第12話 さて、イゾベルをぶちころがすかあー!
「…クラスチェンジは完了しましたが…モヒカン様、次は何をされるおつもりなのでしょうか?…も、もしまだ決めていないようであれば、その、あの…私とお買い物でも…なんて」
(指名手配中に…?いやそんなことより…!)
「イレーネ、実は、もうやることは決めてある。」
眉をハの字にしたイレーネは心底残念そうだ。
「うう……そうですかあ。でも決めているとは…?」
イレーネに向けていた目線をハゲに戻す。
生前とは比べ物にならないほど、禍々しいオーラと戦闘能力を持ったアンデッドだ。
「……彼の力を借りる。」
ハゲがアンデッドとしてだが、復活してくれたので、完全ロストのリスクは無くなった。
当面の間はホネとなってしまったハゲの強化と、元に戻してやる方法と並行し、自身の強化もやっていくつもりだ。
だが、その前に、どうしても、キッチリとやられた分の落とし前はつけておく必要はある。
「…何をするのです?」
「ハゲの【不死】能力をフル活用し、イゾベルを倒す。」
イレーネは涙目になって、自分自身の体を抱きしめるように震えあがった。
「ななな…む、むちゃですよぉ!い、イゾベル様は、この町で一番の実力者なんですよぉ!泣く子も黙って土下座して、そのまま逆立ちして3回転スピンしてしまうほど怖い、ヴァルザック騎士団の団長様なんですよぉ!?」
(泣く子のスペック高すぎるだろう。というか、それだと謝罪する気ないだろ。)
「大丈夫だ。作戦は考えてある。」
これはモヒカンとして生きる上でも、秩序に屈しないというある種のRP…意思表示だ。難しいのは承知の上。
「ハゲよ、復活早々わるいが、お前の力が必要だ。お礼参りに付き合ってもらおうか…。」
「カタカタカタ…!!」
ハゲはまるで、「そんな!気にしないでくだせぇ、旦那!」とでも言いたげな様子で両腕の骨を広げ、頭蓋を横に振った。
あまり乗り気じゃなさそうである。俺が危険な賭けをするのが心配なようだ。
「そうか。……お前はそういうやつだったな。……だがな、ハゲよ。お前は、俺がこの世界に降り立って、唯一俺を邪魔もの扱いせず、対等に関わってくれた一人だ。結果的にはお前を失わずに済んだかもしれない。だがな、だからといって、イゾベルがお前を害したという事実は、変わらない。しかもえん罪だ。それに、奴の身勝手なふるまいは、辛抱ならないんだよ。」
「……。」
「モヒカン様……。」
煩わしくカタカタしていた骨は、その言葉を受けてピタリと止まった。しばらくしてハゲは、ゆっくりと頷いて見せた。
「よく決心してくれた。ハゲよ、…この力で強制的に従わせることもできたかもしれないが、やはり俺は、お前の気持ちを汲んだうえで行動に移したかったからな。ありがとう。」
ハゲは照れるように頭のほねをかいて見せた。
「モヒカン様、私もお手伝いいたします。」
「イレーネ、すまないが、お前は留守を頼めるか。と言っても、ここに盗るもんなんてないが。」
壊れかけの椅子、机。さらに臭い寝具と、イレーネが持ち込んだと思われる観葉植物。ちなみに食虫植物のような見た目をしている。
「な、なぜです!私だって少しくらいはお役に立てますよ!?」
「う~む……。」
ここでNPCのイレーネもパーティーメンバーに含めておけば、イゾベル討伐の成功率は格段に高くなるだろう。だが、彼女が万一、戦いの場で死んでしまったら困る。死後の契約が必ずうまくいく保証なんてないし、ハゲのように意識が戻るとも限らない。
それに、彼女をさらう目的は達成した。これ以上、危険なごく個人的な事情に、これ以上付き合わせちゃ悪い。
仲間でいてくれるにしても、彼女にはクラスチェンジや治療というサポート的な技能があるから、死ぬ可能性が高い場所に連れていくのは避けたいところだ。
「いや、だめだ…考慮したが…イレーネ、お前は連れていけない。」
「な、なぜ!」
「お前は……色々と、大切だ。」
(……また、意思疎通が雑になってしまった。)
「……!!」
なぜか、顔を赤くした神官少女は、顔を隠すようにうつむいて何も言わなくなった。
「そういうことだから、お前が矢面に立つことは避けたい。ほとぼりが冷めるまでここに居てもいいが、俺たちが騒ぎを起こす前に町から逃げるんだ。」
慌てて顔をあげたイレーネ、は勢いよく首を横に振って、潤んだ大きな目でこちらを見上げた。
「…い、いえ!ならば、せめて私は、ここにいます。ここでモヒカン様のお帰りを、お待ちしております!!」
やはり、仲間になってくれるということだろうか。だが、やはり心配だ。
「……危険だぞ。このまま一緒にいれば、騎士団はお前も俺の『仲間』として扱うだろう。」
「かまいません!そんなこと、最初から覚悟しています!私は、ダーク・プリーストのイレーネ。モヒカン様の従者として、教会と騎士団の過ちを正したいと思っています!」
「うむ……。」
ここまで言ってくれるのであれば、拒む理由なんてないか。
「……わかった。では、留守の間、このボロ家をまかせた。」
「はい!お任せください!!」
"ピコン!"
___________________
SYSTEM: NEW QUEST!
クエスト「レーンの町・ヴァルザック騎士団長との対決!」を強制受注しました。
クリア条件: Unknown
クリア報酬: Unknown
クリア難易度: Extreme (キャラクター再作成を推奨)
※クエスト失敗で大きなデメリットがあります。
[Next] [閉じる] 5秒後に自動でウィンドウが閉じます……
___________________
(俺の行動で、クエストが発生した……?)
当然だが、最初からこんなクエストは、よほど酔狂な開発者じゃない限り用意していないだろう。元々存在するクエストではない以上、情報を元に進めていくことはできない。
つまり、手探りで攻略していくしかない。
頼れるのは、己が判断力と勇気のみである。
⚜⚜⚜⚜
【仲間】
[ステータス]
[ NAME: イレーネ ]
[クラス: ダーク・プリースト]
[ LV: 1 ] < EXP: □□□□□□□□□□ 0/100 >
[ HP: 50 / 50 ]
[ MP: 200 / 200 ]
[ STR: 8 ]
[ DEF: 6 ]
[ AGI: 4 ]
[ INT: 20 ]<+10>
[ LUK: 10 ]
<装備>
右手: (黒くねじ曲がった杖)<INT+10>
左手: (両手持ち)
頭 :
胴 : (修道女の服)
足 : (皮の靴)
<スキル>
【クラスチェンジ】【ロトンブラッド】【治療】
<クラス特性>
・プリーストが特殊な条件下で自動的に変化するクラス。
意図的にこのクラスを目指すことは難しい。
元クラスが戦いをするクラス前提では作られていない。このクラスも同様に、正面切って戦うのは苦手。裏方において、その真価を発揮する。
TIPS:
【クラスチェンジ】
説明:NPCのプリーストだけが持つことを許されたスキル。
【ロトンブラッド】
説明:アンデッドを回復できるダークヒール。アンデッド以外が受けるとダメージになる。
普遍的な回復魔法とは真逆の効果と考えると分かりやすいかも。
【治療】
説明:魔法に頼らない、道具などを使用した医療術。イレーネは回復魔法の使用を、司教から厳しく制限されてきた過去を持つため、プリーストでありながらサバイバル系の回復スキルを持っている。
このスキルを使用し、騙し騙しだが自分にできる限りの医療奉仕をスラムなどで密かに続けていた。
装備:黒くねじ曲がった杖
説明:ダーク・プリーストになった影響で変化した魔法の杖。元は木肌色だった。
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