出会い

第3話.ゴブリンキング


 デバッファーはこの世界では最弱職だという理由で、追放され信頼していた親友にも裏切られ今に至る。


「ぐ、ぐぁ……!!」


 後頭部に迫った攻撃を、紙一重で躱したまでは良かったものの、短剣は軌道を変え右肩を掠めた。


「やっぱりスロウじゃほぼ意味無しか……」


 この亡骸の森は、Aランクパーティーでさえも、無闇に立ち入ることはない。

 エウロスラインという風壁に囲まれたこの大陸で最も立ち入っては行けない森だと言われるほどだ。

 それもそのはず、この森にいる魔物は全て往来の魔物より凶暴かつ強力なのだ。


「……各個撃破しかないな」


 カフカは、数体のゴブリンのうち先頭にいた者のみスロウを解除する。


「グギャァッ!!!」


 体が軽くなったゴブリンは先程とは比べ物にならないスピードでこちらに迫る。

 各個撃破といえど、攻撃手段が何一つないカフカ。

 絶望的状況に焦燥感を感じるが、呼吸を整え冷静さを取り戻す。


「近くに武器になりそうなもの……はないか。くそ……」


 死にものぐるいで、あたりを見回していたカフカだが不意に眼の前に浮かび上がる文字の羅列。


『スキル名『ガードブレイク』を取得しました』

「はぁ……はぁ……なんだこれ……!!」


 突如として聞こえてきたその無機質な言葉により、新たなスキルを取得したカフカは再度後方に迫ってきた一匹のゴブリン目掛け、スロウとガードブレイクを行使する。


「一か八か。なんとか併用はできるみたいだ」


 完全に気を抜いていたゴブリンは、一瞬自らの体の動きが鈍ったことに動揺するがその隙を逃すまいとカフカは正面から拳を振り下ろす。


「はぁ、はぁ。ガードブレイクは文字通り相手の防御力をダウンさせるデバフらしいな……」


 ゴブリンの手から離れた短剣。

 痛みと怒りに塗れた表情。

 カフカは一瞬後ずさるも、覚悟を決め地面に落ちた短剣を拾う。


「悪く思うなよ」


 自らの死を悟ったゴブリンは、瞬く間に恐怖に染まるが躊躇することなく確実に仕留めるために、頭部目掛け短剣を振り下ろす。

 切るというよりも潰す。という感覚のほうが近かったその感触。

 耳に残るゴブリンの断末魔。

 初めて人形の生物を殺した。

 禁忌に手を染めたと言えるその行為による罪悪感と背徳感。

 敵を殺したことによる高揚とは反し、催す吐き気。


「くそ……」


 全てを消化するにはあまりにも短い時間。

 すでに、すぐ側まで数体のゴブリンは迫っていた。


『レベルアップを確認。Lv.1▶Lv.2へ上がった事によりステータスが上昇しました。』


 再び表示されたその言葉に順応しつつあった。


「なるほど、この世界ではこれが当たり前なのか」


『レベルアップを確認。Lv.2▶Lv.4へ上がった事によりステータスが上昇しました。』


 更に表示されたその羅列。


「なんだ?」


 表示されたその言葉に違和感を覚える。


「俺は……僕はまだ一匹しか殺して……」


 地を揺らすほどの地響き。

 背筋の凍るような寒気。


「……!?」


 木々を倒し現れたのは、ゴブリンとは似て非なる巨大なモンスター。


「グルォォォォオオ!!!!」


 雄叫びを上げるそのモンスターから放たれる凄まじいプレッシャー。

 思わず後ずさりしてしまうカフカ。


「ゴ、ゴブリンキングってやつか……ってことは、さっきの経験値はこいつが殺したおこぼれか」


 心の準備すらままならない状態だが、モンスターが待ってくれるわけもなく。


「くッ」


 ゴブリンとは比べ物にならないスピードで、眼前に迫る上位種。


「スロウッ!!」


 紙一重のところでバックステップし、デバフをかけるが。


「なッ!?」


 スロウで確かに鈍ったであろう速度だが、あまりにも両者の間の戦力差が大きく再度眼前に迫ったゴブリンキングに為す術もなく、棍棒の一振りで十数メートル後方へ飛ばされる。


「がはッ!!」


 レベルが上がっていなかったら、確実に即死していたであろうその攻撃に恐怖するカフカ。

 絶対絶命の状況。

 死にものぐるいで逃げたとしても、生還できる確率はごく僅か。


「くそ……」


 デバッファーはアタッカーがいてようやく輝ける役割である以上、今の状況下では戦うという選択はない。


「無能……か」


 自嘲するように笑うカフカだが、嘆く体に活を入れなんとか立ち上がる。


「ひとまず身を隠さないと。策を練るのはそれからだ」


 こちらに迫る地響き。

 カフカは考える暇なく近くの洞窟へよろける足で向かう。


「はぁ、はぁ……肋骨はいってるな……」


 奥へ奥へと足を進める。


「……。」


 視界の端に見えるのは、ここで力尽き壁により掛かっている亡骸。


「冗談じゃない……ここで死んでたまるか」


 カフカは布袋から、ポーションを取り出し傷を癒やすと更に深い闇の中へ歩みを進める。








 冒険がようやくここから始まるとも知らずに。







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