第4話.哀しき研究者
「ここは……」
洞窟最深部へたどり着いたカフカ。
そこには、現実世界でしかありえないであろうこの世界には似つかわしくない建造物が存在していた。
『ようこそ。エンゼルロストへ。生体認証を行います少々お待ちください』
唐突に鳴り出した無機質な言葉に思わず警戒するも、人まずは指示に従い認証が終わるまでその場に立ち尽くす。
『認証完了。おかえりなさいませ』
「おかえり……?いや、僕は……」
有無を言わせず開くドア。
好奇心に負けそのまま施設の中へ足を運ぶ。
「ここは……」
『ようこそ同郷の友よ!俺の実験施設エンゼルロストへ!』
眼の前の物体から映像が浮き出る。
「うわ、びっくりした」
『そうだろうそうだろう。私は君と同じ日本から来た数百年前の転生者。今はパラケルススと名乗っているので以後はパラケルススと呼んでほしい』
「はぁ……。で、ここは一体」
『ここは私が生涯を費やした研究施設さ。あぁ!!安心したまえ。なんの分野か?という話だろう。私が研究していた分野は錬金術。ホムンクルスさ』
「ホムンクルス……」
『あぁ、とはいっても実験は大失敗だ。無から命を作り出すとなると人間の生ではあまりにも短い猶予だった』
あまりにも業の深いその実験に、カフカは言葉を失う。
『ふ、君がこれを悪と思うかどうかなんてそんなんことはどうでもいい。ただ同郷の好として一つ頼みたいことが……映像として囚われている私は移動することができないから、君自身にその場所へ赴いてもらう必要がある』
「と、いうと?」
『妻を病気で早くに亡くした私には、一人娘がいてね。その子も連れて行ってほしい』
「……どういうこと?さっき数百年前って」
『あぁ、多くの説明は省かせてもらうよ。私にも時間がなのでね。私がホムンクルスの実験を始めた理由はその一人娘を救うためなのだよ。齢五歳にして妻と同じ病にかかった娘のため、新たな器を生み出そうとね』
「でも失敗したって……」
『あぁ。無から作り出す事自体は失敗したさ。だから私は娘の体を
「なっ!!」
衝撃の一言にカフカは大きく目を見開く。
『あぁ、悔しいが娘の犠牲もあり、とても素晴らしい完成品ができたよ』
「あなたは……ッ!!」
『許せとは言わない。娘の命を救うためのめり込んだ研究だったが私は娘の命が助かったという喜びよりも、有からであれ
「……その子は今どこに」
『研究室の地下にある部屋だ……記憶をリセットし、数百年間、生命維持装置の中に入れてある。最初は戸惑うだろう』
「……」
カフカは無言で彼女のいる場所へと足を運ぶ。
『君にはこれを託しておこう』
カフカの前に、唐突に小さな石が現れる。
「これは……?」
『それは、大昔に大陸を分断するために創られたとされる
「なんでそんな大事なものを……」
『多分君にはこれが必要になる。それに大切な娘を託すんだ。これくらいなんてことないさ』
『ヒスイを頼んだよ』と小さな声でつぶやいたパラケルスス。
カフカは頷きその場を後にする。
「分からない」
何が正しいのか。
愛するものを救うために、狂った彼を正しいと肯定してしまえば自分の中で何かが壊れてしまう気がした。
でも、彼が間違っているとも思えなかった。
僕自身も、もし彼の立場だったらそうしていたのかもしれない。
「なにが正し『なーに!君が思う正しいを実行すればいいのさ!』うわぁ!?」
いきなり、シャツの襟から声が聞こえてきて思わず駆け下りていた階段から足を踏み外しそうになるカフカ。
「どこから……!ってこれ……」
襟元を触ると何やら、小さなボタンのようなものが。
『はっはっはっはっ!!』
「笑い事じゃないですよ」
『すまないすまない。君がこの施設に入ってくる時点で気付かれないように仕掛けてたんだよ』
「どうやって……」
『企業秘密さ!!』
「はぁ……」
カフカはパラケルススの指示の元、地下のヒスイのもとまでたどり着く。
「これが……」
『うむ。この赤いボタンを押せば彼女は新たな人生を歩める』
「最後に一つ聞いていい?」
『なんだ?』
「なんで今までこの子を出してあげなかったの?」
『……』
ここぞとばかりに押し黙るパラケルスス。
「そっか、ずっと待ってたんだね」
『……』
「案外過保護なんですね」
『……』
何も言わないパラケルスス。
カフカは苦笑しながらも、赤いボタンに手をかける。
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