第50話 アメリカンスナイパー

 貫いた銃弾は僕の左腕をすっかりちゃっかり消し去った。真後ろから銃声が聞こえた瞬間に反射的に身体を大統領の位置とかぶさるように避けたからか、致命傷には至らなかったらしい。まあ万が一にもトゥルーマンに被弾したらまずいだろう。そう瞬時に判断したのが功を奏したということだ。


「うわああああ!痛い!痛いですよぉ!」


 僕はわざと飛んだり跳ねたりして狙いをそらす。大統領もすぐに立ち上がって攻撃を加えようとしていた。僕は消し飛んだ左腕を魔法の腕で補う。通常なら魔力が流出してしまい形を保てない致命的な一撃だが、涅槃の黒ローブと仮面には魔力を自分の近くに固定する機能をつけてある。その副次的な効果として、魔力が揺れず、それと連動した感情も動きが抑制されるのだ。


「なあんて嘘ですよ!ほらこの通り、元通り!……それにしてもとどめの際に気を抜いてしまうとは、やはりワタシもまだまだ未熟な青い果実だということですねぇ。人生は一生勉強!素晴らしい教訓です」


「どうやら私も君を舐めていたようだ。ミスター道化。小細工は通用しないことはハッキリと理解したよ」


 そのセリフはいささか自信過剰だろう。片腕を失ったくらいでは何も問題はないし、スナイパーも一度意識さえできてしまえば戦局を覆すには至らない。なんら実力差はひっくり返っていないのだ。だが、プレジデントは今までにないほど魔力を解放し集中させている。何か来るのか?させはしない。


「いきますよ!虎さん!」


 先ほどの銃弾で消してしまっていた狂乱の虎ティーガーフィーバーを再度発動させ、喉元を掻っ切るように攻撃する。だが……。


ジャンヌのつるぎフィエルボワの剣


 踊り狂う虎はその圧倒的な魔力がこもる光の剣によって両断された。まさかよもやありえない光景だった。間違いなくそれは神器アーティファクト。この世でも限られた本当の強者にのみ与えられる、まさに神の武器だ。もちろん身体は大げさに驚いているが、心の中でも本当に驚いていた。そして沸き立つのは嫉妬と怒りだ。なぜこんな低級な奴がそれを手にしているのか。僕でさえ手の届かないその高みにいるというのか?そんな思考が頭の中をざわざわと這いずり回る。


「これでわかっただろう?君は片腕で、こちらにはスナイパーも居る。そしてこの神より授かりし武器だ。勝ち目はなくなったというわけだよ。理解したかね?」


「驚きましたよ。ええ、ええ。これは本音です。なんともなんとも、アナタがまさかアーティファクトを扱えるとはねぇ、どうにもワタシの負けらしい。まったくとんだ茶番劇ですよ。つまるところピエロが踊っていただけなんですからねぇ」


 じっさい彼のスピードだけを見れば正直言って僕をしのいでいる。そのうえ言ってくれた通り、動きも多少制限されているしアーティファクトまであったとなれば勝ち目は薄い。思いつく限りでは絶望だ。トバリが駆けつけるだとかツクヨミさんが現れるだとかそういうことくらいしかないかもしれない。もしくは力に覚醒して僕もアーティファクトを扱えるようになるみたいなことだが、現実問題はそんな風にご都合展開が起きるわけじゃあない。ここでツクヨミさんを呼ぶ魔法を使ったとしても彼女が来る前に殺されるだろう。避け続けて魔力切れを狙うくらいが関の山だが、スナイパーに意識を取られつつ、魔法で防御できない攻撃から逃げ続けるのは僕であっても難しそうだ。詰み。積み。罪。摘み。ToMe。


「遺言は聞かない。死にたまえ」




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