僕の大切なもの

幸まる

盗まれたプラネタリウム

僕は工作が大の得意だ。


想像するものを自分で形にするのって、めちゃくちゃ楽しい。

思うように出来なくて腹が立つこともいっぱいあるけど、工夫して上手くいくと、嬉しくなっちゃう。


小さい頃は、パパやママに手伝ってもらわないといけない作業もあったけど、小学三年生になった今は、手伝いなんていらない。

なんだって自分で作っちゃうもんね。


カッターだって上手く使えるし、ボンドも適量でくっつけるなんて高度な技が使えるようになった。

貼り付けた面から溢れたボンドが固まってるなんて、そんな見た目が悪い作品は作らないよ!



最近は、動画で色んな作品作りのヒントを得ている。

今までは図書館の本を借りて参考にしていたけど、動画だとびっくりするような物を作っている人がいて、面白いんだ。


学習机の前に段ボールで可動式の棚を作ったり、割り箸鉄砲を使った射的屋台を作ったりしたよ。


傑作は、僕の相棒、ハムスターのグーちゃんの豪邸だ。

牛乳パックで三階建てにした。

動画でハムスターのアスレチックを作ってた人がいて、僕も作ってみたんだ。

セロハンテープやボンドは使わない安全仕様で、グーちゃんハウスの中に、ギリギリ入る大きさに工夫して。

回し車はギリギリ回るから大丈夫だよね。



最新作は、プラネタリウム。

アルミホイルにシャーペンの先や箸でたくさん穴を開けて、お菓子の空き箱に貼り付けるんだ。

真っ暗な部屋で、箱の中に懐中電灯を入れてスイッチを入れたら……。


「わあ、キレイねぇ」

「おお〜、ちゃんと夜空みたいに見えるじゃないか」


パパとママにそう言われて、僕はちょっと得意げに胸を反らせた。

天の川みたいな星空にしたかったから、本当はちょっと星の数が物足りない。

もっと細かく穴を開ければいいのかな。

改良しなきゃ。


そう思いながらも、その夜はプラネタリウムを眺めながら眠ったんだ。




事件が起きたのは翌朝だった。


「グーちゃんがいない!」


朝起きると、ハウスの天井扉が空いていて、グーちゃんはいなくなっていた。

内側から押し開けて、脱走したんだ。

天井扉には届かないはずなのに、どうして!?


「きっと、牛乳パックの天井によじ登ったんだよ」


パパに言われて気付いた。

確かに、僕の作った豪邸の上に登れば、グーちゃんは天井扉に届いただろう。

動画では、ハムスターは牛乳パックの中を走り回って遊んでいたから、まさかそんな風に使われるなんて思わなかった。


どうしよう!?


パパとママにも協力してもらって、僕はグーちゃんを探した。


本棚の中?

タンスの後ろ?

ソファーの下?

色んな所を探し回ったけど、グーちゃんは見つからない。

ハムスターは夜行性だから、どこかで眠っているのかも。


結局、僕はママに捜索を頼んで学校へ行った。

でも、グーちゃんのことが気になって、授業の内容なんて全く頭に入らなかった。


グーちゃん、大丈夫かな?

迷子で寂しくて、泣いてないかな?

お腹空いて、変なモノ食べてないよね?

まさか、家の外になんか出てないよね?



放課後、僕は走って家に帰った。

ママは申し訳なさそうに、「グーちゃんはまだ見つかってないの」と言った。


僕はからのグーちゃんハウスを見た。


牛乳パックの豪邸は、ハウスの中をギュウギュウに占めていた。

牛乳パックが邪魔で、トイレの入口が狭くなってる。

もしかして、回し車は回しにくかったんじゃないかな。

のびのびと身体を伸ばせる場所なんて、回し車の下くらいしかないじゃないか。


僕は動画を見て、楽しく遊ぶグーちゃんを想像して作ったけど、グーちゃんはこんなもの欲しくなかったかもしれない。

だってグーちゃんは、散歩の時も、広い場所をダーッと走るのが好きじゃないか。

ハウスが広々としている方が、ずっと快適だったのかも……。


僕、大切なものグーちゃんをちゃんと見てた?



「ごめん、グーちゃん。もうこんなの除けるから、お願い、帰ってきて……」



ゴソッ



後ろで音がして、僕はびっくりして振り返った。

部屋の隅で、僕が作ったプラネタリウムの箱が揺れている。


「あれ? もしかして!?」


急いで近付いて見ると、箱の裏は齧って穴が開けられている!

そこから覗いてみれば、中から眠そうなグーちゃんが顔を出した。


「グーちゃん!!」



グーちゃんは、脱走してからずっと僕の部屋にいたんだろう。

巣材や餌を入れていたカゴにも侵入したらしく、そこから盗っていったヒマワリの種も、プラネタリウムの箱の隅に小山になっていた。


もしかして、僕が学校に行っている間に大冒険したの?


なんだか可笑しくて笑ったら、涙が出てきた。

グーちゃん、無事で良かった。




僕のプラネタリウムは、グーちゃんのものになった。

お散歩の時には、あそこに入って箱を齧ったり、おやつを食べたりするんだ。


グーちゃんに盗られちゃったから、また改良してすごいプラネタリウムを作らなきゃ。


僕はグーちゃんハウスを覗く。

牛乳パックの豪邸がなくなったハウスの中で、グーちゃんはのびのびと身体を伸ばして転がっていた。



《 おしまい 》

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