天使族の襲撃
さらさら…ちょろちょろ…
あれからさらに地面を掘り続け…。
地面に耳を近づけると、かすかに水の流れる音が聞こえる。
や、やっと!!
神様からくれたシャベルのおかげで疲労は全くない。が、そろそろこの作業にも飽きてきたころだ。
「ティス、ティス!水、流れてる!!」
地上にいるティスに必死に声をかける。
しばらく待つと、ティスがひょっこり顔を出した。
「やっとね。もう夕暮れよ、作業は明日にしたら?」
ティスがウンザリとした顔をしながらそう言う。
そう、ティスはなんやかんや言いながらも手伝ってくれていたのだ、それも休まずに!
井戸もあと少しだな。
―が、ここで大きな問題に直当たりすることとなる。
……いや待て。水をくみ上げるバケツやロープがないな。
現代ではくみ上げポンプとかがあるけど、ここにはないし…。
…仕方ない。どうしてもないようだったら、タネを使って育てるか。
正直言ってタネの無駄遣いはしたくない。
なんせ、タネが尽きたらどうしようもないからだ。
「ちょっとマシロ!さっさと戻ってきなさいよ、もうじき暗くなるわよ」
「え?…うわ、ほんとだ」
空を見上げると、空はほとんど紫色に染まっていた。
さっきティスが夕暮れだとかなんだとか言ってたけど、そんなに時間が経っていたとは。かれこれ一日中作業してたな…。
もうすぐで川にたどり着くのに、という名残惜しさを感じたが、暗くなっちゃ作業は
はかどらない。
仕方なく、地上に戻ることにした。
土のカベを上りながらしみじみ思う。
ああ…昔は、実家でよく木登りとか山登りとかしてたな。
確か「木登りの達人」とか言われてたっけ。なつかしっ。
「よっ、こらしょ」
地上に出て、ぐいーっと伸び。
と、近くにいたティスが、ミケンに軽くシワを寄せて、言った。
「…近くに人がいるみたい。しかも、集団で」
「人?」
めったに人がこないのに…。
しかも集団で、か。
ベツに怪しいわけではないけど、ティスはなにやら考え込むような表情をしていた。
「…一応見てくるわ。もう寝ておきなさいよ」
「は、はあ…」
なんか子ども扱いされている気がする。
まあいいけど…。
ティスは羽を出して、どこかに行ってしまった。
何気なく空を見上げると、ティスの言う通り、空は夕暮れ。
現代とあんまり変わらない空だった。
ああ…なんか、ここが異世界だということを忘れてしまいそうだ。
…さっき見た羽はおいといて。
ここは異世界だけど、実際異世界にいそうなやつは天使族しか見てないんだよなぁ。
もっとさ、スライムとかドワーフとか、なんなら魔王とか。
そういうの、見て見たい気もする。
まあ、平和が一番なんだけどな。
僕は風にあたりながら、はあ、と息を吐いた。
平和すぎる。平和…。
―ドゴォォオォオォォォオン!!!
「うわあぁぁああっ!?」
スゴイ衝撃音に、肩をびくつかせる。
な、な、何の音?なんだ!?何が起こった!!?
こんな衝撃音、現代では聞いたことがない。
あるとしたら、アニメ。か、マンガ。
やはりここは異世界だと、思い知らされた。
♢♢♢
そういえばティスは?僕がのぼってくる間にどっか行ったのか…?
って、そんなの今はどうでもいい。
あの音の正体を確かめなければっ…!
音がしたのは、小屋を出て、ちょうどまっすぐのところ。
一応のため、剣を持って行くことにした。
もしかしたら、魔物が暴れているのかもしれない。
そこには木くらいしかないはず、だったが―。
数秒差で、ぐらぐらっと木が揺れ、何本も地面に落ちる。
うわあああああ!!
心の中で絶叫した。声にならなかったから。
なんで!?なんでこうなる!!
ビクビクしながら慎重に前に進む。
暗い森は、昼間と違って不気味に見える。
こ、こええ~…!
これはお供として人形が欲しいな。
と。
「…いつ…で……なとこ……にいる」
話し声が聞こえた。
僕の耳がピクリと反応する。
あっちか?
声のするほうにゆっくりと近づいていく。
木をなぎ倒したのってアイツら…だよ、な。たぶん。
ヘタしたら、僕もあの木みたいにザックリ切られるかも…それだけは阻止せねば。
木や草むらのカゲからこっそりと顔を出す。
コワモテのおっさんが先頭。後ろには男女が何人か立っている。
そいつらの手には剣や弓などの武器を持っていた。
…やっぱり、木を倒していたのはコイツらか。たぶん!
一見、ただの冒険者に見える。が、決定的に違うところがあった。
そう。背中に、ティスと同じような羽が生えていることだ。
これってあれか。天使族ってやつか?
羽の大きさは人によって多少違うが、色はみんな真っ白だ。
…ていうか、コワモテのおっさんに羽とか面白いくらい似合わねー!!!
顔と、真っ白な羽を見比べ、必死に笑いをこらえる。
…いやいやちょっと待て。どうして天使族(たぶん)がこんなところにいる。
天使族といえば、関係性があるのはティスしかいないが―。
そのとき、ザワリとイヤな予感がした。
なんだ?このいやな感じ…。
ティスは天使族の落ちこぼれだと言っていた。
その天使族たちが、今この場にいる。
社畜のときは、全然頭なんか回らなかったのに、今になって、ギラギラと冴えている。
天使族が来た、それはつまり―?
そこまで考えて、僕はブンブンと首を横に振った。
…大丈夫、だよな。ティスは強いから。
そう信じて、そういえば、と思い当たる。
…コワモテのおっさんは、一体誰と話してたんだ?
途切れ途切れにしか聞こえなかったけど、どう考えて独り言ではなさそうだった。
ぐるりとあたりに視線を巡らせる。
暗いから、余計に見づらかった。
真っ黒な髪の毛に、真っ黒な服を着た女の子が。
「…何の用?わたしを連れ戻したって、そちらにとっては何の得もないでしょう」
コワモテのおっさんの真正面には―ティスがいた。
艶のある黒髪をさらりと揺らして、おっさんをにらみつける。
と、おっさんの後ろにいる女の子が言った。
着物のようなものを着た、気弱そうな天使だ。羽が生えている。
「お、落ちこぼれが偉そうにしないでよっ!魔物の討伐しかできないくせにっ」
「そうだそうだ!お前は黙って俺らの命令に従ってればいいんだよ」
「あんたみたいな落ちこぼれ、誰も必要としないんだからっ!!」
続けて、紫髪の短髪野郎が言い放ち、さっきの着物天使が再び口を開く。
それから、何人かが賛同して、ギャアギャアとうるさくなる。
おっさんは何も言わない。それどころか、満足そうに笑っている。
天使族が、同じ種族の仲間をバカにしている―。
それを聞いて、腹のそこが、フツフツと熱くなった。
なんだ?この感情。なんだよ、この光景―。
ふとティスのほうを見ると、相変わらず顔や態度は変わっていなかったが、少しばかり不安そうに、見えた。
もうガマンできない。
ティスは、まだ出会って少ししか経っていない。
けど、もう十分大切な仲間だ。
ティスが落ちこぼれだなんて言われる理由が分からない。
ギュッと、手に持っている剣の持ち手を握りしめた。
―剣を持ってきておいたよかった。
あまり物音を立てないよう、ゆっくり立ち上がる。
「…もう、わたしは里には戻らないわよ」
ティスは、ゆっくり低い声でそう言った。
おっさんが冷たい目でティスを見下ろす。
「ふっ、落ちこぼれが何を言っている。お前は、我ら天使族に従ってればいいんだ!」
ピキ、と、おっさんのこめかみに青筋がたつ。
「何度も言ってるでしょう。耳が腐ってるのかしら?わたしは里には戻らないわよ!」
「うるさい!!痛い目を見なければ分からないようだな」
おっさんが、腰にささっていた鞘から剣をゆっくりと抜く。
後ろにいた男女混じった天使族たちも、それぞれ武器を構えた。
―ティスって、魔法使えるのか?
でも、どちらにせよティスを守らなくちゃ。
そういえば、僕、ティスを助けたことあったっけ…?
「はああああああ!」
みんなが一斉にティスに襲い掛かる。
こんなの不利だろ。
―ガキンッ!!
金属と金属の衝突する音が、あたりに響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます