうやだよ.....まあこの後はご飯だしまだいいかなぁ。あとどれくらいで終わるんだけ。」
「なんかあんたたち走り込みがピークだと思ってそうだけど、この後は同じくらいの時間ずっと筋トレよ。今は半分ってところね。」
ドサッ
その瞬間、辛うじて起き上がろうとしていた死にかけの凛が完全に倒れた。ここからまた半分、しかもこれを毎日。こんなの死刑宣告だよ。そう思って、私も床に倒れた。
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