第26話 リサーチは大事


 *開始地点に到着いたしました。最初の襲撃はゲーム内時間で今から24時間後です。では、ご武運を!*


 無機質なガイダンスと同時、見覚えのないエリアへ放り出された。サバイバルはもう始まっていると言わんばかりに、襲撃時間までのカウントが始まっている。


「さて、まずは状況確認っと。…ここはどの辺りだ?」


 周囲にはヤシの木やソテツに類似した植物が自生しており、少しだけ磯の匂いがする。イベントエリアの中では海辺が近い場所なのかもしれない。


「なるほど、得意フィールドが関係しているのかもな。親切にも近場でスタートとは。…で、持ち物は……こ、これだけ?」


 装備、アイテム類は全て没収されており、インベントリには水晶のようなものがひとつと、メダルがひとつだけ格納されていた。


「メダルと…オーブかな?」


 水晶の方はパンフレットに書かれていたオーブで間違いないだろう。オーブのアイテム説明には、ゲーム内時間で24時間経過すると、強制的にインベントリから出てしまうと注意書きが記されている。つまり、何も対策をしなければ、来襲者が来たタイミングでオーブが持ち物から強制排出されるということだ。ちなみに、一度インベントリから出したら再格納は不可だ。


「これが奪われたら俺の負け、守り切れたら勝ちってことだな。インベントリにしまい続けることはできないから、早めにダンジョンを作らないと……メダルはあとで確認しよう。」


 周囲を見回し、防衛拠点に向いているか検討してみる。


「うーん。岸辺を探すか?でも地上で迎え撃つには、海は視界が良すぎるしなぁ…。理想の拠点候補が見つかるまでどれくらいの時間がかかるかも分からないし……」


 地上をダンジョン化してもいいが、やはり閉鎖空間であり、かつ一方通行の道のほうが防衛は容易い。と、シンプルに考える。探索して時間が間延びするリスクを考えると、その場でダンジョンを構築し始めるのが得策かもしれない。


 現時点の周辺はジャングルのような場所だが、視覚から得られる情報から見ても、なんとなく南国っぽい雰囲気を感じ取れる場所だ。開拓すれば観光には向いてそうだが、この環境を活かし、そのままダンジョンとして使うにはやや不向きと言わざるを得ない。何か手を加える必要があるだろう。


「となると…まずは洞窟そのものをダンジョンマスターの能力で生み出すべきだよな。」


 ダンジョンと言えば洞窟。閉鎖的かつ一方通行だし、罠の設置も容易だ。一見、理想の条件は揃っているように感じる。


 甘すぎる方針が決まったところで、さっそくダンジョン作成。


「え~と、たしかクリエイトメニューから操作するんだったよな。って高!」


 使えるポイントは100あるが、洞窟の入口だけで10ポイントも消費してしまうようだ。通路や部屋なんかは5pでいけそうだが、気軽に使えばすぐに積みそうな値段設定である。


「雨宮さん、これ絶対に調整不足ですよ。普通こういうのはタダでいいですって。」


 答えてくれるはずはないが、どこかで聞いていると願って愚痴る。


「ええい、もう作ってしまえ!」


 ひとまず、洞窟の入口を10p消費してクリエイトボタンをぽちっとな。


 ヴォン……。


「うお、一瞬でできた!?」


 システムメニューから呼び出した途端、ポリゴンがオブジェクトを一瞬で構築し、ずっと昔からそこにあったかのような自然さで入り口が生み出された。


 鬱蒼としたジャングルの奥地にダンジョンの入口……それっぽい雰囲気に見えなくもない。


(意外と悪くないかも)


 入ってみようと手を伸ばすが、見えない壁で遮られてしまう。現状は入り口だけなので入ることはできないようだ。


「ここから通路をつなげていけばいいんだな。…よし!」


 さらに5p使って入口から長さ500m程度、幅高さ共に人が2、3通れる程度の通路を作った。これは最初から存在しているテンプレ通路を入口につなげただけである。


「お!入れた!」


 通路を作ったおかげで入り口からダンジョンに入れた。入った途端に雰囲気は一変し、まさにダンジョンに相応しい雰囲気に。


「おお~!これは面白い!直感的に作れるから、俺でも大丈夫そうだ。」


 だが残されたポイントは85。このままいけば2、3階構造のごくシンプルな無人ダンジョンとなってしまうだろう。


「通路を海水で満たしたりできないのかな?ふふん、俺の得意フィールドは『海』だからな!」


 俺の得意フィールドは海。つまりダンジョンであれば水を使ったギミックを安くで作り出せるはずなんだ。そう考えてシステムメニューからトラップの項目を閲覧する。


「どれどれ。…水中呼吸可能な海ステージへの変換が部屋毎に20p…時間までにスイッチを押さなければ海水で満たされる罠が10p、足を掴んでくる海藻モドキの群生地が生成に5p…トゲや落とし穴が5p……ぜ、全部高い!!」


 罠のプリセットはどれもゲーマーセンスありきな、組み合わせ前提のトラップだらけだった。


 クリエイト素人な俺からしてみれば、これを出されても『だから何?』となるだけであり、何をどう活かせば良いダンジョンにできるかなんてわからないわけで。友達のヤナギンならきっとこれだけで活路を見出すだろう。


 しかも何気に全部高い。そのまま使えば2階層はおろか、1階のダンジョンとなってしまいそうだ。フィールド変換に関しては20pと、かなりきつい制限がついている。


「あれ?もしかして俺、ダンジョン作りミスった?」


 考えてみれば『海』が得意なのにジャングルの中で『洞窟』を生成してしまったことが問題な気がしてきた。補正がかかっていないのであれば、ポイントが高くなるのは当然であるからして。


「だ、大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃない。そう、そうだ!…キャンセルボタンだ。キャンセルをさがせ!」


 システムメニューから洞窟の削除を選択するが、注意書きを読んで手が止まった。


 *ポイントは戻りません。削除しますか?*


「ダメじゃねぇか!!」


 思わず自身にツッコミを入れて膝をついた。


「うおおお!どうする!俺!洞窟と通路だけのダンジョンマスター!」


 リサーチの重要性をむざむざと見せつけられた気分だ。友達のヤナギンがもし一緒なら今頃、俺のケツを蹴り飛ばしているだろう。


「そ、そう。俺はモンスター特化タイプのダンジョンマスターだ。ここはモンスターで挽回するべきだ。そういうことですね?雨宮さん!?」


 俺はどこかで腹をかかえて笑って見ているであろう雨宮さんに向けて呟き、システムメニューからモンスター召喚画面を開く。


 *適正フィールドが存在しないため、召喚可能なモンスターが制限されています*


 膝をついて頭を抱えた。


「やっぱダメじゃねぇか!!」




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