第14話 果たし状
ゲームにおける召喚士とは、普遍的に言えば大抵、物質やらモンスターやらを現世に顕現させる能力を持つ。呼び出されたナニカは、主のため、目の前の困難やあらゆる障害を打ち倒したり、有利な状況を作り出す。
そして、大抵の場合は、顕現したものが意思を持ち、その場に残り続けることがない。
仮に残ったとしても、非常に限定的な条件や能力上の制約が付きまとう。
何故か。
理由は簡単で、そのような仕組みを容認してしまえば、ゲームバランスが崩れるからである。
それを許容する大規模なクラスの構築システム、対抗馬となりうるアイテムやクラスの用意、広大なステージがあれば、その限りではないものの、それ自体が大きな力であることには変わりない。
それこそ、一人で数多の敵と相対した時でさえ、条件次第では勝機を掴んでしまうほどの力だ。
⚜⚜⚜⚜
「今回の作戦も成功だ。ハゲ、よくやった。次でしまいにするぞ。」
「カタカタ…!」
「しかし、ここまで巧く事が運ぶとはな…。」
俺は骨の相棒と頷きあい、騎士団襲撃における、最後の作戦をボロ宿で考案していた。ちなみに前回襲撃され返された家は引き払い、同じスラム内の別の宿に潜伏中だ。
「騎士団の方たちも、どこから現れるか分からない"爆発スケルトン"に警戒しているようでした。モヒカン様が考案なされた『徹底的な隠密&拠点爆破作戦』は大成功ですね!!」
イレーネは両手を合わせ、満面の笑みだ。
「うむ…。」
彼女が言った『徹底的な隠密&拠点爆破作戦』…。これはハゲ、イレーネと一緒に考えた兵数差を覆すための一手だ。
数百という兵を持つ騎士団と正面切って戦うのは愚策だったため、戦力を少しずつ切り崩していくにしても、敵の数は150倍近くある。いくら【不死】持ちでも何等かの方策が必要だった。
キッカケは現実で休憩で戻った際に、掲示板で軽く書き込みされた何気ないコメント『レーンの町付近で爆発するキノコが群生しているので注意。これで死んだ。』という旨の内容だった。
大量の爆発するキノコ…。
これを使って、戦力差を覆せないかと3人で考えたのだ。
おおよその作戦はこうだ。
ハゲのスキル【不死】を活かし、爆発性のあるアイテムを大量に持たせて遠距離から『サモン・ダークネス』で敵陣の重要施設付近にハゲを召喚。可能であれば、そこから徒歩で爆破予定の拠点内部に潜り込ませ、自爆特攻を仕掛けるというもの。
当然、ハゲはアンデッドなので爆死でロストする心配はない。
仮に作戦遂行自体に失敗しても、その場でハゲごと爆破させることで、敵兵と拠点の両面にダメージを与える予定だった。しかし、ハゲは俺が思ったよりもずっと強化されており、白兵戦では負け知らずだった。今のところは全ての見張りの騎士を打ち倒し、重要拠点を内部から破壊できている。
襲撃に際して、予め町内外で少数編成された哨戒中の騎士を襲って被害を出すことで、拠点の外側に注意を向けさせるのも必要だった。
兵数が減れば減るほど、拠点の襲撃は成功しやすくなる。
当然ながらハゲはアンデッド化しているため、たとえバラバラになろうが、爆発で粉微塵になろうが、HPはすぐに全快し、何事もなかったかのように復活するのだから、ちょっとした戦闘であれば、勝つのは目に見えている。
拠点の爆破後はすみやかに召喚を解除し、自分の元に呼び寄せる。そしてまた爆破物を収集する。こうして、拠点と敵兵の圧倒的な数を切り崩していく。
これが結果から言えば大成功だった。騎士団の拠点でまだ形を残しているのは、現時点で本丸の宿舎のみ。残りはすべて爆破してやれた。
残存兵力は分からないが、町を練り歩く騎士の数は明らかに減っているのだ。
「モヒカン様が、町に巣食う鉄頭たちを減らしていくごとに、闇の信仰も高まっていくのを感じます。弱者を守れぬ正義に、どんな意味がありましょうか。この調子で、間違いを消し去っていきましょう。あぁ……なんて素晴らしいことなのでしょうか。」
イレーネは組んだ手をそのまま天に捧げるように高く掲げ祈った。
(邪教徒みたいなことを言わないでくれ!)
「カタカタ…カタカタ…」
ハゲも骨を揺らして困っているような仕草をしてみせる。
(……でも実際にそれっぽいことをしているので否定もできない気がする。うーん。まぁいいか。)
「イゾベルには、しかるべき対応をする予定だが……ん?」
ボロ宿の獣人女将さんが勝手に扉を開けてきた。手には何やら丸めた厚紙が握られており、少し焦った様子だ。ちなみにスラムの人たちは骨のハゲを見ても、不思議な事に全く驚かない。まるで生前のハゲを目の前にしているような対応を取る。
「あーたたち。大変なことになったわよ。これみなさい、これ!」
「一体どうしたのです?」
イレーネが受け取り、厚紙をテーブルに敷いて広げた。
そこには俺の手配書の内容に加え、こう記されている。
『町に潜伏している卑怯なならず者の首魁、モヒカンに告ぐ。私との1体1の決闘を受けなさい。これ以上、被害を増やし、双方の仲間が傷つくのは望むところではないはずだ。断る自由は与えよう。だが、もしも来なければ、スラムを炎で包み、貴様を見つけ出して、この手で裁きを下すまでだ!』
「……これは。」
いわゆる、果たし状ってやつだ。それも特大の人質付きの。
「なんてこと…!ここには身寄りのない小さな子たちもいるのに、許せない!」「カタカタ…!」
イレーネが眉間にしわを寄せ、果たし状をぎゅっと握りつぶす。
「モヒカン様、応える必要はありません。これは罠です。彼女たちは貴方をあぶりだし、殲滅するでしょう。何か別の手を、考えなくては。」
(正直なところ、暗殺、こちらも人質で対処する、などの抜け道は山ほどある…だけど…。)
「いや……俺は、この決闘、受けてたつ。」
「モヒカン様!?」「カタカタ…!?」
俺に与えられたクエストは、イゾベルを倒すこと。方法は書かれていない。
だが、ここで彼女に応えなければ、町の住民…スラムの人の無事は約束されない。
彼女を打倒する。その目的だけを果たすのであれば、被害など無視すればいい。だけど、たとえNPCであっても、力なく罪も選択肢もない彼らを、犠牲にするのは、絶対に間違っていると思ったのだ。
「決闘には応える。だが……そうだな。少しくらいスラムの人を人質にとった意趣返しをしてもバチは当たらんだろう…。二人とも、知恵を貸してくれ。」
「私にできることなら。」「カタカタ…!」
3人でイゾベルをギャフンと言わせるための悪だくみを始めよう。
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