第11話 ゴブリンでもわかる!だれでも1日でカンタン死霊術!!


「モヒカン様、準備はよろしいですか?」


「あぁ、やってくれ。」


「分かりました。……では」


 イレーネがまぶたを閉じ、両手を組んで祈りを捧げるように言った。


「全能の神インダムよ。さまよえる魂に御加護を与えたまえ。その身に宿りし潜在能力を解放し、未来を切り開く力を与えたまえ。『アビスサモナー』として、新たな道を歩まんとする者へ祝福を…!!」


 黒く禍々しいオーラがイレーネの体からあふれ、腕のような形をつくり、俺の体にまとわりつくように浸食してくる。


 神々しく光が降り注ぐ、なんてことは無かった。


(なんか思っていたのと違う!?しかもアビスサモナーってなんだ!?)


「完了…です。」


"ピコン!"


 イレーネの宣言と同時にポップアップが表示された。


___________________


SYSTEM: NEW CLASS!!

SYSTEM: WARNING!!


※悪属性のクラスを獲得したため、カルマ値が-500されました。

※カルマ値が-1000を超えたため、称号【お尋ね者】を獲得しました。


[ NAME: モヒカン(AIによって自動命名) ]


[クラス: アビスサモナー]

[ LV: 6] < EXP: ■■■□□□□□□□ 30/100 >


現在のカルマ値: -1100


[ HP: 500 / 500 ]→[ HP: 550 / 550 ]

[ MP: 100 / 100 ]→[ MP: 300 / 300 ]


[ STR: 30 ]→[ STR: 30 ]

[ DEF: 20 ]→[ DEF: 20 ]

[ AGI: 20 ]→[ AGI: 30 ]

[ INT: 20 ]→[ INT: 40 ]

[ LUK: 1 ]→[ LUK: 1 ]


<装備>

右手:

左手:

頭 :

胴 : (ボロの服)

足 :


<スキル>

New: 『サモン・ダークネス』


<称号>

【脱走の蛇】【畜生】【お尋ね者】


・永久的に、カルマが0から上昇しなくなります。

・悪属性のキャラクターから好感を得られやすくなります。

・関わった人が悪属性になる可能性があります。

・New:どこでも指名手配されます。

___________________


 ステータス画面を見る限り、全体的に能力が向上しているのが分かった。特にINT(知識)の上昇幅が大きいことから、サモナーとは魔術に長けたクラスであることが伺える。


「アビスの名がついているが……。これは?」


 ただのサモナーかと思っていたが、おぞましい名称がついている。


「それは……闇の力による影響…だと思います。」


 ダーク・プリーストによるクラスチェンジは、闇の力とやらの影響を受けるようだ。


「闇…?まぁいい。それよりも、疲れているのか?」


「え、えぇ…少し、張り切って力を使いすぎたようです。……それよりも、ハゲさんとの契約を進めましょう。」


 アビスサモナーになったことで、ハゲ復活の下準備は整った。


「どうすればいい?」


「墓石に向かって、私の言葉を復唱してください。」


「復唱?…それはいいが、契約とはなんだ……ハゲは死んでるぞ。墓石に俺の名前でも刻めばいいのか。」


「いいえ、契約とは、魂と魂の触れ合い…と書籍には記されています。詠唱をすれば、ハゲさんの魂が、必ず応えてくれる…はずです。」


「本当に、大丈夫なのか…?」


「わ、私も死霊術を見たり実践するのは初めてなので……ですが、相手からの承諾があれば、契約が成るはずです。召喚術には、あまり詳しくは無いのですが、モヒカン様がお帰りになる日まで、できる限り勉強させていただきました。この書籍に書かれている通りにすれば……たぶん。」


 イレーネの手元には『サモナー必見!ゴブリンでもわかる!だれでも1日でカンタン死霊術!!』と記された本が、力強く握られている。何度も読み返した跡が残っていた。


 どこからそんな本を探してきたというのか。


(余計不安になってきたのだが……だが、俺たちのためにしてくれたことを無下にもできない。)


「分かった。君…お前を信じる。」


 イレーネは本に目を落として読み上げるように言った。


「それでは、同じように復唱してください。『深淵より目覚めし凶兆よ。契約者の名において汝を魂の楔から解き放つ。我が声に応えよ』……あとはハゲさんの名前を呼んであげてください。」


(ハゲよ、今生き返らせてやるからな!)


「ふむ……『深淵より目覚めし凶兆よ。契約者の名において汝を魂の楔から解き放つ。我が声に応えよ』」


 墓石が紫色に輝き、俺の声に呼応するようにガタガタ激しく震えだす。


「死んでいいのは毛根だけだ!蘇れ、ハゲ!」


「わあ……すごく綺麗な光…!」


 イレーネは儀式の様子にうっとりしているようだ。


 墓石に亀裂が入っていき、やがて殻を破るように大型のスケルトンが這うようにして出てきた!


 カタカタ……カタカタカタ


 骨はキョロキョロ辺りを見回し、次に自身の体を確認して、最後に俺を見つめた。…目があるのかどうかは分からないが。


「うお……骨だな。ハゲが、ホネに。」「まぁ!本当にうまくいくなんて!」


 聞き捨てならないセリフが聞こえてきたが、今はハゲの件に集中しよう。


 カタカタカタ……


 骨は生前のハゲの体格通りで、大きな体躯をしている。時折、骨の頭蓋を震わせ、闇の瞳孔はどこを見ているのか、いまいちよく分からない。


「うーん。どう見てもエネミーに見えるが、これは俺が従えているということでいいのか?」


 イレーネは慌てて本のページをめくり、自信なさげに言った。


「えっと。そう…ですね。契約がうまくいって、召喚サモンしたスケルトンは、魔力の質が同じ相手、かつ初めて見た相手に強い親近感が沸く…と書かれています。」


(なんだその理屈は…鳥のヒナじゃあ あるまいし)


「うーむ。攻撃してこない、ということは成功でいいのか。」


「たぶん、そうです……。」


 俺はハゲ(骨)に向き合い、頭を下げた。


「ハゲよ、起こしてしまって、済まない。そして、今はこんな姿でしか、現世へ繋ぎとめておくことができない俺を許してほしい。必ずお前を元の姿に戻し、日常生活に問題がない程度にしてやれるよう努力する。それまでは、その姿で力を貸してくれるか。」


 カタカタカタ……


 ハゲは頭蓋を震わせると、俺の肩をポンポンと骨の手で二度叩き、頭を上げて欲しいと言わんばかりの仕草をした。


 更に、俺の手を握り、握手までしてみせたのだ。


「ハゲ……すまねぇ…ありがとう。」


 俺は頭を上げて、骨の手をとって握手を交わす。骨の手はとても冷たく感じたが、気持ちは熱く高鳴った。男と男(骨)の約束ってやつだ。


"ピコン!"

___________________

※仲間のステータスを更新しました!


【仲間】

[ステータス]

[ NAME: ハゲ(優斗によって自動命名) ]

[クラス: 兇賊きょうぞく]→[クラス: ホネファイター]

[ LV: 3 ] < EXP: ■■□□□□□□□□ 20/100 >


[ HP: 300 / 300 ]→[ HP: 500 / 500 ]

[ MP: 70 / 70 ]→[ MP: 70 / 70 ]

[ STR: 20 ]→[ STR: 30 ]<STR+5>

[ DEF: 20 ]→[ DEF: 20 ]<DEF+8>

[ AGI: 20 ]→[ AGI: 30 ]

[ INT: 10 ]→[ INT: 10 ]

[ LUK: 10 ]→[ LUK: 10 ]


<装備>

右手: (衛兵の槍) <STR+5>

左手: (両手持ち)

頭 :

胴 : (衛兵の防具)<DEF+5>

足 : (衛兵のグリーヴ)<DEF+3>


<スキル>

New:【不死】

【見切り】【近接戦闘術】【騙し討ち】


<クラス特性>

・闇の力を受けて蘇った特別なスケルトン。痛みや疲労の制約を受けず、長時間でも全く同じ戦闘能力を維持できる。

力と素早さが更に伸びやすくなる。

___________________


「すごいじゃないか。ハゲ、見てみろ。お前のステータス上がっているぞ!なんかすごいスキルも追加されている!」


「カタカタカタ!」


 ハゲは、一緒に喜ぶように上腕骨じょうわんこつを上げた。どう見ても知性が宿っており、生前のハゲを思わせる忠誠心も垣間見える。


 そんな俺たちのやり取りに絶句している少女が約一名。


 イレーネは目を見開き、何度も本を読み返しては、目線を俺と本とハゲ(骨)の間でめぐらせている。


「え!そんな…!?どうして!?」


「どうした?何か問題があったか?」「カタカタカタ……」


 ハゲ(骨)も頚椎けいつい※首の骨 をかたむけ、疑問を感じるような仕草をしてみせる。


「い、いえ…だって。その、本には、スケルトンには簡単な命令を受ける程度の知性しか継承できないと、生前の知識や意思を宿すことは『ほぼ』ない。と、書かれています!」


「ほぼ、ないのであれば、前例がないわけじゃないんだろう。」


「それは、そうですが……。」


「なら、問題ないじゃないか。なぁ、ハゲ。」


「カタカタカタ……!」


 ハゲ(骨)は両腕を組んで何度もうなずく。


 イレーネは口に出して言うべきか迷ったが、心にとどめておくことにした。スケルトンとは、生前の力を超えることはなく、むしろ弱体化されて復活されるという事実を。


 目の前のスケルトンは、高い知性に加えて、明らかに生前よりも強い能力を持っていたのだ。



___________________


TIPS:

スキル【不死】

説明:HPが0になっても、骨の姿のままで残り、ごくわずかな一定時間で復活する。

通常のアンデッドはこの下位互換パッシブスキルを持つ。

このスキルが付与されているエネミーに限り、弱点部位や骨自体を砕いても、スキルによる影響で元に戻る。

聖職者による浄化が弱点。HPが0かつ、聖職者の魔法によって倒すことは可能。

ただし………


TIPS:

[クラス: アビスサモナー]

説明:カルマ値が一定よりも低い、かつダーク・プリーストの好感度が一定以上あり、ダーク・プリーストと関わりの深い者が死んだ場合に限り、クラスチェンジ先として提案されるクラスのひとつ。

本来は敵専用のクラスであり、条件が複雑でとても厳しく、通常の方法ではプレイヤーは取得できない。また、AI生成による特殊クラスであるため、同じクラスは存在できないユニーククラスである。

強力な闇の力と、召喚術を使って戦う。MPとINTに強い補正がかかる。


TIPS:

【見切り】

説明:通常攻撃を10%の可能性で回避する


【近接戦闘術】

説明:物理攻撃時、与えるダメージを10%増加させる。また、同様のスキルを持つ相手の同スキルを相殺する。組み付きなど、特殊な行動が可能。


【騙し討ち】

説明:相手が油断している場合に限り、戦闘不能にできる。能力差や体格が大きな相手には使用不可。


___________________

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