3話 魔法の基本と激動の終わりと

「あーーーーーー。疲れたよーーーー。」




そう言って、凛が寮のベッドに飛び込む。あの戦いの後、白河明里の指示通りに張り出された部屋割りに従って部屋に来た私たちは、波乱の連続だった入隊式のせいでもう二人ともボロボロだった。私も疲労感が凄くて凛のようにベッドに飛び込みたくなる。




(まあそれはそうと…)




「ちょっとあんた、廊下側はあたしよ。勝手に飛び込むな。」




「え~、いいじゃんか金髪ちゃーん。僕もこっちがいい~」




これまで言ったこと全部当たってたし、当然と言えば当然なのかもしれないが、結局本当にルイは同じ部屋だった。部屋割りを凛と一緒に見ていて、自分の名前を見つけた時に横にルイの名前があった時は、本当に驚いたものだ。まあ、もっとびっくりしたのはその時後ろにルイがあのドヤ顔で立ってたことだけど。




「嫌よ。あと金髪ちゃんじゃなくてあたしはルイ、覚えときなさい。」




そこまで譲りたくないのかと思うほど嫌そうな顔をしながらルイが凛に名前を名乗った。そういえば部屋に向かう途中に凛が道に迷ってはぐれて、さっき合流したからこの二人は自己紹介をしてなかったんだっけ。




「あ、そういえば言ってなかったや。僕は柳田凛、凛ちゃんだよ~。」




あんなに嫌そうな顔をされてるのに、凛はベットでゴロゴロしながらいつものニヤケ面でそう返した。まあ、こいつのメンタルの図太さとアホさは今に始まったことじゃないし、隣でキレかけてるルイには慣れていってもらおう。




「…それは分かったわ。じゃあそこからどきなさい。あたしが使うのそれ。」




「ん~そこまで言われたら僕もどくしかないな~。ごめんね。」




そう言って、凛は隣の真ん中のベッドに飛び移った。これで私は一番奥確定と、まあ別にいいけどさ。




「それにしてもこの寮ほんとに凄い。全員分のおっきいベットがあるし、施設の大浴場に加えて部屋にシャワーもある。」




両部屋全体を改めて見渡して、改めてそう思う。訓練とか言われていたから、もっと過酷な環境を想像してたのにちょっとびっくり。




「当然でしょ。ただでさえ実戦で一ミリも使えなさそうな連中を急いで使い物にしなくちゃいけないんだから。」




「環境が原因で病気とかストレスとかになられでもしたら、軍部はたまったもんじゃないもの。」




淡々とルイはそう返す。確かにそれはそうなんだけど、入隊式の衝撃の連続に比べてあまりにも高待遇だったから意外に感じたんだ。




「まあ僕としては、ここが地下にあるってことが一番びっくりなんだけどね~。」




それに加えて驚くべきことに、凛の言う通りこの寮は地下にある。というか、部屋にある案内図を見る限り、ほとんどの軍関係の施設はどうやらここ地下に広がってるらしい。だから地上にあるのは入隊式を受けた本部と、その横にある実戦戦闘訓練場という名前のスタジアムだけという訳だ。




「軍は色んなものを秘匿してるから地下の方が都合がいいのよ。実質使える土地を二倍にできるようなものだし。」




「あ、そういえばルイ。部屋に着いたらなんでこうなることが分かったのか、私に教えてくれるって言ってたよね。」




その時ふと思い出してルイにそう言うと、ルイは暫く無言になってから動き出してシャワールームに向かって行った。




「あたし一回シャワー浴びたいから、その話は出てからのお楽しみね。」




そう言ってすぐ、シャワー室の扉が閉められる。かく言う私も凛もずっとシャワーを浴びたかったし、どうやらこれは全員入り終わるのを待つしかなさそうだな。






その後の流れで、ルイの次に凛、最後に私がシャワーを浴びることになった。実際に入ってみるとシャワールームすらも充実していて、普段使うようなものに加えてトリートメントメントやコンディショナー、化粧水まであった。家でも使ったことがないくらい高そうなそれらを満喫してから髪をかわかし、これまた綺麗な備え付けのパジャマで部屋に戻ると、




「ねえあんた、なんであたしのベットに上がってくるわけ。あと急に抱きつくな。」




「え~、だってひとつのベットに集まって話すのってThe・女子会みたいで面白いじゃんか~。」




とまぁ、こんな感じでずっと二人が言い合っていた。といっても、だいたい凛が抱きつくなどしてキレられてるのがほとんどっぽかったけど。


それから二人がわちゃわちゃしていたのが一旦落ち着いたのを見て、ルイのベットに上がる。




「ルイ、それじゃあ教えて欲しい。なんでこの部屋割りとか色々当てられたのか。」




「…あたしに教えて欲しいなら一旦このバカと一緒にあたしのベットから降りなさい。」




本気で嫌そうな顔をしながらルイがそう言う。凛の言うThe・女子会を知ってみたかったのに加えて、このまま乗っかったら面白そうだと思って上ったら怒られちゃった。


このままベットを降りると言っても床で話を聞きたくはないので、三人で言い出しっぺの隣の凛のベットに移った。




「とりあえずこれでいいわ、あたしもベットの上から床に話したくはないし。」




「それじゃあ、そんなに聞きたいなら教えてあげるわ。私の能力について。」




あれからシャワーを浴びてる時も色々考えてみたけど、結局なんでか全く見当もつかなかった。凛なら分かるかと思ってルイがシャワーを浴びてる時に話してみたけど、結局分からずじまいだし。凛がわかんないなんて、正直かなり気になる。




「まあ結論から言うと、この部屋割りとかを当てれた理由はあたしの固有魔法、『クロノ・ディスビジョン』よ。」




「簡単に言うと、未来を見ることが出来る能力ってわけ。それに干渉とかは出来ないんだけど。」




いつもの口調でルイは淡々とそう言った。その突然のわけわかんない単語の連続に、聞いていた私と凛は顔を見合わせてぽかーんとするしか出来ない。




(まあ他は何言ってるかわかんないけど…今多分固有魔法って言ってたな。)




あの戦いを見て、ちょっとだけそうかもしれないとは思ってたけど、確かに魔法によるものなら私と凛が分からないのも納得。でも、その固有魔法についてとか、あの入隊式の魔法は固有魔法なのかとかは、やっぱり全然わかんない。




(魔法ってほんとになんなんだろう。)




それから少しの間そのままでいると、さすがに気になったのか凛が口を開いた。




「いや、あの~理由は分かったんだけど、その固有魔法ってなんなのさ?」




「…もしかしてあんた達、学校とかで魔法について習ったことってない?」




「全くないよ~。さっきまでおとぎ話のものだと思ってたしね。」




凛の言う通り私たちは、というか多分軍家以外の人達全員が、あの戦いまで魔法を架空の存在だと思ってた。だからこそ、あの壇上での光景は本当に信じられないもので、同時にとても心を揺さぶるものだったんだ。




「…そう。上の教育統制の素晴らしい賜物ね。」




顔を少し逸らしながら、皮肉を含んだ言い回しでルイはそう言った。こいつはなぜか軍部のこととか色々知ってるけど、一体どこまでこの国のことを知ってるんだろう。




「分かったわ。それじゃあいい機会だし、あたしが魔法について少し教えてあげる。」




「あんた達だけ知らないってことないだろうし、今頃他の気になった連中も、同部屋の軍家から魔法について聞いてると思うしね。」




あの時、とてつもない興奮を味わわせてくれた魔法。それについて少しでも知れるんだ。その事実に、私のテンションは一気に最高潮に引き上げられた。ふと隣を見ると、さっきまでぽかーんとしてた凛も、顔にいつも以上に楽しそうなニヤケ面が戻っていた。




「まず基本的に、魔法には大きく分けて属性魔法と補助魔法、そして固有魔法の三つがあるの。まあ今回は補助魔法は省くわ。明日以降訓練で最初に習うだろうし。」




「じゃあ最初に固有魔法からね。固有魔法は、簡単に言うとその人だけの唯一無二の魔法よ。属性魔法、補助魔法のどの型にも当てはまらないの。」




だからさっきは「あたしの」ってつけてたんだ。でもそれじゃあ私たち皆、ルイの未来視みたいな潜在能力を持ってるのかな。




「つまり、固有魔法は皆それぞれ持ってて、使おうと思えば使える魔法なの?」




「半分当たりで半分ハズレってとこ。多分全員持ってるとは思うけど、実際に固有魔法を使えるのはごく一部の限られた人間だけよ。」




「遺伝なのか自ずとかはまだ解明されてないけど、その一部の人だけに固有魔法は発現するの。」




それはつまり、皆使える可能性はあるが、それを開花できる人間は本当に少ないってことかな。そのことを知ると、ルイはとってもすごい人なんだなと思う。




「じゃあ次に属性魔法についてね。これは全員等しく使えるようにはなれる物よ。」




「属性魔法には炎、水、風、電気の基本四属性があって、それぞれ弱い順に第二十位魔法から第一位魔法までの技があるの。」




「この技は祖先が何百年もかけて生み出した、テンプレってやつね。」




大量の初めて聞く言葉に、私の胸の興奮が抑えられない。しかも属性魔法はみんな使えるってことは、私も使えるようになれるってことだよね、結構楽しみだな。




「当然、弱い技は威力は低いけど習得しやすく、強い技は威力は高いけど習得が難しい。」




「特に、一桁の魔法と二桁の魔法じゃその差が歴然ね。威力が比べ物にならないし、習得難易度も格が違うわ。」




その言葉に、あの赤髪の撃った技を思い返してみる。私の記憶が正しければ、確か「第七位」と言っていたはず。


そうなると、あいつはとてつもなく難しい技を正式な訓練無しで使えたってことになる。軍家は皆そんなやつばかりなのかな。




「はいはーい、質問だよ。軍家の子達は、皆もうその一桁の魔法を使えるの?」




凛がルイにそう尋ねた。正直今すぐ聞きたいと思ってた事だから、聞いてくれてありがとね、凛。




「それについては断言するわ、無理よ。」




「この国では軍家の中でも、本当に限られた名家にしか本格的な魔法の訓練は許されてないの。」




「だから軍家の子の大半は、少し魔法が扱えるだけの子よ。つまり、魔法だけで見たらあんた達とスタートラインはほぼ一緒ってわけ。」




あの時に白河明里が言ってた、『家でちょっと訓練しただけ』ってそういうことだったんだ。でもそしたら、尚更疑問に思うのはあの赤髪についてだ。




「ねえルイ、じゃああの赤髪はなんなの。」




「あいつの名前は東条美炎とうじょうみえ、あれは特例中の特例って所ね。」




そういうとルイは、珍しく顔を少ししかめた。それほどに、あいつは魔法の常識的に見ても外れ値なんだろう。




「正直言って、例え名家の子達でも今は使えて第十六~第十四位魔法が限界のはずなの。」




「だけどあいつは、軍部の訓練も受けずに第七位魔法を撃って見せた。まあつまり、神童ってことよ。」




いつもは表情を変えずに淡々としゃべるルイが、この時はすこし顔に困惑の色が見える。改めてあいつが同期だと思うと上がったテンションが段々下がるな、ほんとに。




「はいはーい、僕また質問~。じゃあ隊長さんはあの時どうやって、弱い魔法でその東条さんの強い魔法に勝ったの?」




いつもの緩やかな口調で、凛はどんどん質問をしていく。多分あいつにとって、「自分が理解できない知らないこと」は割と初めてのものだろうから楽しいんだろうな。




「ごめん、それは説明できない。白河明里のあの技は、今教えられる程度の事じゃ説明出来ないくらい複雑なの。」




「つまるところ、魔法もそう単純なものじゃないのよ。まあ、訓練である程度基礎を習ったらまた教えてあげるわ。」




凛の質問に対してルイはそう答えた。まあそりゃそうか。私たちは魔法について何も知らないし、使ってみないとわからないこともあるんだろう。




「う〜ん。じゃあさ、せめて隊長さんの光属性魔法ってやつについて教えてよ。あれってさっきの四属性に入らないよね?」




「…光属性魔法か。あれは、使える人が過去にも片手で数えられるほどにしかいない、いわば幻の魔法よ。」




「あたしも実際に見るのは初めてだから、あれについてはほとんど知らないの。一つ知ってるのは、あれが『唯一の完璧な属性』って呼ばれてることだけ。」




「軍部の隊長」。その肩書きは伊達じゃないと思わされる程に、使える魔法の情報が凄い。しかもその前のルイの言葉から考えるに、あの技はその魔法のスペックだけによるものじゃないんだろう。ちゃんと訓練を受けて、あの人の凄さを実感してみたいな。




「まあ、あたしから教えられることはこんな物ね。あとは自分達で訓練を受けて覚えなさい。」




「それじゃ、あたしはもう寝るわ。明日早いと思うし。」




そう言ってルイは凛のベットを降りて自分のベットに戻った。それを見て、私もドアの近くにある電気スイッチまで歩いて、部屋の電気を消した。




皆が眠りにつく体制に入ってから、凛は速攻寝て、ルイも多分その後直ぐに眠りについたっぽい。だけど、私はベットに横たわっても眠れなかった。というのも、あの予知まがいの能力は分かったけど、ルイについてはほとんど分からなくて、気になっていた眠れなかったんだ。でもまあ、しばらく目をつぶっているうちにだんだん眠くなってきて、結局私の人生で一番長い一日は案外早く終わりを告げたのであった。







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