第27話 常に理想の隣人とは限らない。


「はー。まいったなぁ…」


 こうして絶望していても仕方がないので、やれることを探す。


 メニューウィンドウから召喚可能なモンスターを見る限り、汎用的なモンスと海にまつわるモンスだが現状では弱いタイプの数種類しか呼び出せないようだ。


 *召喚可能なモンスターの一覧です(一部制限中)*


・ゴブリン 5p

・スライム 5p

・コボルト 7p

・ハーピー 10p

【海属性(一部制限中)】

・魚類(小~中型で種類問わず)1p~10p

・貝 0~1p

・海藻 0~1p


 *現時点では以上です*


「えっと…モンスター枠らしきものがゴブリン、スライム………弱そう。しかも海属性に関してはモンスターですらない気が…得意フィールドに賭けて、魚でも出してみるか?」


 試しに魚を1匹出してみることにした。もしかしたら戦える強い方の魚かもしれない。角とか生えてたりしちゃったりして。


「システムメニューっと…魚を選んでOK。よし…一番高いのを頼む!」


 *特に指定がないため、マグロを召喚します。ただし小ぶりなものです*


「あ、え?ま、マグロ!?角が生えたかっこいい魚とかじゃなくて!?ちょ、ちょっと待った!」


 *ヴォン……*


 時既に遅し。マグロが召喚された!


「あ…」


「ビチビチビチビチ………」


 すごく新鮮で油が乗って美味しそうなマグロが地べたを跳ね回っている…。


「ほ、本当にマグロ…これでどうやって来襲者と戦えば…?」


 いやにリアリティーみ溢れたマグロのあがきを見下ろして唖然としていると、マグロが暴れるのをやめ、何かを言いたげにこちらを見つめてくる。何かを期待しているように見えなくもない。


(とにかく、挽回する方法を探さないとな…)


「なんも役に立たない魚が一匹だけだし…」


 俺の言葉を聞いていたのだろうか。魚はパクついていた口をピタリと止め、流暢な言葉をその口から紡ぎ出した。


「………ワシが役に立たんて?そら呼び出した自分の責任やないの?」


「し、シャベッター!?」


 周囲を見渡すが、俺と魚しかいない。気のせいではない、マグロが語りかけてきている!


「お、お前が、話しかけてきたんだよね?」


「ッチ……そんなことより今めっちゃ苦しいねん。はよ海出してくれへん?エラ呼吸しかできひんの忘れとらんやろ?まさか、このまま窒息で殺すつもりちゃうやろな?」


 困惑している俺を置き去りに、当たり前のことをペラペラと喋るマグロ。


「え、えでもお前は戦えないし、海に変換するのはポイント高いし。いいか?このゲームはポイントってのがあって――」


「かああああ!!」


 マグロは一度大きく跳ね上がると口を高速でパクつかせ、超早口で文句を垂れた。


「わかってないってほんまに怖いですわ。頼みますよ、ダンジョンマスターさん。キッチリとしてもらわんと困りますわ。こっちも命懸けで召喚されてあげたわけでまさか自分が安全なとこで指示出しする手前、こんな暴挙かますとか、さすがにナメてません?じゃあなんです?もし、このままワシがここで無様に息絶えたら、これ、完全に労災モンやないですか。ちゃんと報告書には『ダンジョンマスターの放置により、部下一匹が呼吸困難で死亡』って書いてくださいよ。あーあー!書けるんすか汚したその手で!かああああああ、下手うったら悪名高きダンジョンマスター出来上がりってなもんですなぁ!?まあ、ワシなんかたかが魚が一匹死んだところで自分は新しい魚でもモンスターでもぽんぽんと雇えばええだけかもしれんけど、なんしかこっからしたら一大事なんですよ。家族もおるし、ローンも残ってるし、死んだら死に損やないですか。名誉ある死ならまだしも、呼び出されただけで死ぬとか自分にそんな権利あるんけ?理不尽にも程度ってものがあるんと違います?ワシの命、軽く見んといてください。とにかく、さっさと海出して。もう限界。今すぐ対応せんと、ほんまに後悔することになりますよ。あー死ぬ。もう苦しい。死ぬ死ぬ。エラに残った空気はあとなんぼや?こんなに喋ったせいで寿命がほらもうゴリゴリ削れてんで?ダンジョンマスターとしてのプライドがあるなら、プロの仕事してください。お願いします、ほんまに!もう呼吸止まるで!ええんか!?」




(どうしよう。とてつもなく見捨てたい衝動に駆られる!)


「………。」


 仕方がないので、20p使って通路を海仕様に変更。すると通路はすぐ水浸しになり、やがて首の深さまで水位があがった。


「へぇ~!こうやって変化させられるのか。面白いなぁ~」


「はよせえ!」


 うるさくて重たいマグロを引きずり、海エリアとなった通路へ放流する。


 ちなみに作業には5分ほど要したがマグロはあまり苦しそうにしておらず、元気だった。


「時間かかりすぎやねん!」


 マグロは海に浸かった途端に一度だけ舌打ち(どうやったのかは知らない)して泳いでいった。


(残り85pもあったのに今は55pか……)


「あと残されたポイントできることと言えば、モンスター召喚だけど、どうせなら海属性がいいよな…」


 かと言って魚でも出そうものなら、あのマグロがうるさいだろうし…。


 海エリアを作ったことで、改めてモンスターが増えていないか期待しつつチェックしてみた。


 *召喚可能なモンスターの一覧です(一部制限中)*


・ゴブリン 5p

・スライム 5p

・コボルト 7p

・ハーピー 10p

【海属性(一部制限中)】

・魚類(小~中型で種類問わず)1p~10p

・貝 0~1p

・海藻 0~1p

・New:ケセランパサラン 10p


 *現時点では以上です*


「海エリア作ったのにそこまで増えていない!?」


 やはり通路だと狭すぎるのだろうか?どうせ同じポイントを消費するならフロアを海にするべきだったか。


 気になっているのは、呼び出せる海属性にケセランパサランという項目が増えている点だ。


「呼び出す前に、どんなモンスターか下調べしないとね。もう1pも無駄にできない…」


 ケセランパサランの項目を選択すると説明がポップした。


 *魔力を多く含む海上にふわふわと浮かぶ白くて丸いモンスター。嵐の前触れとも言われている謎の生物で、生体についてはほぼ判明していない。悪しき兆しとも幸福の兆しとも言われるが、熟練の漁師はこのモンスターが居る海域を避けて通るという。単体での戦闘能力は皆無であり、目撃しても無視されることが大半*


「うわ……弱そうじゃん。でもこれしかいないし、もう仕方がないか。」


 海エリアの補正でせめてゴブリンより戦えるといいなという期待でぽちっとな。


 *ヴォン……*


 荒いポリゴンは徐々に形を形成し、フワフワと空中を彷徨う白きモンスターが生み出された!


「フワ……フワ……」


 ふっと息をふきかければ飛んでいきそうなタンポポの綿毛に、大きな目がくっついたような愛くるしい見た目をしている。ただし目はひとつだ。


「か、かわいい、のか?まぁ、戦闘で役に立てばいいか。」


 *ケセランパサランが配下となったため、ステータスが更新されました*


「お、どれどれ?」


⚜___Unit Data___⚜


【仲間】

[ステータス]

[ NAME: ケセランパサラン(命名可能)]

メダル:不使用

[クラス: ]

[ LV: 1 ] < EXP: □□□□□□□□□□ 0/100 >


[ HP: 50 / 50 ]

[ MP: 200 / 200 ]

[ STR: 1 ]

[ DEF: 1 ]

[ AGI: 5 ]

[ INT: 20 ]

[ LUK: 20 ]


<装備>

頭 :


<スキル>

【麻痺の魔眼】

※相手を10秒ほど麻痺させる。30秒に一度だけ使用できるが、既に同様のスキルが使用されていた場合、30秒経過まではこの効果は対象外となる。


<クラス特性>

・相手を麻痺させること以外、特に脅威とはならないモンスター。

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