第5話 シュガーという男

シュガーという男。


人材派遣会社経営、45歳。


承認欲求と自己顕示欲の塊のような男であった。


それも、彼の幼少期の環境ゆえだったのであろう。


彼は実業家の父のもと、何不自由なく裕福に育った。


しかし、それも12歳までの話。


彼が13歳になるころ、父の家業の業績が不安定になった。


父は家族を見捨て、シュガーは母と2人きりになる。


母も母で、他の男をとっかえひっかえでシュガーの面倒は片手間であった。


そんな両親の元育ったシュガーは、異常なほど寂しがり屋に育った。


彼の心は常に渇き、なにかを欲していた。


それが大人になってもなお続き、彼を富、名声、女に向かって走らせたのだ。


そんなある日、彼は豪遊仲間と趣味の釣りに、自分のクルーザーで出掛けていた。


「これが俺の船。

 イカすだろ?

 うちの派遣社員、安い給料でもあくせく働くのよ。

 それで、俺はこんなに潤っちゃうワケ!

 あっはははははは!」


「おぬしもわるよのお、なんつって!

 ははははは!」


クズである。


自社の社員を働きアリ、死んで当然の兵士のように本気で思っている。


なぜなら、自分は恵まれない家庭環境からのし上がって社長になった。


だが一方、派遣社員たちは何の努力もしていないから社長のような富も名声もない、使い捨てられる働きアリ同然だ。と本気で考えているのだ。


この日、彼らは釣りを楽しんでいた。


だが、釣りは長い。


落ち着きのない性格のシュガーは当然退屈になり、何かしていないと気が収まらない。


そこで、彼のクルーザーの走行速度の自慢が始まった。


「俺のこのクルーザー、デカい割に速いんだ。

 いっちょ試してみないか?

 お前たちも見たいだろう?」


「ああ、見てみたい!

 さすがはシュガー社長、いいクルーザーだねえ。」


「いやいや、おたくのクルーザーだって珍しい、世界に数台しかないじゃないか。」


社長同士の下心が見え隠れするおだて合い、見るに堪えない。


そうして、シュガーは高速でクルーザーを運転する。


もちろん、法律で決められた航行速度など無視している。違反の運転だ。


不良の中学生が違反である煙草を吸い始め、俺ってすごいだろ、と承認欲を満たすあの行動と何ら変わらない。


ブブーーーーーーン


クルーザーが勢いよく発進する。


しばらく高速運転を続けると突然、ガゴンっ!!!と異音がした。


「やべえよシュガー。

 なんか轢かなかったか?」


「ん? イルカかなにかだろう。

 まあ、かわいそうなこった。」


そして、船が通った後ろを振り返ると、そこは血の海になっていた。


さらに、その中心には人間の親子らしき人影。


シュガーはこの時すでに悟っていた。


俺は人間を轢いたのだと。


だが知らないふりをした。


海に監視カメラなどないからバレない、と。


その後も、彼は平然と豪遊を続けていた。


まるで親子など轢いていないかのように・・・。


だが、仲間だと思っていた豪遊仲間からの裏切り告発により、この事件は白日のもととなったのだ。


その告発した豪遊仲間はシュガーの同業他社であり、シュガーには消えてほしかったのだ。


類は友を呼ぶ。クズの友はやはりクズなのだ。


さて、事件発覚後。


シュガーは往生際悪くまだ罪を認めておらず、裁判で無罪を主張している状況だ。


ここまで事故がバレてもなお、無罪を主張するド畜生である。


無論、遺族への謝罪もない。


彼は、自分は悪くない、親子など見えなかったのだと主張する。


わが身大事。


保身のことしか考えていないのだ。


そんな彼は裁判中であるにもかかわらず、まだザギン街で飲んでは騒いでいる。


そして今夜、主人公ジェイクに殺されるのだ・・・。



<<作者あとがき>>


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