第44話 決戦前前前夜
あの戦いのあと、俺たちは涅槃が本拠地としている塔(通称バベル)へと戻った。すぐにツクヨミがメンバーへ緊急招集をかけて、メンバーが一堂に会することになった。一堂に会するのはかなり久々なようだ。俺がまだ面識のない人物も2人いる。すぐさま集まった面々に向かって、ことのあらましを説明した。リベリカが反旗を翻したこと、その背後にいるカンナの存在とその力、そして死神サリエルの死。殆どのメンバーは冷静に聞いていたが、道化師ジョジョはいつものおどけた口調ではなく怒りを滲ませてぶつぶつと呟いていた。
「サリエルさんが……?殺す。確実に息の根を止めましょう。なぶり殺して捻りつぶし、その死体を吊るし上げましょう。すぐにすぐにねぇ」
一通り俺が説明を終えるとツクヨミが場を取り仕切った。やはり彼女が涅槃のリーダー的な立場に当たるらしい。
「今回の件はわしにも責任の一端がある。バカ娘が裏で糸を引いておるのは間違いないからの。これはこの目で見てきたから確かじゃ。奴らが何か起こす前にこちらから仕掛ける。調子づいた
「奴らの行いは神への冒涜!このままでは世界秩序が乱れてしまうのは不可避です。神の啓示に従ってきたのになぜ……。おお神よ!異教徒どもに裁きの鉄槌を!」
「俺様が絶対的に殺してやるよ。なんなら全員な。死神は雑魚すぎたな。あとそこの新入りも……」
教皇に加えて太陽がそう言い放つと、めずらしく道化が円卓を叩いて勢いよく立ち上がった。
「撤回しろ。サリエルさんは雑魚じゃあないとね」
「あん?負けた奴は全員雑魚なんだよ。お前も雑魚の仲間に加わるか?」
「おい。わしに異論があるのか?ないなら黙れ」
ツクヨミが魔力を開放して周りを見渡すと全員が沈黙した。俺はただ流れに任せるだけだ。今はなにも考えたくなかった。
「ふん。異論はないようじゃな。では、教皇と太陽はソフィエンテ、シヴァと道化はリベリカ、女帝と皇帝はエウロパじゃ。わしはカンナが現れたところへ向かう。通信手段はまず封じられるからの、遭遇した場合は空に向けて魔法を放て。派手でなるべく残る奴じゃな。わしは定期的にワープ可能な範囲で周囲を巡回する。良いな?」
今回は特に誰も意見は差しはさまなかった。もちろん俺もだ。とにかく休みたかった。あとのことはあまり覚えていない。俺はあてがわれている自室に戻り眠った。いや、正確に言えば横になっただけでよく眠れはしなかった。鬱々と今日の出来事が思い出され、ルナンの惨状や両親の死がフラッシュバックした。ぼろぼろになったカンナ。学生時代は見せなかった顔をしていた。彼女は俺を殺そうとしている。それが運命だと。
そうして気づけば朝になっていた。俺には戦う覚悟があるのか?なんのために戦う?何のために生きる?すべてがどうでもよい気がした。居間になって思えば、俺がここまで生きていたのは、カンナが昔に言ってくれた言葉のおかげだった。
――トバリくんが生きていること自体が、生きてほしいって誰かの願いの証明。
――だから生きよう。苦しくても、生きよう。
生きようと言ってくれた彼女。殺すと言った彼女。何が本当で何が嘘なんだろう。
「俺は、どうしたらいい?」
つい口に出していた。答えなんて求めているのかわからない。答えなんてあるのかわからない。だが、唐突に頭に声が響いた。
「残念ながらわかりません。マスターはどうしたいのですか?」
答えたのは目の前のソフィアだった。彼女の姿を模したAI。それは機械的な響きだが、なにか重く心に残った。俺は、どうしたいのか。確かに、ここ最近の俺はずっと状況に流されてきた。強い濁流に押し流されるように、ただ受動的で、自分が何かできるのだという感覚を失っていた。自分のコントロールを失い、生きている意味も分からなくなっていた。
「俺はどうしたいんだろう」
「残念ながらわかりません。マスターにとって理想の未来はなんですか?」
「俺の理想……」
もし叶うなら俺は……。また彼女と一緒に生きたい。彼女の運命だって全部背負って、笑い合いたい。そうだ。このまま受け身でいるだけじゃ何も変わらない。どうせ死んだようなものだ。失うものだってなにもない。だったら、どうすればその願いへ向かって進めるのか、考えるしかないじゃないか。必死であがいて、最後まで諦めない。それだけだ。俺にできることなんて、それだけだったんだ。
「ありがとうソフィア」
「?」
首をかしげる仕草がかわいく思えて、少し笑ってしまう。なんだか、久しぶりに自然と笑った気がした。
「私は何もしていませんが、お力になれたなら何よりです」
2日後。それまでに俺ができることはなんだ。今のままじゃダメだ。やはり、力をつけなくてはならない。俺はツクヨミにメッセージを送った。
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