口下手のせいで戦犯扱いされて追放された陰キャ女は、S級パーティーで万能アタッカーとして無双する~陰キャ魔術師の成り上がり~
鬼柳シン
第1話 陰キャを舐めないでください
「ステラ、お前を今日限りでパーティーから追放にする」
「ぇ……」
次のダンジョン攻略のため、ギルドの一角に【エクソラプターズ】の面々が集う中、リーダーのシグマが突然そう告げた。
私は驚いて言葉を失いながらも、なんとか「な、なぜでしょう……?」と、生来の弱気な声で問いかけた。
すると、まるでこの態度その物が気に食わないかのように呆れるそぶりを見せてから、理由はいくつかあるとシグマは言う。
「お前は『サポーター』のくせに、最近じゃロクに援護もできていないのが理由の一つだ」
私たち冒険者は、『アタッカー』と『サポーター』に分けられ、その強さによってSを最高とするランクが与えられる。基本的には、この二つの役割が均等になるようにパーティーを組む。
アタッカーは攻撃をメインに行う役割なので、いかに攻撃力や素早さに長けるかでランクの高さやパーティー内での立場が決まり、サポーターは回復や敵のデバフなどを臨機応変に使えるかで決まる。
私は”サポーターとしては”Aランクで【エクソラプターズ】に加わっている。
だけど、
「わ、私は本来ならSランクの『アタッカー』の闇魔術師なんです……その、皆さんに合わせてサポーターをやっているので、実力不足なのは承知の上ですが――」
「お前如きが俺たちに合わせてるだと!? ハッ! 器用貧乏な女がずいぶんと偉くなったもんだな」
器用貧乏。得意な攻撃魔術を我慢してまでの行いをその一言で片付けられ、私は唖然としてしまう。
それに、私は声を荒げたシグマが怖くて言い返せない。
【エクソラプターズ】は、私以外アタッカーだけのパーティーだ。シグマは攻撃こそ最大の防御だからと気にしていない様子だが、その実は、誰かがサポーターとして前に出過ぎるメンバーにバフをかけ、魔物によってはデバフも使い、時には援護攻撃もしなくてはならない程におざなりだった。
その点、私の闇魔術師というジョブは、このパーティーのサポーターとしては適している。
この世界では誰もが炎や水と言った魔力属性を持つ中、私の持つ闇属性は、アタッカーかサポーターのどちらか好きな方を極められるのだ。
私は魔物が怖くて、襲われる前に倒してしまおうとアタッカーとしての道を選んだが、【エクソラプターズ】の一員としてやっていくためには、サポーターとしての戦い方も新たに学ばなければならなかった。
要はアタッカーの道を極めてから、付け焼刃で身に着けたサポーターとしての私では、実力不足は当たり前と言えた。
私は人と喋るのがとても苦手だが、なんとかそれを口に出して説明してみる。
「さ、サポーターとして実力不足なのは、もっと精進します……ですが、私一人がいくら頑張っても、皆さんが前へ前へと出ていってしまわれると、どんなに頑張っても役目をこなすことは難しくて……せめてもう一人はサポーターを加えるのはいかがでしょうか……?」
正論を口にしたつもりだ。ギルドでも、私たちは脳筋パーティーだと揶揄されているのはシグマだって知っているだろう。サポーター一人に全部を任せている馬鹿の集まりと呼ばれているのだ。
それでも、シグマはパーティーの方針を変えなかった。意固地になっているのか、とにかく攻撃ばかりを行う指示ばかり出している。
だが、それではいつか限界が来る。この機に、その方針を変えてほしい。そこまで口にした時、シグマが眉間にしわを寄せて詰め寄ってきた。
「ぐだぐだ能書きばっかり垂れやがって……!! 鬱陶しいんだよ! この陰キャコミュ障女が!!」
それまでパーティーでの役割や立場などを話していたというのに、シグマは突然、私を指差しながら矢継ぎ早に「パーティーとは関係ない、ただの罵倒」を言い出した。
「野暮ったい見た目で魔女みてぇな闇属性の魔術ばっかり使いやがって! 気色わりぃんだよ! そのくせ俺のパーティー方針にボソボソ早口で正論言ってるつもりか? お前に何が分かるってんだよ! コミュ障女にパーティー全体の問題が解決できるとでも思ってんのか!?」
シグマがとことん私を貶す中、一人でスカートの裾を握りながら耐えていた。
少しでいいから耳を貸してくれたらいいだけの話なのに、なぜこうも言われなくてはならないのか。私は自分が人と接するのが下手だから、せめて入れたパーティーでは実力と知恵で助けになりたかっただけなのに、何一つ聞き入れてもらえない。
いつしか涙がこぼれてくると、シグマは嘲笑ってから、改めて「こんな女は追放だ!!」と怒鳴った。
私自身、もう耐えられそうになかった。消え入りそうな声で追放を受け入れるとだけ言い残し、その場を走り去る。
もっと気が強ければ、言い返してパーティーの役に立てた? 見た目が美しかったら、少しは言葉を選んでもらえた?
そんなタラレバは、涙と一緒に流れていった。
気弱なのは生まれつきだし、見た目に気を使おうにも、付け焼刃のサポーターとしての魔術の特訓と研究でそんな暇はなかった。
私なりに必死で頑張ってきたのに、こんな惨めに泣きながら逃げていく自分が情けなく、ギルドを出てから一人、裏路地で泣き続けていた。
####
翌日、あの後泊った宿で目を覚ますと、既に太陽は高く昇っていた。
あんな無様にパーティを追い出されたのだ。なんならずっと寝ていたかったが、起きてしまったからには仕方なく、ベッドから起き上がる。
昨日はこの宿に入って泣きながら眠ったから考えもしなかったが、追放されたのなら、今後の予定を決めなくてはならない。
どこかのパーティーに入るのは気が引けたので、今後の予定を立てるために現状について振り返る。
【エクソラプターズ】時代に稼いだ報酬金が残っているため、しばらくは問題なく生活できる。だが、いつまでも誰の手も借りずに宿暮らしなどという贅沢は無理だ。
つまりは、何かしらお金を得るための仕事を探さなくてはならない。
そして私に出来ることと言ったら、闇魔術を使った冒険者稼業くらいだ。
であれば、【エクソラプターズ】に会いたくはないが、ギルドで依頼を探さなくてはならない。
それが今の私にできる唯一のお金稼ぎの方法なのだから。
それに、私一人ならアタッカーもサポーターも気にせず、自由に使い分けることが出来る。
各地に点在するダンジョンと呼ばれる魔物が出現する場所へ潜り、倒した魔物の鱗などを売却してお金を稼いでいけば、しばらく今後について考える時間くらいは危険も少なく過ごせる。
所謂ソロなので、売却する魔物を討伐した際に得られる魔石や素材、ダンジョン内に存在する鉱石に植物なども、全て私にお金として入ってくる。
いっそのこと、陰キャだの言われるくらいなら、ソロでもいいと思ってしまった。
でも、私はとても寂しがり屋なのだ。いつかはどこかのパーティーにアタッカーでもサポーターでもいいから置いてもらいたい。
「とにかく、ギルドに行こう……」
【エクソラプターズ】に会わないように祈りながら街中を歩き、ギルドの扉を開けると、その姿はない。通り過ぎていく冒険者たちから偶然、サポーター無しでダンジョン攻略に向かったと、呆れられながら話しているのを聞いて、大丈夫なのかと心配に思いつつも、今日は会うことがなさそうなので安堵する。
で、しばらくはソロでやっていくわけだが、まずは自分の今の実力を把握しないといけない。
昨日まではサポーターとしてダンジョン攻略をしていた。
もう【エクソラプターズ】の事情に縛られる必要が無いので、今日から私はアタッカーに戻ることもできる。
正直、どちらもこなせるだけあり、不安などはなかった。
しかし、しばらくサポーターをやっていたので、今の私は、アタッカーとして腕が鈍っているかもしれないと、一縷の不安がよぎる。
なので、ブランクがあるから、まずは勘を取り戻すことにした。
勘を取り戻せばソロでも余程高難易度のダンジョンを選ばなければ死ぬことはない。
「えっと、この街の付近で未攻略のダンジョンは……」
依頼や魔物出現の知らせが張り出される掲示板に目を通し、一つ当たりを付けると、そこへ向かうための準備をするのだった。
####
ダンジョンとは、かつて地の底に封じられた魔王が創り出しているという。
魔王の力が強まってか、ここ数十年で各地に多く出現するようになったと聞く。
ダンジョンの構造は多岐にわたる。整備された石造りの通路であったり、洞窟のような薄暗いものであったり、山その物の内部がダンジョンだったりする。
ダンジョンでは、そこに住まう魔物の強さに応じて、鉱石など採れるものも大きく変わってくる。
そのため高レベルのパーティーほど、高難易度のダンジョンに潜っては、他のダンジョンでは得られないような、さまざまな素材や魔石、各種植物、鉱物を入手して、装備品などを買うためのお金にしている。
私は勘を取り戻すために来たのが主な目的なので、そう言った副産物は二の次だ。
とにかくどれだけやれるのか試すため、当たりを付けた目的のダンジョンに到着した。
だが不思議なことに、冒険者ギルドの職員がダンジョンの入り口で、護衛の騎士と共に入場管理をしている。
なぜ、わざわざ危険な街の外に出ているのか。疑問に思いながら問いかけると、詳しい事情は話せないとのことだ。
まぁいいのだが、とにかくこのダンジョンへ入る旨を伝える。すると、職員が困ったような顔をした。
「あの、あなた一人で迷宮に潜るの……? たしか、【エクソラプターズ】のサポーターでしょ? サポーターがソロで入ったら、生きて帰れるかも怪しいので、ギルドとしては推奨できないのですが……」
この人の言っていることは正しい。ある程度は調べがついているダンジョンとはいえ、どんな魔物が潜んでいるかを全て知ることなど不可能なのだ。そんな場所にサポーターが一人で入るなど、自殺行為に等しい。
しかし私は、【エクソラプターズ】に在籍している間に、ギルドへ闇魔術使いのSランクアタッカーとして登録していたことを思い出す。
少し考えると、アタッカーの黒魔術師として身に着けた魔術の一つ――見上げるような黒い炎の塊を召喚した。
「なっ!? 極大黒炎魔術じゃないですか!? サポーターのあなたがなぜ……」
「その、訳があってアタッカーとして扱ってもらえなかったんです。一応、ギルドの方にはあの街に来たばかりにS級アタッカーの黒炎魔術師として登録しているはずなので、ここで私を通しても、別にそちらの不手際にならないかと……」
俯きながら言うと、ギルドの職員はSランクの闇魔術使いということにも驚きつつ、今まではAランクのサポーターもやっていたのだと驚き、十分な実力の持ち主ということで通してもらえた。
####
ダンジョンの中は石作りの通路が連なる迷路のようだった。
どこかのパーティーが戦った後なのか、ところどころに光源となるクリスタルが置かれており、薄暗いダンジョンでも問題なく見渡せるほど明るい。
しかしクリスタルとは。かなり高額だった記憶があるのだが、どんなパーティーが先を行っているのだろう。
魔物はほとんど倒されていたが、それでもすぐに魔術を唱えられるように警戒しながらしばらく進むと、通路の前方で影が動いたように見える。
目を凝らすと、影の正体はゴブリンだった。
ゴブリンは小人の名が相応しい低級の魔物だ。動きが素早く、群れで襲われると厄介だが、一匹程度なら肩慣らしにちょうどいい。
私はサポーターとしての防護壁を念のため展開してから、アタッカー用の黒炎を周囲に展開させる。
久しぶりに誰の心配もせず戦えるのだが、私は正直魔物が怖い。だからアタッカーになったのだ。
余計に怖がることなく、消滅させるために。
ゴブリンは棍棒を手に襲い掛かってくるが、すぐに黒炎を放つ。
いくつもの黒炎に囲まれ、やがてゴブリンは黒炎に包まれ、あっと言う間にチリとなって消えた。
「……ちょっと相手が弱すぎましたね」
これでは、アタッカーへとしてのブランクの確認や、付け焼刃とはいえサポーターとしてどこまでやれるのか確認することもできない。
少しは強い魔物がいないものかと進んでいくのだったが、その後もゴブリンやスライムと言った低級の魔物ばかりで、大した労力も掛からずに倒せた。
一応ダンジョン内の鉱石などを採取しながら進むが、これでは小銭稼ぎに来ただけで終ってしまう。
ダンジョンも奥に進むにつれ、迷路のように入り組んでいくが、【エクソラプターズ】で無茶な依頼をこなしていた私には、子供だましのようなものだ。
そうやって魔物を倒し、アイテムを集めながら進んでいると、相手が弱いとはいえ、しっかりアタッカー用の魔術とサポーター用の魔術を使い分けられていることに気づく。
シグマに散々言われた罵倒の中で、器用貧乏の一言を思い出す。私は【エクソラプターズ】を支えるために、瞬時に戦況を理解して適した魔術を使えるようにしてきたのだが、今日はここまで一度もミスと呼べる事もなく進めてきた。
あとは誰かに認めてもらいたい。そう思いながら進んでいると、先んじていたパーティーの姿が見える。
一様に顔色が悪いパーティーだが、外傷はなく、毒などの状態異常もない。ただ、装備がとてつもなくお金のかかった高級品の割には、実力のあるパーティには見えなかった。
「くっ! またここか!」
パーティの一人が頭を抱えて吠える。
何かミスをしたらしいが、見たところ道に迷った程度のようだ。助けることは容易だが、この失敗も将来の糧になるだろうから、手を貸さないべきだろうか?
そう思っていると、このパーティの一人が私に気づき、駆け寄ってきた。
人と接するのが苦手な私は身を引いてしまうが、この人はそれどころではないようだ。
「こんな奥地に一人で来ているということは、名うての冒険者だとお見受けします! どうか、私たちの仲間の捜索にご助力願えないでしょうか!!」
「え、えっと、あの、一応ダンジョン攻略には慣れていますが……仲間の捜索ですか? まさか、こんな奥地ではぐれたのですか?」
聞くと、身なりだけはいいパーティーは一様に悔しそうな顔を浮かべる。
そうして、コクリと頷いた。
「たった一人だけ、ダンジョンの罠にかかって別の場所へ転移してしまったようなのです! 私たちでは、転移の魔術の追跡も出来ず……どうかお願いします! ご助力を……!」
ダンジョンに罠があるのは珍しくない。その中でも転移の罠は、一段と強力な魔物の住み家へと移される。
見たところ戦い慣れていないパーティーの一人では、相手にもよるが死んでもおかしくない。
助けるべきなのだろう。でも、そんな正義感で他のパーティの窮地に踏み込んで、私まで危険な目に遭っては……
普通の冒険者で、尚且つソロなら、運が悪かった、ということで終わる話だ。
でも、パーティを追い出されたばかりの私にとっては、どうしても放っておきたくない想いがある。
たった一人で、誰からも助けられず、守られず、その上死ぬかもしれないなんて……
余計なお節介かもしれない。自己満足かもしれない。だけど、私は心に決めた。
「罠のあった場所は覚えていますか?」
転移の罠ということは、魔術によるものだ。その痕跡を追うことが出来れば、見つけることもできる。
助けて、それから私の力も試す。頷く目の前のパーティーメンバーたちに連れられて、罠のあった場所へと向かっていった。
####
「この石段を踏んだ時、罠が発動しました」
「分かりました。あとは私がなんとかしますから、念のため退路の確保をお願いします」
奥地まで来る中、魔術を試してきたが、ここのダンジョンの魔物であれば、数十体が相手だろうと、問題なく対処できる。
転移先で多少強い魔物が相手でも、なんとでもなるはずだ。
「私もこれより転移します。皆さんは下がっていてください」
罠をもう一度発動させることで、私自身も巻き込まれ、件の相手のところまで行く。
そう思い魔術の詠唱を始めると、「ご武運を」と言われ、私は別の場所へと転移した。
####
目の前に、ゴブリンの上位個体である、大人の男性より一回り大きなホブゴブリンが、ザっと十体いる。
それらに囲まれながら、剣を手に肩で息をする銀髪の青年がいた。
「はぁ……はぁ……来い……化け物、ども……」
なんとか強い言葉を発しているが、限界なのは明らかだ。そこへホブゴブリンが数体で襲い掛かったので、咄嗟にサポーターの魔術である結界を青年の周りに展開する。
ホブゴブリンの攻撃は弾かれ、そこの場にいる魔物も青年も私に気づく。
青年は傷を負っているが、致命傷ではない。これだけの数に囲まれているのに耐えているというのなら、余程抗ったのだろう。
力が無かったら、私なら、とっくに諦めていただろう。
素直に青年の心の強さに感心した。
「……真似できないな」
私には、そんな強い意志なんてない。出来ることがあるとすれば、アタッカーとサポーターの魔術を使い分けて、助け出すことだけだ。
青年の周囲に更なる結界を張る。だがすぐに、青年が「逃げろ!」と叫んだ。
「サポーターが一人でどうにかなる状況じゃない! 俺の事はいいから、君だけでも逃げるんだ!」
そう叫びつつも、ホブゴブリンたちは私の方が厄介だと気づいたのか、こちらへと向かってくる。
しかし、サポート魔術のインターバルのタイミングで、アタッカー魔術である【黒炎連撃】を発動した。
範囲が広く、威力も高い魔術だ。大量のホブゴブリンを仕留めるにはこれしかなかったが、普通なら他のサポーターが青年を守らなければ巻き込まれてしまう。
しかし、私は【黒炎連撃】の発動時に更に結界を強固にし、私とホブゴブリンたちの間で闇属性の炎が飛び交い、一匹一匹と仕留めていく。
黒炎が青年へといくつもの向かうが、結界を張っていたので何も影響はない。
ただし、ホブゴブリンたちは黒炎にのまれ、闇属性の炎に体を蝕まれながら焼け死んでいき、全滅させられた。
「……なんだと?」
あっと言う間にホブゴブリンを掃討したからか、青年が驚きの表情をしている。
一方私は、アタッカーとサポーターの両立が確認できたので、ホッと一息つく。
結界も解くと、青年は信じられないような顔をして私へと歩み寄ってきた。
「き、君は何者だ……? 継続時間も詠唱時間も違うどころか、両方のクラスの魔術を使い分けるだなんて、聞いたこともないぞ……?」
「は、はい……? そうなんですか?」
てっきり両方一緒に使うくらいは当たり前だと思っていた。少なくとも、【エクソラプターズ】では当たり前のように行っていた。
余程驚いているのか、青年は押し黙ったままだったが、やがてハッとすると、咳払いをして手を差し出す。
「危ないところを助けてもらって、本当に感謝している」
「い、いえ! 私はただの、しがないソロ冒険者ですから……」
どこにも所属していないのでそう言うと、青年はまたしても驚き、少し考える素振りを見せると、涼やかな顔でこの後時間はあるかと聞いてきた。
もうダンジョン攻略の目的は済んだので特にないと答えれば、先ほどの人たちと一緒についてくるように言われる。
「褒美と、それから大切な話が合ってな」
何やら仰々しい言い方だったが、私は青年を連れて先ほどの人たちのところへ戻ると、みんなが血相を変えて駆け寄ってきた。
「ご無事ですか! アソフィール伯爵!」
「えっ……」
伯爵と聞き、私は固まってしまう。しかしそんな事など知らずか、アソフィール伯爵と呼ばれた青年は大した怪我じゃないと答え、次いで私に「そういえば」と目を向ける。
「まだ名乗っていなかったな。俺の名はアソフィール伯爵家の次男、レイド・アソフィールだ」
「え……」
周りの人々が名乗ったことに驚いている中、レイドは続ける。
「どうせだから帰路につきながら考えてほしいのだが、俺は戦い慣れていない使用人を連れて冒険者の真似事をしていたが、志は本気だ。そこで、君には俺のパーティーの一員になってもいたい」
追放され、一人でやっていくための確認だけのつもりが、とんでもいことになってしまった。私はただ、言葉を失いながら、レイドの余裕の笑みに見つめられているのだった。
####
アソフィール家に招かれ、豪華な内装の部屋の中、ガチガチに固まりながらレイドの話を聞く。レイドは冒険者に憧れていたが、貴族の身だったのでなかなか危険な事は出来なかった。
今回の一件も、ダンジョンの外にすぐにでも駆け付けられるようギルド関係者を置き、低レベルの魔物ばかりのダンジョンを選び、レイドの身分がバレないように、戦いの経験のある使用人たちを高価な防具で無理やり強くして行っていたそうだ。
アソフィール家としては、レイドには危険な事をしてほしくない。身分もあまり知られてほしくない。
だからレイドが名乗った時は驚いていたのだ。貴族が冒険者をしていると知れたら、そこにつけ込んでくる輩は必ずいる。なので、真実を知ってしまった私は、アソフィール家としても、手放しにはできないとのことだった。
「そういうわけだ、ステラだったかな? これからは俺のパーティーの最初のメンバーとして活躍してもらいたい」
活躍してもらいたい、ではなく活躍してもらう、の間違いなのではと思ったが、レイドからは、そういう悪意は感じられなかった。
何より、
「俺のパーティーは、まだステラを入れて二人だからな。アタッカーもサポーターも決まっていないから、しばらくは好きな方を――なんなら、両方やってもらって構わない。つい先ほど壊滅したという君が所属していたパーティーでも似たようなことをやっていたのだろう?」
【エクソラプターズ】は、私が一人でどれだけやれるか試しているうちにダンジョン攻略で壊滅したそうだ。誰も回復やバフ、デバフもできないというのに、高難易度のダンジョンへ挑んだ末路だという。
一応【エクソラプターズ】で無理強いされていたことを知ってか、あくまで強要はしないと言われたが、私はどうやら、【エクソラプターズ】で磨き上げた強みを最高の相手と共に使っていけるようになったのだ。
これからは、私が私らしくいられるように努力する。
非常にどもりながらだが、私はよろしくお願いしますと、パーティーへの加入を決めたのだった。
####
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