第48話 トゥルーマン・ショー

「さあ!ショーの始まりです!」


 僕は大袈裟に天へと両の手を掲げ、魔法を放った。大統領とその側近たちは警戒体制をとり、空中へと放たれた魔法を注視している。フフフ……計画通りだ。空高く舞い上がったそれは爆発して巨大な花を形造る。そう、それは美しいエレガントな、単なる普通のオーソドックスな花火である。ショーの始まりにいかにもふさわしいだろう。打ち上げられるそれらを見て、奴らはキョトンとした顔をしている。


「どうです?まさにショータイムに相応しいでしょう?」


 僕がおどけて踊っていると、奴らは怒りにわなわなと震えている。とてもとても良い眺めだ。やはりやはり。


「貴様……!愚弄しおって。いつまでもふざけていられると思わんことだな。全員撃て!」


精鋭の兵たちはその命令に従って銃を構えると、次々と銃弾を放っている。魔法を無効化する銃弾だろう。しかし、僕に向かってくるのは半分以下だ。それ以外は……フフフ。


「バカな?どこを撃っている!?」


 一部の兵士は味方を撃ち始めたのだ。そのせいか、僕に飛んでくる銃弾はまともに的を得ていない。それもそうだ。だから僕はその攻撃をするりとぬるりと避ける。


 味方を撃っている連中は、いつの間にやらピエロの仮面を付けていた。僕が仕込んだドッキリの兵隊たち。寝返らせることは簡単だった。弱みを握り、メリットとデメリットを並べ、少しばかり脅してやれば良い。みな国家よりも我が身や家族が可愛いのだ。舐めてもらっては困る。僕らはずっと裏でこの世界を牛耳ってきたのだ。あらゆる情報網とコネクションを駆使すれば殆ど出来ないことなどない。戦の勝敗は戦う前から決まっている。


「バカな兵隊どもが!ピエロは裏切り者だ!殺せ!私は奴を叩き切る!」


 しかし、そのセリフの直後に銃声が止む。ツカツカとこちらに向かって歩き始めたトゥルーマン大統領はその歩みを止めて振り返った。仮面を付けた兵士も、付けていない兵士も、全員が押しなべて銃口を大統領へと向けていた。


「何を……している?」


 ああ、なんとも、プロット通り劇が進むのは、いかんとも得難い、度し難い快感がある。ピエロの面すらミスリードだと言うのに!全くバカはどちらなのやら。そう、仮面を被っていないほとんどの兵士も買収済みだ。2度驚くこの瞬間!なんとも実に楽しい刹那の煌めきである。


「いやあ、実に実に、罠に絡め取られたイディオットはどちらなのでしょうねぇ!この舞台はまさにあなたの為に用意されていたんですよ!だ、い、と、う、りょ、う!本当に良い演技です!素晴らしい!」


 乾いた拍手が鳴り響く。その音は大統領の手から発せられていた。この反応は予想外で想定外。まさかまさかもう諦めてしまったのだろうか?それとも、本当に感服しているとでも?そのリアクションはプロットになく、なんとも気持ちが悪い。


「HAHAHA!素晴らしいの言葉に尽きるよ。道化師ジョリージョーカー!」


「お褒めに預かり光栄至極ですねぇ……」


 それにしてもあの余裕、どうにも気に食わない。さっさと殺すが吉か。裏切者明光カンナがどこにいるかなんて、こいつを殺してから自分で探しに行けばいいのだ。どうせエウロパかソフィエンテにいるのは間違いない。


「もう少し遊びたかったのですが残念です。今回は大変短いショーになってしまいましたが、これにて閉幕といきましょうか。さ、大統領を撃ってかまいませんよ」


「待ちたまえアンダーソン大佐。どうせ人質か何かだろう?それよりも祖国に忠義を尽くすのが兵隊ではないのかね?」


「お言葉ですが、国民があってこその国家です。ですから……」


「結構だ」


 大統領が声を発したその瞬間、アンダーソンと呼ばれた男は爆発して死んだ。どういうことだ?魔法かもしれない。大統領の魔力干渉は最初から広く展開されている。


「わかったかね?私に逆らえば君たちの軍服に埋め込まれた爆弾が爆発する。私が魔力を少し流すだけでね。さて、本来なら裏切者やスパイは決して生かすわけにはいかない。だがもし悔い改めるならば、今回ばかりは許してやろう。大統領の恩赦というやつだ」


 ふむふむふむふむ。なかなかに抜け目がない。だがまさか味方の軍全員にそんなものを仕込むなど、あまりにもあまりにも酷く惨いことをするものだ。


「そもそも、人質など気にせずともこのピエロを殺してしまえば済む話ではないかね?」


「そうはいかないんですよ。万一ワタシから連絡が来なくなった場合にも、任務が遂行される手筈になっていますからねぇ」


「負けたときのことまで考えているとは、愚者のわりに利口じゃあないか。だが、約束しよう。君たちの家族はこのピエロが死に次第すぐに全力で我がリベリカが保護すると!これで憂いはあるまい?あのピエロを次こそ殺せ。それとその仮面もさっさと取れ」


 ううむ。そこまであっさり簡単にはいかなかったようだ。致し方がない。少しばかり人数の不利はあるが、戦うしかないらしい。シヴァがいないというのもちょっとばかり誤算だけれど、まあ問題にはならないだろう。僕は思い切り魔力を解放する。久々だ。とてもとても。


「よろしい。ならば戦争にしましょう。操り人形の舞踏マリオネットダンス!」


 こうして第二幕が始まった。せっかくだから楽しまなくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る