第21話 思考錯誤
正直に言えば、ロンギヌスなどと言うのは単なるハッタリだった。ただ形を模倣しただけだ。派手な光の槍に過ぎない。奴らの魔法無効に触れていれば一瞬でバレていたであろう。とはいえブラフだがなんとか生き残ることができたのだから、賭けは勝ったと言えるのかもしれない。
それにしても……道化師、ジョリージョーカーと言ったか。奴の言葉はあまりにも情報量が多かった。そのため、ここで一度俺たちが持っている情報を整理してみることにする。
まずはこの世界における魔法についてだ。奴らとの戦闘で初めて分かったこともいくつかある。大前提からまとめていくと、この世界は基本的に物質などを形作る元素に加えて、魔素という特殊な粒子から成り立っている。そして、俺たち人間は魔力という(原理はよくわかっていない)ものを通じて魔素に干渉し、イメージの力によって魔法を生み出す。
魔力の効果範囲は人によって異なっており、それを「干渉範囲」や「魔素揺らぎ」などと呼んでいる。自分の感情によって魔力が揺れ、それに呼応して周りの魔素も揺らぐ。その逆も然りで揺らぎ同士がぶつかると、様々な感情が引き起こされる。そのせいで闇魔法の使い手は忌み嫌われているし、そういった人が子供を残しにくかったのも歴史的に仕方がないのかもしれない。
さて、当然のことながらその揺らぎの範囲内からしか魔法を放つことはできないし、イメージを維持するにはかなりの集中力も必要なので、大抵は自分の中で決まりきった形のものを想像し、それを想起するために魔法名を口にすることが一般的だ。言葉はイメージと強く結びついている。相当に慣れ親しんだ魔法の場合は口にせずとも頭の中で唱えるだけで使えるが、一般的とは言えない。
あまりに前提となることなので言い忘れていたが、魔素には属性がある。火と水と風と土の基本4属性に光と闇を加えた6つだ。そして、人によって干渉できる魔素の種類にはグラデーションがある。俺の場合は闇が極端に干渉しやすく、ほかの属性はからっきしだった。基本的にはその人が扱える魔法の属性というのは生まれたときからほとんど変わらない。俺の場合、光の魔素にも魔力を通わせることができるようになったが、これは特殊なケースだろう。軍でもそんな話は耳にしたことがないし、道化師もこのことには驚いていたようだから、かなり特異なことなのかもしれない。これは仮説だがカンナがおそらく元涅槃であることも無関係ではないだろう。
そんな一般魔法以外にも、最近になって科学技術が進んで、魔道具や魔導兵器が登場してきた。オーリーボードなどはその一種だが、魔導回路(一般的には魔法陣と呼ばれる)に魔力を流すことで、自分の得意属性以外の魔法を出力することもできる優れモノだ。戦争用の武器以外にも生活の様々な場面で使われるようになってきている。おそらくだが、涅槃の連中はアカシックレコードなどと呼んでいた謎の情報ソースから技術についての知識を得ているのだろう。これも仮説だが、魔法を無効にしているのも、やつらの魔素揺らぎを極端に抑えているのもそういった俺たちのまだ知らない技術的なものに違いない。アンダカのナイフを調べたが、仕組みはさっぱりわからなかった。相当に高度なものだろう。人間を魔晶石へと変えたりできるなどという話もあながち嘘とは言い切れない。最悪だが。
涅槃の正体について考えを巡らせているが、全く判然としてこない。一つ言えるのは、奴ら一人ひとりがかなりの戦闘能力を持っていることだ。属性に縛られないような固有の魔法を扱えるうえ、膨大な魔力量を誇り、こちらの魔法を無効化することが可能。とてもじゃないがサシで戦って倒せるかと聞かれれば、厳しいだろう。今回はナイフや偽ロンギヌスに俺の2属性攻撃など、相手の虚をつくことができたから何とか撤退に追い込めたが、次はそう上手くはいかない可能性が高い。何か手を考えなくてはならないが、複数で魔法と物理的攻撃を織り交ぜながら叩くくらいしか思いつかないのが腹立たしい限りだ。
だが、俺の心に重くのしかかるのはいつも彼女のことだ。カンナも奴らの一人だったのだろうか。だが、そうだとして一体いつからなのだろう。俺の前に現れた彼女は8歳の少女だった。確かに魔法の才能も身体能力もずば抜けていたが、どうしても奴らと同じだとは思えない。 これは俺の願望なのかもしれない。まだわからないことばかりだ。上位存在の神とは何なのか、それに選ばれたとは一体どういうことなのか……。何か特別な才能があるだけのことなのだろうか。俺達でもその真理とやらにアクセスできるんだろうか。
やはり考えても考えてもまとまらない。とりとめのない思考の列挙になってしまった。いつも俺はこうだ。だから彼女も……救えなかった。
ともかくだ。今は先のことを考えなくてはいけない。シナンが攻勢にでるという道化の言葉を信じるならば、早急に準備をしなくてはならないだろう。俺たちはこれから親父の元へ向かう。今はこのシナン攻略の前線において最高指揮官となっている親父の元へ。
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