【42】大魔王の大陸生放送!
「ふはは! 我は極悪非道の大魔王ぞ!」
大陸各地の王都に都市、その広場に突如響いた声に、人々は足を止めた。
「虫けらのような人間共よ、これからお前達に面白い見世物を披露してやろう」
空に映し出されたのは、あきらかに人界のものと違う巨大な大広間。その遥か高い天井にさえ突きそうな緑の肌の一つ目の巨人と、相対するのは七歳ぐらいの少年。
「虫けら共の希望だという勇者が、我が
巨人の棍棒が少年に向かい振り下ろされたとき、一斉に悲鳴があがった。しかし、それを少年は風のように右に左と避けた。
さらには小さな弓で巨人の目を射貫いたかと思うと、そのかかとを切り裂いて、巨体をひっくり返して倒してしまった。
そこでぷつりと空に映し出された画像は消え。
「ちっ! こしゃくな、勇者アルトルト。しぶとい奴め! 来年の貴様のお誕生日、もとい、来年こそは八つ裂きにしてやるぞ! 覚えておけ! グリフォニア王国王太子アルトルトよ!」
魔王の声が響いて消えた。
以上が、全大陸大魔王の勇者活躍してますよ! 宣伝作戦であった。
ちゃんとグリフォニア王国王太子まで添えて、宣伝した我偉い! とゼバスティアは自画自賛した。
この様子は、大陸全土の主な王国。都市の広場で流され、その噂はたちまち辺境の村々まで伝わった。
当然、四大陸の中心にある大神殿にもだ。その大神殿の円形に円柱が並び人々が詰めかけた広場では、なんと大神官長までお出ましになられて。
「アルトルトちゃんがんばれ!」
と声援をおくられたとか。
ともかく、勇者アルトルトの名はこれで一気に大陸全土へと響きわたった。七歳にして恐ろしい巨人を見事倒したこと。そして、魔王討伐はならずとも、いままで数々の戦利品を手に魔王城が帰還したこともだ。
「あの悔しげな魔王の声!」
なんて、大公領にある村の女まで自慢げに言う始末だ。いつもの遠乗りのお供のおりに、たまたま魔王の地獄耳にひっかかった。
いや、お前、さすがにこんな田舎までは、我はアルトルトの勇姿を流しておらんぞ。直接聞いたような口を聞きおって、と心の中でツッコんでおいた。
王都の広場にその田舎の大公領にいたはずのデュロワがどうしていたのか? って。それは当然ゼバスティアが魔法書簡で呼んだのだ。
「勇者の保護者よ、本日のお迎えは王都広場までだ。早い時間に来ないと可愛いお遊戯を見逃すぞ」
と。
「可愛いお遊戯どころか、可愛い勇姿、いや、凜々しい勇姿なのか?」
後にデュロワはそうつぶやいていたが、可愛いのと凜々しいのとは両立するだろうが! とこれも、執事ゼバスとしてアルトルトの隣にいながら、心の中でツッコんでおいた。
それから、鎧の丸い胴体がぱっかり開いて出てきたイルから。
「デュウの石で俺はこの甲冑ごと跳んだけどさ」
と先代勇者の転送石で王都に来たと告げ。
「殿下の執事、あんたはどうやって王都に来たんだ。そもそも、あんた、朝から屋敷に姿が見えなかったな?」
なんて質問されたが。
「私は殿下の執事にございますから、常におそばに」
とうやうやしく返答しておいた。ごまかしたともいう。
まさか、アルトルトの出陣の支度をして、その姿が転送陣に消えるのを見送った瞬間に、自分も魔王城に転移しながら、お誕生日会のための盛装に素早く着替えました……なんて。
馬鹿正直に答える魔王はいない。
アルトルトが魔王城から転送陣に消えたあとも。
こちらも素早く王都の広場に転移しながら、執事セバスの姿になり、民衆にもみくちゃにされそうになっているアルトルトをすくい上げて、手短な初代王の石像の台座に、飛び移りました。
なんて……だ。
当然、一番盛り上がったのはグリフォニア王国、王都トールだ。なにしろ、魔王の恐ろしい声ともに始まった、我が国の小さな勇者の勇姿が流され、さらに魔王の悔しげな声が消えたあとしばし。
いまだ自分達がみたものが幻なのか本物なのか? 噂しあう、王都民の前にいきなりその小さな勇者が現れたのだ。
さらには先代勇者様、滅多に王都に現れないが、人気が高い大公殿下まで現れて、当代の勇者を民とともに讃えたのだ。
そんな盛り上がる王都のそば近くで見ながら、それを面白く思わない人物がいた。
継母王妃のザビアだ。
彼女が王都の盛りあがりを知ったのは、なんと十日後のこと。アルトルトの活躍など耳にすれば当然女主人が不機嫌になるだろうと、周囲が耳に入れなかった結果だ。
しかし、兄である宰相ジゾール公爵がやってきて、後退した頭の汗をふきふき、第二王子カイラルを第二王太子とする案は、当分延期せざるをえないと報告して、彼女は「なぜ!?」と叫んで、それが発覚した。
しかも、王太子は病気療養で大公預かりとなっているとの、長年の王宮の嘘がこれでバレた形になった。というより、以前から噂にはなっていたのだ。
継母王妃様が、王太子様を追いだしたのだ……と、宮廷などのぞき見れなくても民というのはよく知っているもの。そして、民の声というのは意外に強い。
勇者アルトルトの勇姿を見て、あの方こそ王太子に相応しい。我らの希望! となったのだ。評判の悪い王妃に頭が上がらない国王に対して、早くアルトルト殿下が王位に就かれればいいのになんて、不敬ともとれる発言を言い出す者もいる始末。
新しい王様の御世となれば、派手好き散財かの王妃様だって王宮を出て、もう少し地味なお暮らしをするしかなくなりますものね~。なんて、そんなさえずりもあったと耳にし、ザビアはぎりぎりと扇を握りしめ……いや、バキリとその東方渡りの高価な香木をとうとう折って、叫んだとか。
「その者を牢屋に放り込みになさい!」
誰が口にしたかわからぬ言葉など、捕らえられる訳もない。
ついには例の癇癪を起こして、折れた扇を投げつけて、今度は初代王の肖像画を傷付けて、パレンス王を青ざめさせた。
久々にあの女狐がどうしているか、懐中時計の蓋の裏、魔鏡で見た。暴れるザビアをなだめるパレンス王やジゾール公爵を見て、笑い転げてしまった。
とにかく、これでザビアの子、カイラルを第二王太子などに……という野望も砕かれたわけだ。
しかし、この程度で王妃側が大人しくなるとは……ゼバスティアも思ってはいなかった。
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