第15話 戦いは仕込みが9割で1割が真心
「尻尾を巻いて逃げるかと思っていたぞ。この重罪人めが!……だが、一人で、約束違わず、時間通りに来たことだけは評価してやろう。褒美として、せめて苦痛なく殺してやる!」
町のメインストリート。急ごしらえで作られた木製の絞首台の前でイゾベルは待っていた。俺の顔を認めるや否や、絞首台の舞台から飛び降り、断罪するように高らかに叫ぶ。今にも得物を抜きそうな剣幕だ。
(騎士団とは、名ばかりだなぁ…。)
「イゾベル…お前と会うのは2回目か……それにしても、ずいぶんと、汚い手を使ったな。」
俺の言葉に激昂したイゾベルは顔を赤くして剣に手をかけて言う。
「貴様が、言うな!!…死霊術を使い、少なくない犠牲を出しておいて…!」
俺が来なきゃ、見せしめとして関係のないスラムの人を処断していく。というのは本気だったようで、ボロの服を纏った人たちが、両手を縛られ、列に並ばされている。
(俺が約束を果たさなきゃ、この人たちが騎士団によって首を吊るされていたってことか。)
並ばされている人の数が多いのは、俺が出てくるまで一人ずつ絞首台に上げていき、町民の怒りの矛先を俺に向かわせるためだろう。約束を違えればスラムの人は明日にはすっからかんだ。
(絶対に俺をここで殺すぞという、イゾベルの強い意思を感じる。)
イゾベルは一呼吸置いて、傍聴している人たちに宣言した。
「親愛なる民衆よ!よく見なさい。今やってきたこの凶悪な面をした大男こそ…『爆発するスケルトン事件』を始めとした凶悪犯罪の首謀者、モヒカンである!!」
町民たちは一斉にざわつき、手配書と俺の顔を見比べたり、ヒソヒソ声で何かを喋りながら互いの顔を見合わせたりしている。
一区切りして、イゾベルは言葉を続けた。
「罪状は、婦女暴行未遂、教会の襲撃、金品の強奪、司教のモヒカン化、禁術の行使、そして…極めつけは、我らが騎士団270名余りの団員を爆殺、領内の爆破!!その凶悪な罪を読み上げ始めれば、キリがない!」
(司教をモヒカンにするのを他の凶悪罪状と同列にするのは何なんだ…?あと金品はひとつも盗ってないぞ…?)
「我らが正義と平和を取り戻すため、騎士団の威厳と名誉にかけて、この悪魔のような男に裁きを下す!」
イゾベルは剣を抜き、その鋭い切っ先を俺に向けた。
「モヒカン…いや。貴様にもはや名前など不要。重罪人よ、この場で私と戦って、そして死ね!私自ら、貴様に引導を渡してやる…!」
(彼女が決闘という形にこだわりを持つのが気になったので、ひとつ聞いてみよう。)
「…イゾベル、と言ったな。これは一対一の決闘と受け取ってもいいのか。」
「貴様と問答するつもりはない。………と言いたいところだが、まぁよい。死ぬ前の手向けだ。特別に教えてやろう。質問の答えはイエスだ。これは、私の実力を示し、貴様の首に慈悲なき裁きを下すための決闘だ。貴様には死すら生ぬるいが、ここで貴様が死ぬことは、我々にとって価値があるのだ。」
(イゾベルが刑罰として決闘にこだわるのは、騎士団の名誉や強さを示し、今一度町民たちに安心を与えるため…なのかなぁ?)
俺たちが起こした『爆発するスケルトン事件』は、実際に騎士団を壊滅手前まで追い込んだ。これは、町内外の脅威と戦ってきたヴァルザック騎士団の強さに疑問を持たせる結果となっただろう。
民衆たちは気が気じゃなかっただろう。次は自分たちの土地が爆破されるかも、と思えば有望な人材は町から離れるし、治安は荒れ、後の統治に障る。
これを解決するためには、俺を公の場に引きずり出したうえで、彼女ら騎士団の力を改めて顕示する必要があるのだ。
イゾベルが手配書をばら撒く形で、俺に対して決闘を申し出なければ、俺は粛々と騎士団の敷地や団員を爆破していただろうから、彼女の判断はひとつを除いて誤りとは言えない。
だが、ヴァルザック騎士団はひとつ大きな間違いを犯した。
「いいだろう。その決闘、このモヒカンが受けて立つ。場所とルールは?」
"ピコン!"
___________________
SYSTEM: QUEST UPDATED!
クリア条件が更新されました。
クリア報酬が追加されました。
クリア条件:イゾベルを決闘で倒す。
追加クリア報酬:今まで倒した団員数の経験値がボーナスとして獲得可能。
※クリアするまで団員殺害による経験値はシステムにプールされます。
※敗北でクエスト終了。リスポーン後は町への出入りが不可になります。
クリア難易度: Extreme (キャラクター再作成を推奨)
[Next] [閉じる] 5秒後に自動でウィンドウが閉じます……
___________________
(レベル6で高レベル相手してクリアしろってか…。しかも負けたら町の外にポイって……。)
イゾベルは顔を歪め、隠しもせずに不快だという意思表示をした後、言葉を発した。
「………決闘を受けるかどうか、貴様にその選択肢は、無い!!場所は今ここで、ルールは一方が死ぬまで継続することだけだ!!」
「俺は魔法を使うが、召喚しかできない。決闘は一対一ってことだけど、いいのか。あとゲームを始めたばかりで武器や防具が無いんだが。」
「魔法は立派な武器だ。それで戦って見せたらどうだ?防具は……貴様はこれから死ぬんだ。血で汚れたら、洗うのが大変だろう。故に用意はしない。貴様には素手とボロ切れの服がお似合いだ!」
(横暴すぎない?本当にチュートリアルなのか?)
だが召喚を使っていいという許可が下りたので、そこは遠慮なく使っていこう。
「…逃げるのは禁止か?」
「当たり前だろう!この場から逃げたら、決闘は負けだ!この戦いはお前の処刑でしかないことを忘れるな!」
「…負けた時の言い訳は禁止だぞ。あと待ったもダメだ。勝者は全ての特権を有する。」
「誰に向かって口を聞いている?当たり前だろう。もう始めるぞ!おい、そこのお前は立ち合いをしろ。」
イゾベルは俺の言葉を真に受けず、近くの団員を立会人として見届けるように申し付けた。
「かしこまりました。イゾベル様、勝利を祈っています。」
「ふん…祈る前に終わらせてやるさ。3秒だ。距離を詰め、剣を凪げば終わりよ。」
(立会人って第三者が普通だろ。八百長のニオイがプンプンなんだが!)
団員は俺とイゾベルの間に立って、互いに少し距離を取って始めるように言って、俺とイゾベルで交わした決闘の取り決めを宣言すると、決闘開始前の口上を述べる。
「――以上が取り決めとなります。決定が覆ることはありません。それでは、これより重罪人の処刑を開始します。お互い、用意はいいですね!」
せめて決闘と言って欲しいな。と思いつつも詠唱を始めた。
(深淵より目覚めし凶兆よ。契約者の名において汝を魂の楔から解き放つ。出でよ……)
心の声で詠唱を始めると、モヒカンの体から禍々しいオーラが生まれる。
俺は術の発動を構え、イゾベルは剣を構えて合図を送る。
「始め――」「しねえええええ!!」
若干フライング気味にイゾベルは駆けだす。
「サモン・ダークネス!」
俺の足元が闇色に煌めき、骨が這い上がってくる。
合図早々に、イゾベルは数歩で俺の距離付近まで肉薄するが、俺だってなんの対策もなしにこの賭けに出たわけじゃない。
イゾベルは口の端を上げて勝利を確信しつつ、剣を振り下ろす。
「今から召喚しても間に合わないだろう!この距離ではもう遅――!?」
―ドガァァアン!!―
突如、イゾベルの踏み込んだ足元が爆発した!
イゾベルは突然の爆発になすすべなく、走り出した勢いのまま、きりもみして民家の壁に突っ込む。
場は痛々しいほどの静寂に包まれた。
「……―もう、遅い、とでも?」
凶悪な面のモヒカンアバターが鋭い笑みを浮かべた…!
⚜⚜⚜⚜
TIPS:
イゾベルのデータ
[ステータス]
[ NAME: イゾベル ]
[クラス: 騎士団長]
[ LV: 15 ] < EXP: □□□□□□□□□□ --/100 >
[ HP: 918 / 1750 ]
[ MP: 200 / 200 ]
[ STR: 40 ]
[ DEF: 40 ]
[ AGI: 40 ]
[ INT: 15 ]
[ LUK: 15 ]
<装備>
右手: 騎士団長の盾<DEF+10>
左手:騎士団長のロングソード<STR+20>
頭 :なし
胴 :騎士団長のキュイラス(欠損)<DEF+0>
足 :騎士団長のグリーヴ(欠損)<DEF+0>
<スキル>
【剣術】【重装の心得】
<クラス特性>
・町を牛耳る騎士団の団長でNPCの一人。力、防御、素早さがよく育つ。
幼少期、盗賊に父と母を殺されている。という設定がAIのアルゴリズムに付与されているため、賊やならず者を見ると容赦なく殺す性格になった。見境いがなく、善悪の区別を白と黒でしか判断しない。たまにやりすぎる傾向がある。
そのため、悪人や組するものに対し、事情を一切問わず、少しでも妥協したり、手心を加えたり、改心を期待することもない。
通常のプレイヤー同様のステータス補正があるため、正攻法で彼女を倒すつもりなら、キッチリ育てていないと漏れなく返り討ちにあうだろう。
善寄りのプレイヤーなら打ち解け、仲間にさそうことができる。
仲間にすれば、とても頼りがいのある騎士となり、彼女自身を改心させ、良心を取り戻させる専用クエストが用意されていたりする。
腕に自信のあるプレイヤーは是非仲間にしてみよう。
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