第19話 気になることは早期解決


「この最後のページ……」


 俺は持ってきた薄い本をじっくりと読んだ。わかりやすく漫画で解説されているから、その通りの動きをしてみたりもした。ただ、本当に残念ながら、この世界に来て日が浅いせいで魔力を感じることは出来なかった。ただ、描いてある通り、積極的にこの世界の食べ物を口にすることにした。特に、魔力の高い人が入れてくれたお茶は、その人の持つ魔力をそのまま取り込むことに近いから、魔力が溜まりやすいと書いてあった。

 と、言うことは、ということで、


「ガリアスのいれてくれたお茶が飲みたいな」


 なんてオネダリをしてみる。そうすると、金髪イケメン王子ガリアスは、嫌な顔をせずにお茶を入れてくれるのだ。日本でもお茶の入れ方は温度や蒸らし方で味が違ってくると聞いたけど、この世界では魔力で味が違ってきた。いままでメイドさんのいれてくれたお茶を飲んでいたけれど、ガリアスが入れてくれたお茶は全く違ったのだ。


「メイドさんには悪いけど、口当たりが全然違う。なんていうかまろやか?のど越しがいい?体に染み渡る?とにかく美味しい」


 こんな時、貧租な語彙力で申し訳ないと思うのだ。


「そんなに喜んで貰えるとは嬉しいな。ケイタ」


 金髪イケメン王子であるガリアスは、ニコニコとした笑顔でそう答える。ティーポットを持っている姿もなんだか様になっていて、なんちゃらカフェみたいな雰囲気になっていて、なんだか面白い。


「コレは聖女が教えてくれたスコーンと言う食べ物だ。ジャムやクリームをつけて食べるものらしい」


 そう言って口の前に出されたのは、確かにスコーンだった。俺が知っているのはパン屋さんに並んでいるスコーンなので、正解なのかは知らないが、少なくとも目の前に出てきたスコーンは俺の知っているスコーンの形をしていた。


「聖女が教えてくれたレシピにあったクリームは、牛の乳を煮詰めて作るものと、チーズを加工して作るものがあった。今日は煮詰めて作ったものをぬってみたよ」


 ふむふむ、この解説から行くと、煮詰めたものは練乳的なやつだな。チーズを加工したものは普通にチーズクリームかな?チーズクリームも食べてみたいけど、今はお茶の時間だから、甘いので正解なのかもしれないな。でも、練乳ならイチゴにつけて食べたいと思ってしまう。


「うん、甘い」


 スコーンにぬられた白い液体を舐めてみた。舌先にほんのり着く程度なんだけど、かなり甘い。ミルククリームと言えば上品だけど、俺的には練乳かなぁ。とても美味しかったので、オカワリをして2個も食べてしまった。おかげでお腹がパンパンである。ほら、スコーンって、結構水分欲しくなる食べものだからね。おかげでガリアスの、魔力がたっぷりなお茶を沢山飲んでしまった。結果オーライって言うところだ。


「よし、食後の腹ごなしに散歩してくる」


 メイドさんがお茶の道具を片付けたのを見送って、ガリアスがなんだか名残惜しそうな顔をした。まぁ、食後じゃなて午後のお茶の時間だったんだけどな。


「散歩?どこにいくんだ?」


 ガリアスが心配そうに聞いてきた。ココ最近、オレは魔力を貯めるために魔力がありそうな場所を探検している。貰った薄い本、著者はどこかの国で召喚された勇者。魔力の感じ方と魔法の使い方が書いてある。それを読んで、それに基づき俺は行動をしているわけだ。自然の中にある魔素を沢山取り込みたいから、城の中庭の芝生の上で寝転んでみたり、噴水の回りを走り回ってみたりしている。

 なんでかつて言うと、城の外に出られないからだ。本当は自然豊かな森に行って、森林浴をしたり、滝のそばでマイナスイオンを取り込みたい。勇者いわく、魔素は自然に沢山溶け込んでいるんだそうだ。金髪イケメン王子ガリアスが、お休みの日はデート?と称して馬に乗ってあこち出かけてはいるんだけど、まぁ、馬に2人乗りすると自然とガリアスが俺の背後にいるわけで、手綱を握る手が俺を包み込んでいたりして、なんだか気恥しいのだ。しかも馬が白馬だし。どんだけ王子様なんだよって、突っ込むしかないだろ。

 そんなんわけで、俺がひとりで行ける場所は限られている。


「今日は魔法省に行ってくる」


 俺がそう言うと、ガリアスはちょっと安心した顔をする。


「では、途中まで送らせてくれ」


 そう言ってガリアスは俺の手をとる。なんだかお姫さまみたいな扱いをされて、俺も満更でもない顔をしてしまうから困ったものだ。ズボンは動きやすいものを着ているんだけど、膝近くまである上着はまだまだなれないんだよな。ソファーから立ち上がる時に毎回もたつくんだよ。


「ケイタ、遠慮なくつかまってくれ」


 そんなことを言われるまでもなく、片手で俺の事を支えられてしまうガリアスは、本当に金髪イケメン王子なのであった。

 ガリアスは執務室に向かい、俺は魔法省へと向かう。分かれ道には必ず兵士が立っていて、敬礼なんかされてしまうから毎回俺は驚いている。だって、ロンドンの兵隊さんみたいな動きをするんだもんな。本当にそんな動きをするなんて思っていなかった初めてかの時から、未だになれない俺。毎回驚いて見つめてしまうから、ガリアスにそっと回れ右させられている。そんなんだから、ヨタヨタとしながら魔法省に一人で向かうのであった。

 魔法省ではすっかり俺の相手はアントンになっていた。あの追熟の一件以来、魔法省トップのラムダは研究室に籠ったままなんだってさ。アントンは自称ラムダの一番弟子だから、俺の相手をしてくれている。ってわけだ。


「アントンの入れるお茶もまた味わいが違うよな」


 俺がそんな感想を口にすると、一瞬アントンの顔が険しくなった。そして、小声で言うのだ。


「そんなことを大っぴらに言わないでください。俺が王子に殺されます」


 結構真面目な顔で言うから、俺は素直を頷いておいた。

 さて、そろそろ本題に入る頃だと思う。何しろ、なんとなくだけど魔力を感じるようになってきたし、こうしてガリアスの入れるお茶とアントンの入れるお茶の違いもわかるようになってきた。


「ところでさ、帰還の魔法陣ってなんの事?」

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