剣が育ち、川を求め、美女と出会う
翌日。
夜がきたのかは知らないが(小屋の中に窓がないからな)、ぐっすり眠れた。
ああ、何時間も眠れたのは久しぶりだ。睡眠ってやっぱり大切だな。
なんだか疲れが取れた気がする。睡眠神。
ごしごしと目をこすりながら、外に出る。
「ん~っ…ふう」
軽く伸びをして、息をつく。
…そういえば、お腹が減った。
ぐうう、となるお腹をさすりながら、僕はため息をついた。
狩りとかもしなくちゃいけないようだな…困った困った。
と、ここで僕は思い出した。
昨日植えた、タネのことを!!
そうだ、タネ!芽、出てるかな!?
期待に胸を膨らませ、昨日土を耕した場所に向かう。
と、一度冷静になった。
…ま、一日で芽が出るわけないよな。
水だってやってないしよ。
僕としたことがはしゃぎすぎたみたいだ。中身34歳のおっさんなのに。
なーんて思いながら、昨日タネを植えた場所に顔を出す。
それに、剣をイメージしたところで、本当に剣が育ってるかは分からないし―。
「って、剣が生えてるぅぅぅぅ!?」
思わず絶叫した。
え、え、えぇえ?
たった一日で?一日で、剣が育っちゃったの?
しかもこれ…どういう状態よ!
植物のツルが剣に巻き付いてる感じ。なんか気持ち悪っ。
恐る恐る近づく。うわ…怖え。
(ていうか、これ引っこ抜けるのかな)
剣の持ち手の部分を握り、力を込めて引っ張る。
「うわぁっ」
簡単に引っこ抜けた。思わずしりもちをつく。
剣に巻き付いていたツルのようなものは、力をなくしたかのように地面に垂れる。
太陽の光に反射して、ピカピカと光る剣。
僕がイメージした通り、豪華で、金色で(持ち手が金色だった)、見るからに強そうな剣だ。
鞘付きだったので、鞘をゆっくりと抜いてみる。
剣の先のほうをちょんとつついてみると、人差し指の先が血でぷっくりと膨れ上がる。
うわ…これ、切れ味も相当いいんじゃないか?
だって普通触っただけで、指切れるもん?
「おぉ~…!すごい!」
その剣はずっしりと重く、剣の先は太陽の光でキラキラと光っていた。
これ、強そうだな!いつか効果を試してみたいもんだ。
…まあ、剣なんて使えないんだけどな。
それにしても、小屋が小さいな…。
僕が寝る場所は一応確保しているが…これから、もし農具たちが増えていくと考えると、小屋も大きくしたい。
まあ、今の課題はこんなもんだな。
水がない!
ちゃんとした寝る場所がない!
小屋が小さい!
食べ物がない!
みたいなとこか。
結構重大な問題たちだな。特に水と食べ物。
水と食べ物は最優先。小屋や寝る場所はなんとかなる。
そういえば、昨日と今日、何も食べていないし飲んでいない。
そろそろお腹もすいてきた。
せめて、川でも見つかればいいな。
いつかは、小屋の近くまで川をひきたい。
もし、なにかに出くわしたときのために、育ったばかりの剣は持って行くことにした。
木の実、ナゾの果実、食べられそうな葉っぱ…。
なんとなく安全そうなものたちを集めたが、僕はううんとミケンにシワを寄せた。
ダメだ。知識なんてまったくもってないし、来たばっかりだから、これが安全な食べ物かどうかわからん。
もしかしたら毒があるかもしれない…転生したばっかりなのに死ぬとかごめんだ。
木の実たちとにらめっこしたあと、僕はため息をついた。
…やっぱり、最優先は川だな。
のどが渇いた。このまま川が見つからなくて一週間過ぎたら、死んでしまうぞ。
人類、水さえあれば生き延びれるらしいし。
それに、今まで食べられそうな獣もいなかったしな。
この山には、そういうのがないのかもしれない。
困ったものだ。
でも、川には魚たちがいるかも。
調理方法とかは、よく知らんけど…まあなんとかなるだろう。
前向きに考え、木の実たちは一応持っておくことにした。
♢♢♢
僕は川を求めて歩いていた。
額に浮かんだ汗をぬぐい、ひたすら歩く。
も、もう足が限界に近いぞ…。足が棒になっちゃいそうだ。
汗が目にはいってくる。しみて、思わずごしごしと目をこすった。
ぼやける視界の中、目をゆっくりと開ける。
「…?」
あれ。目の前に手を腰に当てた美女が見える。
気のせいか?気のせいだよな。
だって、こんな山奥だもん。人がいるのはおかしい。…まあ、僕がいるんだけど。
もう一度ごしごしと目をこする。今度はハッキリ見えた。
「なによ、さっきからジロジロ見ちゃって」
「…うわああぁぁあぁぁああぁあっ!!?」
しゃべった!しゃべった!!
何回もごしごし目をこすり、目を開ける。
げ、幻覚じゃなかった…。
と、鼻がくっつきそうなキョリにあの美女がいた。
「ひっ!?」
思わずあとざする。間近で見ると、結構な美少女だった。
「人の顔見て叫ぶとか、最低ね。…ま、顔は可愛いから許すけど」
顔が可愛いからって…うれしいようなうれしくないような。
ようやく顔が離れて、一安心する。
改めて、まじまじとその美少女を見つめた。
黒い艶のある髪の毛は、腰あたりまである。
黒曜石のような黒い瞳。服もほぼほぼ黒。たまに白がはいってるくらい。
どれだけ黒好きなんだよ!!
「…ところで。こんな山奥にどうしているの?」
美少女が座りながら急に尋ねられ、「ひゃいっ」とおかしな返事をする。
それ、聞きたいのはこっちなんだけど!?
こんな山奥に人がいるなんて思いもしなかったじゃんか。
「ひゃいっ、って…ビビりすぎじゃない?」
「ごごごめんなさい…」
「いやべつに謝ってほしいわけじゃないのよ」
「ごごめんなさい…」
「あーもう!謝るなって言ってんのよばーか。あんた、まだちっちゃい子供でしょ?どうしてこんな山奥にいるかって聞いてんのよ!」
ひぃ、鬼だ。怖っ。
僕は嚙みながらも、今までの経緯を話した。
ただし、僕が話したら、そっちもどうしてここにいるのか、と話してもらう条件で。
もちろんウソなどついていない。ウソなんかついたら、殺されそうで怖かった。
会って初めての人に名前も教えてしまった。よいこは知らない人に名前を言ってはいけないゾ!
その美少女は興味深そうに言った。
「つまり、転生者…ってこと?そんな言葉聞いたこともないけど。…ま、いいわ。つぎはわたしが話す番ね」
待ってましたァ!
美少女は腕を組みながら、なぜか自慢げに言った。
「わたしの名前はティス。天使族よ」
その美少女はティスと名乗った。…どう考えても天使族とは思えない。
どちらかといえば、悪魔?服が黒いし。
「ごめんなさいね。この山に入って人に出会ったのはあなたが初めてだったから、ついつい見入っちゃった」
「は、はあ…で、あなたはどうしてこんなところにいるんですか?」
一応敬語。
すると、ティスは目を伏せて言った。
「…わたし、天使族の中でも落ちこぼれなの」
ん?
それが、山にいることと何か関係があるのか?
「魔法はうまく使えないし、体術もできない。…この山の魔物、剣を一振りすれば楽勝に倒せちゃうから。その魔物の討伐を、落ちこぼれの天使に頼んだ、ってわけ」
そう、だったのか。
なんか悪いこと言わせてしまったな。
罪悪感に浸っていると、ティスが「そういえば」と付け足した。
「名前…マシロ、だっけ。手に持ってるその剣、どこ手に入れたの?」
剣?…ああ、これか。
僕は鞘から剣を抜いて見せた。
「これはね―」
タネを植えたら育ったんだ、と言おうとしたところをティスに遮られた。
「ちょ、ちょっと待って。その剣、魔力が膨大なんだけど?」
ティスが顔をしかめながら剣を眺める。
「ま…魔力?」
そんなの気にしたこともなかったけど。
「ええ。この剣、価値はSSSに匹敵するわよ」
「え…SSS!?」
…SSSって、なに?
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