第49話 グレイテストショーマン
「仕方ありません。脚本通りいかないこともライブならではですからねぇ!まあ、意志とは関係なく踊っていただきますが!」
「総員、
まあ、そう来るだろう。僕のお得意な十八番な
「全員撃て。ピエロを殺せ」
「こんな可哀想で哀れなる道化を撃つんですか?酷いですねぇ。そんな人たちには恐ろしく恐れ多くも天罰が下るでしょう……ドカンとねぇ」
兵士たちが僕に銃口を向けたその時だ。大量の破裂音が辺りに響き渡った。それは彼ら一人ひとりが花火のごとく死んでいく断末魔だ。
「
その驚きの顔が見れるのは何よりも道化師冥利に尽きる。僕に一度カラクリを見せてしまったのが運の尽き。僕はこう見えて天才なのである。一度見たマジックのタネはすぐにマネできてしまうのだ。埋め込まれた小型爆弾は大統領の魔力に呼応して爆発する。そこには精妙に微妙な魔力認識の技術が応用されているようだが、僕にかかればこの通り。簡単にハックできてしまう。情報量の微細な魔力のコピーアンドペーストなんてのは、この世界の裏の裏まで知っている僕にとってみれば初歩的な技術だ。
「あらあら、皆さま爆死してしまいましたねぇ……ミスター、間違えてしまったんですか?なんと惨く残酷なヒューマンエラーというやつですねぇ。ああ、なんたる悲劇でしょう!ワタシにとっては幸運な喜劇ですが!」
大統領は眼鏡の奥の目を血走らせていたが、大きく深呼吸をすると落ち着き払った態度に戻る。なかなかどうして肝が据わっている。これでフェアーなサシの勝負。負ける心配はないだろう、とは言い切れない。サリエルさんが仕留めきれなかったのだ。単なる一般人ではない。軍上がりでかつ、バックについたあの女のよくわからない技術提供がある。油断しているように見せつつもバックアップのプランをいくつも抱えておくのが僕のいつものやり口だ。
「どうしましたか?サレンダーしてもよいのですよ?何といっても天なる神はどうやらワタシに味方をしているようですしねぇ!同情しますとも!同時に笑いもこみあげてしまいますがねぇ。フフフフフフ!」
大統領は無言のまま両手に光の剣を生み出した。そして目にもとまらぬスピードで距離を詰め、両刃を華麗に操り切りつけてくる。これは、本当の本当に油断していたならとても避けきれない。ああ、なんとも強い。予測値を少しばかり修正しなくてはならないほどには。
「なんと素晴らしい剣技!ぜひとも共に踊りましょう!
僕はすんでのところで初撃を避けたあと、ジャグリングクラブを魔法で3つ出現させて攻撃をさばいていく。魔法は何でも武器になり、盾になり、イメージさえできるなら戦いのさなかにジャグリングをすることすらできる。こんなふうにね。まさに僕は曲芸師だ。この舞台こそ僕が最も脚光を浴びられる。戦いはもっとも冷静で的確に行動できた者が勝つ。こうしておちょくっただけで、大抵の相手は感情を乱し、それが魔法の質を乱し、自らボロを出す。だが……。
「流石ですねぇ。ご自慢の精鋭が一瞬にして消し飛び、こうしてワタシに弄ばれてなおも、そんな風に鬼気迫る動きができるなんて、とてもじゃないですが人間離れしていらっしゃる。ここで殺してしまうには実に惜しい方だ!ああ、なんと悲しく虚しい!」
こうして軽口をたたいている間も、動きは鈍るどころか、より鋭くなっている。本当になかなかの使い手だと素直に評価している。本音であっても嘘っぽく聞こえてしまうのが、愚者のつらいところだ。それより、これほどの動きだ。身体機能を強化する特殊な装備をつけている可能性は十分に考えられる。下手をすれば僕らよりも強力なものだ。そんなことがあっていいのだろうか?無論ありえない。涅槃の中でも技術力には自信のある僕ですら、到達できない高みなのだから。そんなものはこの世界にはない。
「さあさあ!黙ってばかりでは劇は面白くなりませんよ?」
何か隙を狙っているのだろうが、そんなことは絶対に全く起こらない。
「致し方ありません。このままでは埒が明きませんからねぇ。続いてはアニマルショーといきましょう!
僕はジャグリングを止めて攻撃を受け流しつつ、巨大な虎を出現させた。そして大統領の後ろから飛び掛からせるが、素早く身を横にそらせて回避される。僕はわざと虎を自分へとぶつけて「な、何をしてるんですか!じゃれつかないで!あっちですよ!」とおどけるが、案の定、つめたく冷え切った視線が向けられただけだ。ほとほとエンタメ性のない。僕らの感知できない次元にいる神が、この戦いを見ているかもしれないというのに。
「さあ、敵はあっちですよ!食らい、引き裂き、そしてもう一度食らいなさい!」
獰猛な虎がその爪を使って引き裂こうと再び飛び掛かる。それを大統領は両手の剣で受け止め、さらに虎を切り裂こうとするが、そうはさせない。魔法の虎は字義通り変幻自在だ。チェシャ猫のごとく雲や霧のように形を変えてその剣戟を躱し、食らいつく。そんなやりとりを何度か繰り返す。
正直に言えばこの辺りで決着がつくと想定していた。普通の人間ならば精神的にも魔力的にも限界のはずだった。しかし大統領はしぶとい。それに、まだ実力の底を見せていないように思えた。少しばかりちょっとばかり不気味だった。何を狙っている?時間稼ぎか?援軍か?いずれにせよどれにしても面倒だ。さっさと殺そう。僕は虎とともに戦線に加わる。単純な身体操作プラス自在な魔法操作。それくらいなら天才の僕には造作もないのだ。
さすがの大統領も2対1の状況では分が悪いらしく、追い詰められていく。魔力も限界か?段々と動きも鈍くなってきた。どうやらこのショーもそろそろ閉幕らしい。狂乱の虎が放った薙ぎ払いをついに受け止めきれず体制を崩し、魔法武器が手元から消えた。王手でリーチでチェックメイト。僕は無防備な大統領にナイフを突きつける。
「さあ、これにて閉幕としましょう!ここ最近では一番楽しめましたよ!実に実にいい部隊でいい舞台でしたねぇ!」
そう言い放った直後だった。後ろから聞こえた一発の銃声。それは僕を貫いていた。
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