第4話 殺し屋ヴェスパー事務所

俺は今、殺し屋ヴェスパーの事務所前にいる。


殺し屋だ、なにか下手したら殺されるかもしれん。


俺はびくびくしつつ、やっと事務所前まで来たのだ。


ただ、神、リラも同伴しているのは心強い。


神がいれば、怖いものなどないさ。


俺は自分にそう言い聞かせ、殺し屋ヴェスパー事務所の呼び鈴を鳴らした。


ピンポーン


「はーい。」


男の声だ。


ガチャっ


メガネをかけた金髪サラサラロン毛の男。


煙草をくわえている。


「何の御用で?」


すると、リラが答える。


「チェスナット通り3番地のウィルマーだ。」


「内容は?」


「カラスは真夜中に飛ぶ。」


「OK。

 中に入って。」


なんなんだ、今の?


「合言葉だよ。

 ヴェスパーはこういうのが好きなやつなんだ。」


すると、金髪男が自己紹介をする。


「俺はトニー。

 見ない顔だね、君たちは初めてのお客さんかな。」


すると、俺に受け答えをするよう、リラが肘で俺を小突く。


「あ、ああ。

 初めてだ。

 仕事をあっせんしてほしくてね。

 俺はジェイク、彼女はリラ。」


「なるほどね。

 人手がほしいところだったんだ、助かるよ。

 でもね、うちもプロの殺し屋なんでね。

 誰でも彼でも仲間に引き入れることはできない。

 だからね、君のチカラ、試させてもらうよ。

 ヴェスパーに会わせるのもそれから。」


さすがにそうだよな。


信用問題もある。


ヘタレの無能を仲間にしちゃあ、とんだ足手まといで任務が失敗になるかもしれんし、当然と言えば当然だ。


「で、試すって言っても、何をするんだ?」


「ああ、殺しさ。」


トニーはニッと笑みを浮かべ、話を続ける。


「小物の案件で君の実力を試させてもらうよ。」


小物か。


まあ小物ならある程度今までヤッてきた。


簡単な仕事だろう。


「どんな奴なんだ?」


「こいつだ。」


すると、トニーは紙を1枚持ってきて説明を始めた。


「こいつは、シュガーという男だ。

 殺しの依頼があるわけじゃないんだがな。

 しかし、クルーザー船で親子をひき殺した悪党だ。

 ニュースでも一時期話題になったから知っているだろ。

 ひかれた親子のうち、子供は死亡、親は両足切断を余儀なくされた。

 こんなやつ、殺しても喜ぶもののほうが多い。

 つまり、殺しても差し支えない。だろ?

 だから、こいつの殺しをお前のチカラ試しとさせてもらうぞ。」


ああ、この親子のニュースは知っている。


この殺人犯はイケイケの中小企業の社長で、親子をひき殺した後も平然と豪遊を繰り返していたクズだ。


こういう人間はこの世から抹殺したほうがいい。


すると、リラが口を開いた。


「ああ。こいつは生粋のクズだな。

 魂がよどんでいるのが見える。

 こいつはこの世にいないほうが人類のためだ。」


まあ、神がそう言うなら間違いないだろう。


「で、こいつはどこにいるのかわかっているのか?」


「ああ。わかっているとも。

 シュガーはザギン街の高級クラブによく出没する。

 そこを見張っているといいさ。

 運が良けりゃ即日会える。」


場所までわかっているなら簡単な話だ。


「殺しの方法の指定はないな?」


「ああ。警察にバレなきゃなにしたっていい。

 バレたらお前が牢獄に行くだけさ。

 ただ、一般人だけは殺すなよ?」


「わかっている、当然さ。」


俺はそう言うと、ヴェスパー事務所から出掛けた。


と、帰り際にトニーが言った。


「そうだ、言い忘れてた。

 証拠としてシュガーの生首とか要らないからな。

 そんなのもらったってきたねえだけだ。

 シュガー死亡の情報くらい、こっちで確認できる。」


トニーはそう言い、俺は事務所を出た。


「なっ!

 ターゲットは小物だがいい情報をもらえただろう?」


リラは少し嬉しそうにそう言った。


「そうだな。

 しかし、相手はニュースに出てた人物だ。

 今までの俺の殺しに比べたら十分大物なんだがな。」


俺は、リラに1つ聞きたいことがあったので質問する。


「そういえば、シュガーの写真を見て、『魂がよどんでいる』とか言っていたな。

 どういうことなんだ?」


「私はな、そいつの顔を見るだけで、そいつの人となりが分かってしまうのだ。

 お前の人となりもわかるぞ?」


「ほえー、すごいな。

 俺の人となりはどんなだ?」


「そうだな。

 ひとことで言えば、正義の悪といったところか。

 正義のためならば殺しもいとわない、サイコパスだな。

 まあ、だからこそこのチカラを与えるのに最適な人物だと思ったんだ。」


たしかに、初めて人を殺した時も、別に動揺しなかった。


至って冷静。


あっ、死んだ。くらいのテンションだった。


サイコパスか、悪くない響きだ。


そうして、俺とリラはシュガーという男を殺しにザギン街に向かった。



<<作者あとがき>>


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