幽霊部員

 頭を小突かれ目が覚める。

「お待たせましました。おはようございます!」

 周りを見ると生徒は残っていなかった。

「少し遅いんじゃないか?」

「別にいいじゃないか、寝不足でHRの時間も仮眠に当てるくらい眠かったなら少しでも長く寝かせてあげた事に感謝してほしいくらいだよ」

 こいつの言っていることは間違ってない。

「だからそこ早く帰って布団で休みたいんだけど、まぁ頼んだのは俺だしな、サンキューそれじゃ」

 手早くカバンに手をかけ立ち上がろうとしたところ額に指を置かれ阻止される。

「お前にそんなことされても嬉しくないんだが」

「性別は簡単に変えれないからね、そこは申し訳なく思うよ。が一つ話を聞いてほしい」

 帰宅を諦め、カバンを戻す。

「それで?帰れないなら聞くしかないな」

「それは助かるよ」

 こいつの頼み事に笑顔が合わさると碌なことは起きない。

「実は、文芸部が人で不足でね」

 至って普通に聞いていたつもりだが、顔に出ていただろうか。

「そんな露骨に嫌がらなくてもいいじゃないか」

「別に嫌がってはいない、続けてくれ」

「これは噂なんだが来年度は部の最低人数が4人以上になるらしい」

「文芸部に入れと?」

「話が早くて助かるよ」

 ため息を一つ。

「幽霊部員でいいなら」

 碌でもない事の代名詞になった笑顔を見せられ、詳細は明日の放課後との事。

 台風一過、あいつはいつもそんなものだ。

 誰もいない教室に運動部の掛け声が聞こえてくる。

「帰るか」

 入部一つで変わる事もなし、幽霊部員とはそんなものだ。



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