第16話 レーンの町崩壊 ならず者の町爆誕!


「くそ…いったい何がどうなっている!?」


 民家の壁に激突したイゾベルは悪態をついて、瓦礫を押しのけ、ふらつきながらも立ち上がって態勢を整えた。爆発のダメージがよほど大きかったのか、着こんでいた防具はボロボロになっている。


「これで死なないとは…頑丈な奴だ。」


 今までバクレツタケの被害を受け、立ち上がれたのは彼女くらいだ。腐っても騎士団長の実力はあるということか。


「ふん……貴様とは鍛え方が違うのだっ!」「サモン・ダークネス」


 ―ドガァアン!―


「ぐはぁ!?」


 またもや、イゾベルの足元で爆発が前触れなく発動する。先ほどのような大規模な爆発ではないため、盾をダメにするくらいのダメージしか与えられなかった。


「これも耐えるとは…。」


「ぐ……卑怯だぞ!先ほどからの前触れなき爆発!一体、どういうカラクリなんだ!」


 どうして騎士という生き物は、律儀に相手がなんでも教えてくれてるものだとして話を進めたがるのか。まぁNPCだからそういう設定なんだろうけども。


「教えるわけないだろう……と言いたいところだが、教えたところで対策はできない。だから、特別に教えてやる。……実は、お前の足元に『スケルトン』を召喚しているのだ。」


「スケルトンだと?」


「…ああそうだ。」


「…ふざけるな!スケルトン単体で爆発を起こせるわけがない!第一、貴様が呼び出したアンデッドは、貴様を守るようにして、立っているではないか!それに、私が斬りかかる直前まで、そのアンデッドは魔法陣から顕現する途中だったんだぞ!」


 彼女の言うことはもっともだ。俺が呼び出したハゲ(スケルトン)は俺の前で立っている。俺が呼び出せる召喚は今のところ1体だけで、伏兵のような存在を出せるほどの余力はない。


 もっと言えば、召喚が完了するまで、ハゲは満足に動ける状態じゃなかった。召喚物は完全に顕現するまで、動きに大きな制約がかかるというのは実験で明らかになっている。当然、戦いの経験が多いイゾベルはそれを常識として知っていたから、油断したのだが。


「イゾベル。だからこそ、お前は足元に注意を払わなかった。不完全な召喚の途中で、俺を斬ってしまえば勝ち確だと思っていたんだろ。」


「なんだと…?」


「だが、どうだろう。考えてみてほしい。…もし『部分的』にスケルトンを分割し、召喚できるとしたら。部分的な召喚であれば、お前との距離でも十分に間に合うのであれば。」


「…!?」


 俺はこれよみがしに、召喚が終わったハゲ(スケルトン)の腕を持ち上げ、二の腕から先が無いのをアピールする。


「俺は、最初からスケルトン1体しか出していない。ただし『腕』と『それ以外』を同時に、別々の場所で呼び出していた。このスケルトンは特別性能でね。頭がいいんだよ。だから頭さえ召喚が間に合ってくれれば、その場で呼び出した別の骨は、コイツの任意で動かせる。」


「カタカタ…」


 俺はハゲの頭を骨の胴体から取り外し、持ち上げる。


 ハゲの頭蓋は、何事もないように歯を打ち鳴らし、笑ったように動いて見せた。


「頭と胴体、そして手足が全てくっついているかどうかは、コイツにとっては、そこまで重要じゃない。…これで、わかったか?」


 そういって俺はハゲの頭蓋を元の体に戻してやる。ちょうどそのタイミングで、ハゲの二の腕から先が2本とも、時間差で再生できた。


(よし、ハゲの体の復元は完了。時間稼ぎはできたな…。)


 アンデッドの化け物は、体の一部が斬り飛ばされても、その一部が意思を持ったまま敵に向かっていく。なんてことはよくある特徴のひとつだ。イゾベルとしては、その特性を利用されるとは思ってなかったみたいだが。


 彼女は暫く困惑したままの表情だったが、やがて真理に辿り着いたようで、驚愕の色に変わっていく。


「わけがわからない。私の足元が突然爆発するのと、お前のアンデッドが切り離して召喚できることと、なんの関係が…はっ……ま、まさか!」


「サモン・ダークネス」


 俺の詠唱と共に、イゾベルの足元へ『スケルトンの腕』が召喚された。その間、当然ながらハゲの腕は切り離されている。


 召喚された骨の手には、バクレツタケが握られており、骨の腕は器用にそれをイゾベルの足元に押し当てた。


 ぶにぃっ…


「ひ、ひぃ…!」 ―ドガァアン!―


 叫ぶ間もなく、景気よくつぶれたキノコは爆発を起こし、3回目の爆破ダメージをもろに受けたイゾベルは地面に這いつくばったまま動かなくなった。


「うーん。やはり、そのままでも爆破はできるが、引火させたほうが威力は格段に上がるようだ。」


「カタカタ…!」


 ハゲは頷いて俺の独り言に付き合ってくれた。


 俺は倒れた彼女からも依然、距離を取って、語りかけるように説明する。倒れているからって油断して近くに寄っていって斬られるなんて展開を避けるためだ。AIであれば、話しかければなんらかの反応をするはずだ。生きていれば…だが。


「…このように、特定のアイテムを装備させた状態で呼び出すことができる。これは、スケルトンが装備を付けたまま召喚に応じたから、閃いたことだ。……まぁ、ほとんどイレーネの考案なんだが。」


 戦術のひとつとして、いわゆるコープス・エクスプロージョンは、よくある手だが、なにも、スケルトンのすべてを使って爆破させる必要はない。ということだ。骨の手さえあればどうにかなる。相手の前に、『いかにも』なスケルトンの本体をゆっくり出現させ、本命は足元から攻める。


 重要なのは手段の仕込みの方である。


「う…うう……。」


 しばらくそのままだったイゾベルは意識を取り戻す。


 ボロボロの状態でもまだ戦う意思をもっていた。剣を杖代わりにして、どうにか、立ち上がってみせる。


「まだ息があるとは……まともに戦っていたら、俺に勝ち目はなかったな…。」


(そして不用意に近づかなくてよかった。)


「わ、わたしには…うぐ…っく。貴様のような者には、理解できぬ、崇高なる使命がある。二度と、理不尽な暴力には屈しない。そのために、幼き頃から、ずっと鍛えてきたのだ。こんなところで、立ち止まっていられないんだ。……お前のような、ならずものに、好き勝手されて、いいわけがない…この町の平和は、私が、守るのだから。」


 進退窮まった彼女は、一息整えた。やがて正眼に剣を構えたその姿は、いっそ落ち着いて見える。


(すごい、なんか正義っぽい。)


「はあああああ!![セイクリッド・ブレード]!」


 まばゆい光が、彼女の剣を包み込んだ。


 どうみてもアンデッドに特攻のある剣技だ。初心者でもわかるくらい分かりやすい対策。


(やっぱり対策はしてくるよね。わかっていたけど。)


 彼女は最後の力を振り絞り、剣を上段に構えなおし、俺に向かって突進してくるが、それを許すほどハゲは甘くなかった。


「カタカタ…!!」


 ハゲは彼女の進行方向に陣取って、再生したばかりの骨の手で剣を抜き、構えた。


「邪魔だぁああああ!!」


 ハゲとイゾベルは剣を重ねると、激しく何合いか火花を散らす。アンデッド化したとはいえ、力関係はレベルが圧倒的に上なイゾベルに軍配があがるようで、すぐにハゲは骨の腕を斬り飛ばされた。再生する予兆も見えない。


「カタカタ!」「な、なに!?」


 人対人であれば、それでおしまいだっただろう。痛みでのたうち回っていたはずだ。だが相手は骨である。


 ハゲは残った方の腕で、自らの骨の中で尖った部分をへし折り、即席の刺突性ナイフを作るとイゾベルに組み付いてボロボロの鎧の隙間に差し込むように突き刺した!


「ぐ、ぐあああ!!こ、この…!」


 イゾベルは剣をがむしゃらに振り回し、ハゲを振りほどくと、頭蓋を斬り飛ばして召喚状態を消失させた。


(ハゲのHPがいまの攻撃で0になったんだな。いつも通り再生もしない。)


 ステータス画面を表示させても、召喚が解除された状態になっている。


 これが正真正銘、彼女の切り札だったということだ。


「はぁ……はぁ……ど、どうだ。モヒカン野郎。これで、頼みの綱の、スケルトンは消えた!わ、わたしの、勝ちだ!はぁ…はぁ…。あとはお前を、殺すだけだ!」


 満身創痍で歩きながら迫る彼女は、なかなかに迫力がある。だが、彼女は重要な部分を忘れている。


「俺は、アビスサモナー…召喚士だ。」


「だ、だからなん―……」


「サモン・ダークネス!」


 次の瞬間、俺と彼女との間に、悪夢が蘇る。


「あ……あ……あぁ…」


 悪夢を巻き戻したかのように、闇夜の光を携え、それは現れた。


 漆黒よりいずる、這い出る混沌の死者。


 先ほど、真っ二つに斬り捨てたばかりの頭蓋は、空虚な二つの窪みを浮かべて、その努力が無駄に終わったことを見せつけている。


「な……なぜ…」


 たしかに、イゾベルの攻撃で俺の召喚したハゲはHPが0になった。その場で蘇生する能力は使えず、召喚状態は解除された。


 『普通のアンデッド』であれば、それで本当の死を迎えるだろう。


 だがハゲは残念ながら俺と『契約』を結んでいる。プレイヤーと契約したモンスターは、システム上、プレイヤーに所有権がある。これを解除されない限りは、ハゲをいくら倒そうが木端微塵にしようが、MPを代価にすれば再召喚できるのだ。


 ゲームシステムに守られたハゲは二重の意味で【不死】となったのだ。


 アンデッドの名と意味に偽りなし。


 彼女からしてみれば、聖なる攻撃で確実に殺したはずの相手がすぐに蘇ったようにみえるのかな?


「教えてやる義理は、もうない。さぁ立て、イゾベル。町を守るんだろう?」


「う、うわああああ!!」


 がむしゃらに剣を振るい続ける彼女。


 骨を倒したら骨が出てくる。 骨を倒したら骨が出てくる。


 骨を倒す。 骨が出てくる。 骨を倒す。 骨が出てくる。


 骨が出てくる。 骨が出てくる。 骨が出てくる。


「も…もう……」


 骨は徐々に、しかし確実にイゾベルの体へダメージを蓄積させ、散っては蘇ってを繰り返す。


 やがて……


「む、むねん……。」


 善戦むなしく


 町を守る最期の砦は崩落した。


 剣を力なく手放したのだ。


 ・・・


 静寂がその場を支配する。


 イゾベルが倒れてしばらくして、我に返った見届人は剣を抜いて俺に襲い掛かってきた。


「だ、団長の仇ぃいいいい!!」


「…まぁそう来るよね。」


 だがその凶刃が俺の喉を貫くことはなかった。


「ロトン・ブラッド!」


「ぐわああああ!!」


 どこからか放たれた闇の魔法。禍々しい黒き球体が、見届人へ鋭く突き刺さると、生命力が吸収されたように皮膚が急速にしわがれていき、そのまま斃れた。


(念のため、イレーネに見守っててもらってよかった。)


 今の闇の魔法は、イレーネの仕業で間違いない。闇の神官だけが身につけることができる魔法の一種だ。アンデッドには回復効果があり、それ以外には逆の効果を及ぼす。


(収拾がつかなくなるまえに、宣言をしてクギをさしておこう。)


 俺は絞首台の上に上り、高らかに叫んだ。


「ヴァルザック騎士団は終わった!…今日から、この町は、俺が支配する!!もはや、この町は秩序ある平和なんかじゃねぇ……混沌なる、ならず者の町だぁ!!」


 絞首台に送られる予定だったスラムの人たちは縛られた手首を高く掲げ喜びを表すように叫び、町民たちはどよめき、騎士団員の生き残りは絶望し、神官は熱い眼差しを首魁に向け、骨はカタカタと震えた。


 この日、レーンの町は事実上の壊滅に至ったのだ。



 ⚜⚜⚜⚜



"ピコン!"

___________________


SYSTEM: WARNING! カルマ値が -1000 減少しました。


現在のカルマ値: -2100


クエスト「レーンの町・ヴァルザック騎士団長との対決!」

SYSTEM: CLEAR!!


イゾベル討伐に伴い、プールされていた経験値の獲得

および、町の占拠が可能になりました。


クリア報酬:

・レーンの町を獲得!!(ならず者の町に名称変更。全ユーザーに反映済み)

・経験値:6500exp 獲得!!

・称号【蛮族王】獲得!!

※・カルマが下がりやすくなり、カルマが低いほどカリスマ性が上がります。

・超高難易度スキルボーナス獲得!!


クリア難易度: Extreme (キャラクター再作成を推奨)


[Next] [閉じる] 5秒後に自動でウィンドウが閉じます……

__________________


"ピコン!"

__________________


SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!……


[ステータス]

[ NAME: モヒカン(AIによって自動命名) ]


[クラス:アビスサモナー]

[ LV:12 ] < EXP: ■■■■■□□□□□ 50/100 >


現在のカルマ値: -2100


※ステータス未振り分け: 60


[ HP: 1100 / 1100 ]+650

[ MP: 600 / 600 ]+300


[ STR: 30 ]

[ DEF: 20 ]

[ AGI: 30 ]

[ INT: 40 ]

[ LUK: 1 ]


<装備>

右手:

左手:

頭 :

胴 : (ボロの服)

足 :


<スキル>

・『サモン・ダークネス』

契約:ハゲ(スケルトン)

・契約枠:余り1に増加


<称号>

【脱走の蛇】【畜生】【お尋ね者】【蛮族王】


・永久的に、カルマが0から上昇しなくなります。

・悪属性のキャラクターから好感を得られやすくなります。

・関わった人が悪属性になる可能性があります。

・どこでも指名手配されます。

・カルマが下がりやすくなり、カルマが低いほどカリスマ性が上がります。

__________________


"ピコン!"

__________________


SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!

SYSTEM: LEVEL UP!!……


※規定レベル達成により、進化可能となりました!

※仲間のステータスを更新しました!


【仲間】

[ステータス]

[ NAME: ハゲ(優斗によって自動命名) ]

★進化可能★

[クラス: ホネファイター]

★進化可能★


[ LV: 10 ] < EXP: ■■■□□□□□□ 30/100 >


[ HP: 1750 / 1750 ]+1250

[ MP: 70 / 70 ]

[ STR: 50 ]+20<STR+1>

[ DEF: 20 ]

[ AGI: 45 ]+15

[ INT: 10 ]

[ LUK: 10 ]


<装備>

右手: (ボロい剣) <STR+1>

左手: (両手持ち)

頭 :

胴 :

足 :


<スキル>

【不死】【見切り】【近接戦闘術】【騙し討ち】


___________________


※イレーネはクエスト受注対象外です。

※ハゲが持っていた衛兵の槍は所持品にあり、作戦用には壊れてもいい剣を持参しています。

※ハゲのステータスポイント分はハゲの裁量でハゲが自分勝手に振り分けています。


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