第3話 偉大なる四人と悪夢
闇の中で漂っていたロッソは、暗い闇の中で白い光が見え導かれるようにして目を覚ました。転生者として記憶がよみがえった彼はこの光景を覚えていた。そう自信が最初に死んだ時と同じだった。その際、彼は白い部屋へと導かれ小さな光と会話をしたのだ。
「えっ!? あれ……」
目を開けたロッソはベッドに寝かされていた。部屋は真っ白な天井とベッドがあり、横にカーテンがあり向こうからわずかな光が差し込みかすかに人の話し声が聞こえる。ベッドの横には綺麗な緑の髪をした、キースの旅の仲間であるミリアが、ベッドの横にうつむいた姿勢で寝息を立てていた。
「そうだ! ここは確か…… 間違いない……」
部屋を見たロッソは思い出した。ここはキースと一緒に魔王軍の
「夢か…… 夢に決まってるよな。だって…… ジェネラーを倒したのは俺がキースと旅を初めてすぐの頃…… もう何年も前のことだ」
自分が過去の夢を見ていると言い聞かせるロッソだった。彼は静かにベッドから出て、カーテンを開けようと手を伸ばした。
「ねぇ!? キース! あののろまのロッソをずっと連れて行くの?」
自分の名前が出たロッソは思わず手の動きを止めた。
ロッソはカーテンを小さく動かしてわずかに隙間を開けて覗き込んでいた。カーテンの向こうには四角いテーブルをキースと四人の仲間が囲み話をしていた。キースは一人の女性の方に顔を向けて笑っていた。
「アンナ…… どうした急に?」
「どうしたですって!? あんたも今日のジェネラーとの戦いを見たでしょ? あいつはまったくついてこられずにすぐに負傷したじゃん!! のろまででかくて盾にしかならないくせに! あいつのせいでキースが危ない目に……」
女性は茶色の長い髪を一つの三つ編みの上に黄色のリボンをつけ紫の色の綺麗なやや切れ長の瞳に特徴的な細長い耳をしたエルフだ。彼女は下半身は茶色の膝までのブーツに青いショートパンツ、腰に華美な装飾が施された二本の短剣さし、上半身は腹をだし胸に一枚の黒い布を巻き、袖の緑の上着を羽織っただけという動きやそうな格好をしていた。
テーブルに身を乗り出してキースと話す、女性はアンナ・ゼコブ、年齢十八歳。彼女は砂漠の国トルマーリの冒険者で、遺跡やダンジョンでの宝探しなどのトレジャーハント専門の有名な冒険者で罠解除と偵察のスペシャリストである。性格はおだやかとは言えず、すぐに感情的になり時に冷静さを失うことがあった。
「(アンナ…… そういや彼女はずっと俺をのろまってバカに…… そうか。これが原因で……)」
ロッソは初めて経験する魔王軍の将軍との戦いについていけず。敵の攻撃をまともにうけすぐに負傷してしまった。負傷した彼はキースに支えられながら戦線を退いた。アンナは勇者を危険にさらしたロッソを許せずに追い出そうとしていたようだ。
「(これは…… 夢なんだよな……)」
記憶にないキースとアンナの会話に動揺するロッソ。彼は必死に会話に聞き耳を立てる。
「そうじゃ。アンナ殿の言う通りじゃぞキース殿、ロッソ殿の腕は未熟じゃ。これからますます激しくなる魔王軍との戦いについてこれるか……」
アンナの向かいにいた緑のローブを着た男が話に加わった。
薄い白髪の髪に立派なあごひげを携え目が埋もれて細くなるくらいしわの深い顔をした老人である。老人の名前はアンソニー・ペティトだ。年齢は百歳に近いと言われているが、当の本人が数えてないため不明である。
彼は森に囲まれたシトロン魔法王国の高名な賢者である。知識と経験が豊富な人で熱くなりやすいアンナとは対照的に冷静に判断を下す。
「(さすがにシラフの時は真面目だなアンソニー…… 酔っ払ったら女の尻を追いかけるただのエロじじいになるくせに…… でもこいつも俺を見下していたのか……)」
視線をアンソニーへと向けたロッソだった。キースたちの会話に胸が痛み彼は必死に夢だと心の中で夢だと自分に言い聞かせていた。
「そうだよ。お姉ちゃんの言う通りだよ。あの人は明らかに足でまといだったよ。それに僕たちの目的の……」
アンナの隣の白いローブを着た、サラサラの茶色の髪をおかっぱの男の子も話に入ってきた。彼はジェリス・ゼコブという十二歳のアンナの弟だ。顔はアンナに似てるが彼の目の色は濃い茶色で、形は丸く大人しく優そうな顔つきをしていた。
姉と同じ冒険者で姉とコンビを組んで数々の遺跡やダンジョンを攻略した。彼は薬草や毒など豊富な知識を持ち、精霊の力の込めたカードを使い敵と戦う少し変わった魔法使いだ。
穏やかな性格の男の子だが魔王軍の飲み水に毒を混ぜる作戦を独断で決行したり、魔物達の子供を盾にしたりと敵には容赦しない。
「(ジェリス…… ほとんど話したことないのに…… 足手まといと思われていたとはな……)」
アンナとジェリスの姉弟は常に一緒におり、ロッソは彼と会話をした記憶はほとんどなかった。手を前にだして彼の言葉を遮ってキースは首を横に向ける。
「三人は同じ意見なのか…… ラブリはどう思う?」
キースは自分の後ろにいた女性に問いかける。
「どうでもいい。あたいはあんたの命令通りにするだけだよ」
ぶっきらぼうに背後の女性が答える。女性は背が小さくキースの半分ほどの身長しかないドワーフだ。彼女の褐色の肌に綺麗な銀色の髪を頭の上で二つにわけたいわゆるツインテールの髪をしている耳が横に長い。女性はラブリ・ヨハンセンという。
彼女は長年魔族が支配する、北の果てにある魔大陸を監視していたロード騎士団領の騎士団長の娘だった。目が丸く綺麗な赤い瞳をして見た目は幼いが、人間でいうと三十歳を超える。白く輝く鎧に背中には身の丈よりも大きいハンマーを背負っている。パーティの先陣を切ることが多く、どんなに苦しい戦いでも涼しい顔で弱音を吐かずにたんたんと戦果をあげる。キースに次ぐ実力があり魔王軍との戦いでは彼の右腕として活躍した。
「(ラブリか…… 彼女はよくも悪くも一番軍人らしいやつだったな…… 上官であるキースの命令が絶対で他の人間の言うことは聞かなかった)」
ロッソの顔がわずかに緩む。ロッソは元々故郷の国の軍隊に所属していた、他の三人とは少し違って軍人気質のラブリとは彼は話が合ったのだ。ラブリはロッソを励ますこともあったほどだ。
アンソニー、アンナ、ジェリー、ラブリ、この四人は十二人いた勇者キースパーティの中でも選りすぐりの四人だった。四人とキースが中心となり魔王討伐は行われていた。人々は彼らを
「そうか…… わかった。みんな聞いてくれ。不満はあるだろうがロッソは連れて行く」
「キース!? あたし達の言ってること聞いてないの?」
アンナが食い下がる。キースは表情を変え、険しい顔をアンナへと向けた。
「ダメだ。これは決定だ。反対するならアンナ…… 君にパーティから出ていってもらう」
「なんで!? どうしてよ? あんなのろま……」
さらに必死にさけぶアンナに顔を向け、ニヤリといやらしくキースが笑った。
「聖女アルティミシアに謁見した時に彼女は僕に預言を教えてくれた。その預言には赤い髪の戦士が勇者の盾となり魔王との戦いに勝利するであろうと……」
「赤い髪…… ロッソ君のことですな」
「あぁそうだ。だから彼は連れて行く。僕が勇者であるという証明のために…… もう文句はないな?」
顔を横に動かしてキースが、全員の顔を見て強い口調で同意を求めた。全員がうなずくとキースはパンっと手を叩き話を終わらせて部屋から出て行った。
ロッソはキースたちが出ていった扉を呆然と見つめていた。
「あいつにとって俺は仲間じゃなかったんだな…… 俺はあいつにとって勇者であることを証明する道具……」
うつむいてつぶやくロッソの足元の床が白く明るく何かに照らされた。
「そうじゃ…… 眠っていたおぬしの横でこんな会話があったんじゃ」
「うわ!?」
声を聞いて顔をあげたロッソの前に、拳ほどの大きさの白い光が浮かんでいた。突如現れた光に驚きロッソは思わず声をあげた。
「なっなんだよ…… この光……」
「なんだじゃと!? わしのことは覚えておらんのか。けしからん奴め…… まったく誰がおぬしをこの世界に……」
「はっ!? そうだ! 俺が最初に死んだ時に…… じゃあやっぱり俺は…… また……」
目を大きく開くロッソ、彼は思い出した。ロッソは地球から転生した時に目の前の白い光に、導かれこの世界にやって来た。ロッソは再び白い光が現れたのを見て、自分が魔王城でキースに殺されたとはっきりと自覚した。
「俺はキースに殺されたんだな」
「違うぞ。おぬしは生きるんじゃ!」
「はっ!? 生きるって…… クックソ! 急に腹が…… 痛くなって……」
苦痛に顔をゆがめ腹を押さえるロッソ、白い光との会話の途中で彼の腹が急に激しく痛みだしたのだ。
「もう目覚めの時じゃな…… ロッソ! 真実を知った転生者よ。預言を信じ進むのじゃ」
「なっなにを…… ぐっ…… クソ!」
ロッソは腹を押さえうずくまり、力尽きて倒れた彼は再び深い眠りにつくのだった。
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