第39話 ホワイトハウスダウン

 悪夢のごとく兵士たちの断末魔がこだまし、むやみに発砲された銃声とともに闇へと飲まれていく。俺は飛んでくる銃弾を魔法で防ぎつつ静かになるのを待った。本当に魔法無効は解除されているらしく、銃弾もたんなる鉛玉と化していた。一瞬は死を覚悟したのだが、まさかこんな奥の手が死神……いや涅槃にあるとは知らなかった。まだまだ俺には隠していることが多くありそうだな。大統領はわなわなと震えたのち、降参とばかりに両手を掲げて大げさなジェスチャーをする。


お見事ですねアメイジング。ここまで実力差があるとは思いませんでしたよ。まるで悪魔だ……。私を、殺すんですか?」


 俺としてはここで殺すのは得策とは思えない。むしろここまで実力差を示せたのだから、利用すべきだろう。また、なぜこんなことを画策したのか、直接問い詰める必要もある。死神が何か発言するのではとそちらを見たが、俺の方をじっと見て黙っているだけだった。なんというか何か言ってほしいものだ。少し気まずい。


「お前は殺さない。ただ、もう二度とこんな真似はしないと誓い、俺たちに従ってもらう。それと、なぜこんなことをしたか詳しく話せ」


「ずいぶんと話し方が変わりましたね。わざと威圧的にしている、でしょう?」


「関係のない話をするな。質問に答えろ」


「失礼しました。ですが残念ながら期待に応えることはできません。言ったでしょう?ニッヴァーナ、あなた方は用済みだとね」


 なぜこんなに奴は余裕なんだ?何か裏がありそうだ。まだ、見せていない奥の手?俺は銃を突きつけ、死神に指示を出す。上下関係など構っていられないだろう。


「何か裏がありそうだ。邪眼を頼めるか?」


「了解。停止の邪眼イヴィルアイロック


 この魔法は死神の専用魔法。視界の中に入っているものの動きを止める。しかし、本人も動くことができないらしく、1人で使うには不便な気はしている。だが、これでもはや何も打つ手はないはずだ。見たところ魔法無効の装備をしているわけでもない。


 この間にチャットを使ってツクヨミに連絡を取ろう。緊急の事態だと伝えなくてはならない。そう思いソフィアにメッセージを伝えるが、なぜかエラーが出てしまう。今までこんなことはなかった。怪訝に思いつつ何度もメッセージの送信を試すもののダメだった。悪戦苦闘している最中、ふと、視界の端にいる大統領が少し笑ったように見える。ありえない。気のせいだろう。あの魔法の中では少しも動くことができなかったのは、俺の記憶にも新しい。


 だが、その笑みは見る目にも明らかな歪んだ表情になった。俺は改めて向き直り銃を構える。コイツは、いったい何者だ?


「フハハハハハ。すべて無駄ウェイストですよ。私は神の巫女ジャンヌダルクから力を授かったのですから。素晴らしい装備ですね。あなた方のより優れている」


 トゥルーマン大統領は首をゴキゴキと左右に鳴らして、両手に魔力を集めた。そこに俺はすかさず銃弾を撃ち込む。だが、それらは身を掠めることもなく、やすやすと避けられてしまう。


双頭雀蜂ホーネッツ


 詠唱とともに大統領の手元に現れたのは光を放つ双剣だった。両方がかなりの長さであり、切れ味も凄まじい。かなり鍛え上げられているのか、装備とやらのおかげかは不明だが、俊敏な動きで近づきつつ切りかかってくる。俺は黒旋棍ノワールトンファーを使って何とか食らいつくものの、防御に徹するだけで手一杯だった。まさか、ここまで武闘派だったとは。 そこに死神も合流してなんとか五分の状況だ。コイツ、かなり強い。


「久しぶりに楽しいですねえ!ここまで体が動くとは、凄まじいものです」


「誰から唆された!?カンナか?」


 魔素の火花が飛び散り、床や天井もろとも切り裂くその二振りの剣を2人でなんとか抑えつつ、尋問を再開する。ジャンヌダルクと聞いて1人だけ浮かんできた人物。俺をここに呼び寄せた人物。彼女が裏で糸を引いている。信じたくないが、その可能性が一番高そうに思えてならなかった。答えてくれるとは思えないが。


「それは言えませんね。もう少しギアを上げましょうか」


 大統領は激しい乱舞から緩急をつけて新たな魔法を放った。


 「夜鷹の星ナイトホーク


 それは、この戦いはどちらかが死ぬまで終わらない。そう予感させるものだった。

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