案外神様はいるのかもしれない

「とりあえず本屋にでも行くか」

「ただ珍しいね、イオンまでご出張とは」

 たまにはな、なんて言いつつ文芸部のお陰で本を買うこともだいぶ減った。

 そんな功績をたたえて飯でも奢ってやるかとカケルに目をやれば、視界の端不審者ありけり。

 このままストーキングされ続けても合流は無理と判断。

「トイレ行ってくるわ、そのへんで待っててくれ」

 この間に、なんでもいいから合流してほしい。

――

 帰って来た頃には呆気ないものだった。

「……いなんだが?」

 スマホに通知もなしと。

「イチノセ!」

 肩を叩かれ反射的に振り向く、頬に刺さる指は普通に痛かった。

「おっと、ごめん」

 想定以上に刺さった指に罪悪感はあるようだ。

「それで? 合流出来たか?」

「そりゃもちもん」

 トガクシが指差す方にはカケルとイセがカフェに並び注文待ちをしているようだった。

「なんとかなったようで何より」

 カケル達に近づく頃には注文は終わっていた。

「戻ったか、さっき偶然二人とあってな流れで一緒に」

「流れでか、まぁ席取っとくよ」

 近場のテーブル席に座るとトガクシが耳をかせと合図してくる。

 (ここから2on2作戦を開始するからノリで合わせて)

 なんだその作戦。

 説明ほとんど皆無じゃねーか。

「ほいお前の分」

 コーヒーを受け取り一口、うん甘い。

「ここは奢ってくれ、代わりに昼飯奢るから」

「まじで! サンキュー」

 もとより奢るつもりだったがカケルからしたらコーヒーが昼飯に化けたと思えば嬉しいもんだろう。

「それでこれからこの後どうするんだ?」

 部活メンバーであるものの4人で揃うことなんてそうない。

「わたしたちは水着をちょっと見たくてねー」

「俺は本屋に行く予定だったんだが、カケルはどうせ興味ないだろトガクシ達についてったらどうだ?」

「んー……行ってもいいんだけど、居心地がなぁ……」

 それはそう。俺なら断る。

「でもトガクシ達も男子からの評判が気になるんじゃないか?」

 トガクシはブンブン首を振っていた、鹿威しみたいだ。

「私も少し本を見て回りたいです」

「だったら二手に分かれて昼食で合流にするか」

 カケルは乗り気じゃないだろうが意見の一致に文句も言わないだろう。

 そんなこんな雑談しつつコーヒーが尽きる頃には11時を回っていた。

「じゃあ1時間後くらいに――」

 トガクシはまたも首をブンブン振っていた、今度は横に。

「じゃあ、こっちの用事が済んだらそっちに合流する」

 トガクシが鹿威しに戻るのを確認して席を立つ。

「じゃあお先に」

 昼飯はちゃんと奢ってやるを捨て台詞に店を出る。

 私も奢ってもらえるのかな…という声は聞いてないことにしよう。

 店を出て本屋に向かうとぽてぽてと白く小さいものが追いついてきた。

 猫か? 親猫についていく子猫感あるな、とか考えていたら普通に質問が飛んでくる。

「イチノセくんは普段何を読んでるの?」

「何って聞かれると困るな強いて言うなら……雑食かな」

 イセは頭には?が浮かんでいた。

「俺は別に読書家ってわけでもないんだ、趣味の主戦場はゲームだからな」

「どういうゲームやるの?」

「そうだな……ゲームも雑食だな」

「じゃあFPSとかもあそぶ?」

 意外が返答に少し反応が遅れる。

「え?ああ最近は流行ってるジャンルだからな、カケルに誘われてよく遊ぶよ」

 正直読書よりゲームに話が流れるとは思わなかった。

「イセさんも遊んだりするの?」

「友達に誘われて、最近はよく遊ぶよ」

 このThe文学少女みたいな子でも味方にブチギレたりするのだろうか? カケルのように。

 想像もつかない、しかし昨今ゲームを遊ぶ女子は案外少なくないのかもしれない。

 家にも絶賛引きこもって遊んでるやつがいるしな。

 書店到着、ここまで来たら一緒に回るのが正解なんだろうか。

「イセさんはなにか目当てはある?」

「実は特にないんだよね、イチノセくんは?」

「俺も、別に欲しいものがあったわけじゃないんだ、文芸部で事足りてるからね」

 イセは数歩前に進むと振り返る。

「じゃあ、私のおすすめ紹介していい?」

「よろしく、お願いします」

 我が人生に容姿を理由に敬語になった経験を1としておきます。

 イセも案外読書に関しては雑食なのだろうかと思うほどに、多ジャンルをおすすめされたお陰で時刻は12時30分を超えそうだった。

 そして結局、敏腕セールスマンに敗北し4冊ほど購入させれられていた。

 トガクシ……お前の昼食は本に消えたよ。

――

「ここか?」

 小さく頷くイセは本を売り込んで、機嫌が良さげだ。

 イセが先行したので置いていかれないようについていく。

 店内に男一人。 さぞ居心地が悪いだろう。

 肩を叩かれ振り返ろうとする、が少し前を思い出し一歩前にそして振り返る。

 イセが水着を抱え不思議そうに見ていた。

「どうかな?」

 俺の人生においてこういうイベントは来ないものだと思っていた。

 神様に感謝、しかしいいんじゃないか? などとありきたりな返答しか返せず。

 ボキャブラリーの低さ故か、経験値不足か。

 イセが水着を持ちながらとたとた進むのでついていくとカケルが待機していた。

「お前! 遅いって! 何やってんのさ!」

「でも、美少女に水着を堪能出来て嬉しいだろ?」

 嫌味に反応しない程度には気疲れしてる様子だった。

「まぁいいや、それでイセさんは?」

 言われて後ろを見るもいない、水着でも見に行ったんじゃないか? なんて行った頃には横のカーテンが開かれる。

 じゃーんという開かれた先には水着姿のトガクシがいた。

「お! イチノセも来ましたか! どうよこれ!」

「お前ここで何時間ショーを開くつもりだ?」

「ここではまだ20分も立ってないって」

 ”ここでは”ね。

「まぁ流石にもうそろそろ決めてくれ」

 カケルくんに言ってよーと引っ込むトガクシ。

 カケルはもう何がいいのか頭を抱えていた。

 哀れな男カワバなんて思っていたらシャツを引っ張られ隣のブースに引っ張られる。

 引っ張られた先には控えめに開かれたカーテン、イセが控えめにカーテンで体を隠しつつどうかな? と評価を促される。

 なんかこう見せられるべくして見せられたものと違い、一言間違えたら終わる気配を読み取り、逃げの択。

 静かに2回頷くことで、カーテンが閉まっていく。

 一難去ってまた一難、横ではトガクシによる水着ショーと魂の抜けたカケル。

 このままでは昼食は疎か夕食をここで済ませることになる。

 カケルを小突きまずは起動。

「目を閉じてカーテンが開いたらめっちゃかわいいと言え」

 コマンドを入力。

――

 少し遅い昼食と食後にゲーセンなんて話が出てしまい、俺の財布は破壊された。

 イオンを出ると空は朱く、朝よりも涼しく感じる。

 行きは2人帰りは4人、慎ましく行われる会話の中で今日を振り返るとイセは存外無口というわけでもないらしい。

 バスを降りると思っていたより粘っている太陽に目を焼かれる。

 反射的に手で遮ると、今日のゲーセンでの成果が握られていた。

 手ぶらで来たせいでずっと片手にぶら下がっていたそれに心の中で別れを告げる。

 カケルに声をかけ放り投げる。

「気に入ってたんじゃないの? これ」

「いーや、全く」

 最後に一人一回丸っこいペンギンチャレンジは、俺とトガクシが成功しただけだった。

「俺には別段付ける場所もないからな、お前が有効活用してやってくれ」

 カバンでいいじゃんという最もな事を言われる間に自販機アイスで釣る。

 小銭がないことを言い訳に奢らされ、とどめを刺される。

「お前、アイス1個分の貸しは忘れんなよ」

「お安い御用、部活のヘルプならいつでもね」

 夕日を背中で受け止め帰路につく。

「それで、今日はどうだった?」

 何が? とカケルを見やる。

「去年の夏はゲームと勉強と読書だっただろ?」

「そこまで極端じゃない」

 少しムキになって言い換えしたもののほとんど合ってる。

「でも、有意義だった気はする。」

「それに案外神様はちゃんといるのかもしれない」

 なにそれと笑うカケルにとっても有意義であればいいなと思った。

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夏の終わりは、誰かの恋の始まり tomo @tomo_1110

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