第51話 グランドイリュージョン
なーんてね。僕がその程度で詰むとでも思っている人がいるとしたなら、とてーもとても心外で名誉侵害だ。
大統領は勢いよくその金色に光を湛える剣を突き刺してくる。性懲りもなく。殺せると思い込んで。
「
「
そんなことは100年も前から知っている承知の上のことだ。バカはどちらだ、と言いたくもなる。僕は僕自身を操るのだ。そう、魔法はイメージの力。そして、この魔法はイメージの通りに対象を動かす。これは僕自身が身体を動かすのに必要な情報伝達の速度よりも正確で速い。イメージをした瞬間に身体が動くのだから。すなわちそれ故に、大統領の動きにも対応できる。
「踊るのはアナタではなくワタシなのですよ。遺憾ながら残念ながら!」
「まだ粘るとはな。だが、時が経てば援軍も来る。スナイパーも居る。さっさと諦めたらどうかね?」
僕の演技はやはりやはり素晴らしい。ずっと誰にもバレていない。少なくともこの涅槃に入ってからは。誰もが勘違いしている。僕のことを。
「この場所は随分と光魔素が多いですねぇ。まるでスポットライトに当てられているようです。きっとアナタに有利な場所を選んだんでしょうねぇ!」
「何を今さら言っている?降参する気にでもなったのかね?」
「いやはや、早まらないでください!実にスポットライトは気持ちが良いものです。死ぬには丁度いい舞台装置だと思いましてね!」
「ふん。ならばさっさと死ね!」
僕は神速とも思えるその突きを、優雅なる華麗な身のこなしで躱し、避け、回避する。そして、自分の幸運に深く感謝し陳謝する。この場所と
「いえいえ、死ぬのはもちろんアナタ以外ありえません。使わせていただきます。
「
目を見開いている。いい顔だ。だが、これはハッタリでもトリックでも手品でも魔法でもない。いや、魔法ではあった。これは失礼。僕は正真正銘の光魔法の適正者だ。ずっとずっと、とても貧弱で苦手な闇魔法で戦っていた(ほとんどの相手なら十分だから)。そう、演技だ。これはとても効果的なブラフでありミスリードになる。闇魔法の使い手が光魔法を使うなんて普通なら考えられないのだ。まあ、実際のところ暗黒魔素を使うのがとても効率的でコストパフォーマンスがいいからというのも理由だけれど。僕にかかれば干渉する魔力すらコントロールして偽装できる。
というか、闇魔法の使い手は太古から嫌われ者になるだろう?もし僕が闇魔法しか使えなかったら、貴族社会で上手くやっていくなんてことはできやしなかったのだ。勘の鋭い読者やら観客の皆さんならその違和感に気づいていたかもしれない。それとも、この脚本を書いたやつが馬鹿だとでも思っていたかもしれない。フフフ。どちらでも楽しいことだ。
すなわちというわけで、僕は光魔法が最も得意で、何より天才だ。大統領の手に握られたその武器をじっくり観察し、込められた魔力量や魔素を吟味し、コピーを生み出すのは思ったほど難しくはなかった。おそらくはきっと借り物の力だろう。ツクヨミさんの使っていた本物の
光を纏う美しく荘厳な二対の剣が交わると大統領はハッタリでないと理解したようだ。さて、実力差を見せてやろう。華麗なるマリオネットの踊りを。演技ではない本物の実力を。
「メイクセンスしましたか?理解が追い付かないでしょうねぇ。まあ、これが劇ではなくリアルなのですよ。能ある鷹は爪を隠すものです。何重にもねぇ」
「馬鹿な。道化の分際でなぜ……なぜだ!?
「神は死んだ。そんなことも知らないのか凡人めが」
決着はあっけなくついた。スナイパーの撃ち込む隙間もなく、何度か剣を交わしたのちに勝敗は決し、雌雄は決した。大統領は白い魔素になって散っていく。凡人ではあったが、僕に演技を止めさせたのだ。そこは褒めてもよいだろう。腕も失ってしまったし。
「人類は、必ず貴様らを倒し、いつか、自由を……」
「フフフフフ。そうなるといいですねぇ」
ピエロは笑う。いつだって。
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