井戸をつくろう
井戸づくりなんて書くの初めてだから、果たしてこれでいいのか…?
―――――――――――――――――
やっぱり一晩じゃ家は育たなかった。
翌朝、タネを植えた場所を確認する。
芽…は出てるな。
まあ家だもんな。
気長に待つしかない。まあ、ティスはガッカリしていたけれど。
「…はぁ~…」
「そんなガッカリするなって」
朝飯は、昨日ティスが狩ってきたボアの肉。
これまたうまい。素手なのはちょっとアレだけど。
「仕方ないだろ。家なんて、そもそも育つかどうか分かんないんだし」
「そうだけど!でも、あんだけわたしのがんぼ―ごほん」
今願望って言いましたよね?
まあいいけどさ。
―それにしても。
「この肉…うまいけど、ずっと食べてるとのどが渇いてくるな…」
「あ、それわたしも思った。もう一回、川、行かなきゃね」
「えぇ~…遠い…」
「わたしの羽があるから大丈夫よ!」
確かに。
でも、いつまでもそれだと不便だ。
考えるんだ僕!
もっと効率のいいなんか―あ。
「そうだ、井戸をつくればいいんだ!」
「はぁ!?」
思いつきでそう言ってみたら、ティスが「あんた何言ってんの」的な顔をして僕の顔をのぞき込んでいた。
あ、あれ。なんかヤバいこと言った?
「あんた…井戸のつくりかた知ってるの?」
「へ?…も、もももちろん知ってるけどっ」
「ふーん、じゃあ言ってみなさいよ」
「うっ。…正直よくワカリマセン」
「はぁ…ったく。井戸ってのはね―」
うんたらかんたらたらたらりん。
長い説明を受け、頭がクラクラしたのが分かった。
「―な感じでつくるのよ。あんた、一人でできるの?」
ギロリとにらみつけられて、ひぃっと肩をすくめる。
で、でも、神様からもらったシャベルがあるし…。
あれで掘って行けば、疲れないのでは?
そりゃ、長い時間は要すると思うけど…。
僕は立ち上がって言った。
「それでも、やってみるよ。ティスだって、あそこまで行くの大変だろ?」
「え?そりゃあそうだけど…マシロ、あんた本気で言ってる?」
「僕はいつだって本気だよ!」
社畜時代よりかは、ね!!
小屋にシャベルを取りに行こうとドアを開ける。
と、ティスがしぶしぶというような感じで立ち上がったのが視界のすみに見えた。
「ティス?ベツに手伝わなくたっていいけど…」
手伝ってほしいけど、やりたくないならやらなくてもいいし。
ティスは大きなため息をついて、ぽつりとつぶやいた。
「なによ。ベツに手伝わないとは言ってないでしょうが」
「そ、そうか」
こっそりティスを見やると、耳が少し赤かったので、ツンデレか?とニヤニヤしてしまった。
それにしても、ティスって性格はあんまし可愛くないけど、顔はいいんだよな。
なんか悔しいな!!
僕なんか、未だに顔すら見てないのに…。可愛いとは言われたけど、一体どんな顔なんだか。
しばらくティスを眺めていたから、視線に気が付いたティスに「見ないで!」と怒られた。
井戸をつくる場所は、剣が育った場所の反対側。
川は小屋を出て右のほうにある。まあ、ざっと一キロ半くらい。
とにかく、水が流れるまでひたすら土を掘りまくる!!
僕らの予定では、井戸の直径一メートルほど。深さはまだ分からない。
最初に、軽く円をかいておいた。大体の井戸の大きさだ。
シャベルの持ち手をしっかりと握り、ざくっ、と地面に突き立てる。
ちなみにシャベルは一つしかなかったから、ティスは小さなスコップでやってもらうことにした。
さすがに女の子にシャベルは持たせたくない…という34歳のおっさんの考えである。
まあ、彼女は小さいスコップで不満足そうだけど…。
「…なんでこんなち…っちゃいスコップで…わたしだってシャベルでやりたかったのに……ブツブツ」
みたいなことをさっきから呪文のように言っている。怖い。
「え、えーと、ティス…さん。落ち着こうか、いったん」
「はぁ?」
ギロリとにらまれて、ビクッと肩をすくめる。怖え!!!
「………シャベル、やる?」
「! いいの!?」
さっきまでの雰囲気とは一変、明るい雰囲気に変わる。
うわあ…オンオフ激しいっ。
ティスは、さっそく持っていたスコップを僕にわたし、僕はシャベルをティスにやった。
強制。強制…。
うん…これでよかったんだ。たぶん。
るんるんとシャベルを持ち、ざっくざっく土を掘っていくティス。
―34歳のおっさんの考え、滅亡。
あくまでティスは、論外…。
ざくっ ざくっ ざくっ ざくっ
ざくっ ざくっ ざくっ ざくっ
もう勝手に手が動いてる気がする…。
スコップにのった土を、えいやっとそこらへんに移動させる。
神様が用意してくれたスコップだから疲れはない。けど、土があんまりのらないな…。
ちなみに、ティスさんはバリバリ土を出しています。スゴイ。
やる気がオーラとなっている…!!目の奥が炎で揺れてます。
僕も負けてられない。
たとえ、ちっちゃなスコップだとしても!!
太陽の光に反射する、銀色のスコップを握りしめる。
額に浮かんだ汗をぬぐって、僕は再びスコップを地面に突き刺した。
♢♢♢
「全然川の音がしない…」
「だから言ったじゃないの。大変だって」
―一時間後。
僕は、地面に耳をくっつけて音を聞いていた。
もちろん、川の音だ。
…が、水が流れる音なんてこれっぽっちもしない。
ていうか、土臭い!
穴は、三時間ほどかけて三メートルほどとなった。
なかなか進んでると、個人的には思う。
「やっぱりもうちょっと掘らなきゃダメか~…」
「当たり前でしょ。ほら、さっさと作業再開するわよ」
地上に座っていたティスが、穴に落ちてスタッと着地した。
最初はやる気なかったくせに…まあ手伝ってくれてるならいいか。
ざくっ ざくっ ざくっ ざくっ
ざくっ ざくっ ざくっ ざくっ
ざくっ ざくっ ざくっ ざくっ
あたりに響くのは、そんな音。
土は、ティスに運んでもらうことにした。
なので、僕の手元にはシャベルがある。ティスは、不満そうな顔をしていたけれど。
「ふう…のど乾いた~」
誰にも聞こえないよう、一人そうぼやく。
ここまで大変だったとは。現代はじゃぐちをひねれば水がでてきたもんなぁ…。
不便だ。不便すぎる。
電波だってなさそうだしな。
「顔、土ついてるわよ」
「え?」
いつのまにかとなりにいたティスが、僕の顔を覗き込みながら言った。
どこだ―と思い、ぺたぺたと顔を触る。
と、クスクスとティスは笑った。
「そこじゃないわよ」
「えぇ~…じゃあとってよ」
ダメ元で言ってみた。
まあ、こんなお願い、ティスが聞いてくれるわけもないだろう(失礼)。
こしこしと手の甲で顔をこすっていると、にゅっとティスの華奢な指が伸びる。
ん?
なにして―
ぐいっ
頬をつままれる―というか、ぬぐわれる感覚。
何度もパチパチと目をまたたいた。
「とれたっ」
ティスがパンパンと手をはたく。
…夢か?これ夢かな?
実は34歳のおっさんなのに女の子に土をぬぐってもらえるとか夢だよな?
いや、もう転生してる時点で夢のような気もするが。
頬をつねって夢か現実か確認しようとして、―やめる。
また土がつくだろうから。
せっかくぬぐってもらったんだし申し訳ない…
それにしても、相手は無自覚なのだろうか。
じろりとティスを軽くにらむ。
僕が勝手にいろいろと想像してるだけだろうな。うんうん。
勝手に想像して勝手に納得して、僕の井戸づくりはさらに続いた。
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