第18話 魔力とはなんぞや


「魔力ってなんなのさ」


 結局、よくわからないので魔法省にお邪魔することにした。しかしながら、魔法省トップ(らしい)のラムザは研究室に籠ってしまったらしい。俺がおいしい果物食べたさに提案した追熟をするための魔道具を開発してるんだってさ。城の調理場でやったのは、俺が説明したことをただ再現しただけだから、何も難しいことではなかったらしい。だが、誰にでも使える魔道具ともなると、話は別だったらしい。そもそも果物の大きさも色々あるから、大きな箱にするべきなのか、エアコンみたいな装置を作って設置タイプにするのか、そのあたりからの開発になってしまったらしい。

 俺のせいじゃないよな?

 きっと、魔法省トップとしていいものが作りたいだけなんだと信じたい。


「魔力、ですか」


 困った顔で俺の前に立っているのは、魔法省トップラムダの自称一番弟子アントンだ。


「番殿は魔法の存在しない世界からいらしたのでしたね」


 そうつぶやきつつ、アントンは薄い本を持ってきて俺の前に差し出した。


「この本は、他の国で召喚された勇者が描いたものです。異世界から召喚された日本人にわかりやすくという手法で描かれています。という勇者の元居た世界の言語で書かれているため、我々には読めないのですが、召喚された人には読めるそうなので、当時召喚魔法を使用していた国はこの本を保管していました」


 アントンの説明を聞いて、俺は察した。はるか昔に召喚された勇者は漫画家、もしくは漫画家志望、または同人作家だったに違いない。中二病よろしく異世界召喚にヒャッハー!したものの、うまく魔法が使えなくて四苦八苦したのだろう。その結果、魔法の使い方を漫画にした。と思われる。

 読んでみれば、ほぼフリーハンドで引かれた枠線や集中線、セリフも手書きだ。今ではタブレットで描くことが当たり前の漫画だけど、以前は手書きだったわけで、スクリーントーンをカッターで切って原稿に貼っていたものだ。金のない学生は手書きで点描なんかもしていたわけで……まさにそんな感じの手作り感あふれる漫画が俺の目の前にあった。


「すげぇわかりやすいじゃん」


 魔素は元素と同じと考える。呼吸をして取り込む酸素や、食事をして得る栄養素のようなもの。そう言った解説が描かれていて、体の中に一定量の魔素が溜まると、それが魔力となって魔法が使えるという内容だった。魔素が溜まるのはだいたいおへその辺りらしいが、目に見えない元素のため、溜めるための器官があるわけではないらしい。おへその辺りに手を当てて、意識を集中させると魔力の流れを感じられるんだってさ。

 俺は漫画で読んだとおりに、おへその辺りに手のひらを当てて、魔力を感じ取ってみた。が、さっぱりわからない。


「番様はまだ感じ取れるほど魔力は溜まっていないでしょう」


 アントンはそう言うと、グラフのようなものを見せてきた。


「わが国で、魔法が使えるようになった平均年齢を表したものです。最初に使えた魔法の属性は色で表しています。平民の子どもはお手伝いをする関係からか、火属性が使えるようになることが多いですね。それと身体強化は無意識に使えるようになっていることが多いです。逆に貴族の子どもは身体強化は訓練しないと使えないことがほとんどです。生活の中で肉体を酷使する場面がないことが要因でしょう。家庭教師に教わってしまうことも要因の一つと思われます。基礎からということで、ろうそくに火をつけてみたり、手のひらに水を出してみたり。魔力のコントロールから始めるからです」


 なるほど。一理あるな。なにせ、その手の異世界転生あるあるで、家庭教師の前でいきなりすげー魔法ぶっ放して大事になっちゃった。なんて話は結構あるからな。いわゆる俺TUEE系だ。主人公最強とか、そういうやつ。男だったら憧れるやつだよな。でもそうやって悪目立ちすると権力者に目を付けられて、お姫様と結婚させられたりして自由がなくなってくんだよな。難題吹っ掛けられたりしてさ、まあ、物語としては面白いんだけど、能力があれば子どもを働かせるって、異世界物だから許して読んでたけど、実際自分がそんな扱い受けたらボイコットするわ。


「さて、このグラフを見てお分かりいただけるかとは思いますが、平均年齢は六歳前後、生まれる前から魔素を体内に取り込んでいる我々で生まれてから六年もかかっているのです」


 六年もかかるのぉ

 そんなに待てないよ。ってか、退屈じゃん。俺って、聖女や勇者と違って、そもそも召喚された目的がないじゃん。だって嫁なんでしょ?結婚式したらそれで終わりなんじゃないの?魔力が溜まるまで結婚できないってやつ?あれ?そもそも、俺のことって呼んでるよな?あとなんだっけ?なんか重要なワードで呼ばれた気がするんだけどな。


「俺、六年間もニート生活すんの?」


 思わず口から出たのはそんな言葉だった。だってそうだろ?六年間ニートって、なかなかだと思うんだよね。いやー、やばいって。


「ご安心ください、番様。子どもだから六年もかかるのです。こちらの本をお読みになられましたよね?」

「ああ」

「この本を書いた勇者は、魔法が使えるようになるまで何年かかったと書いてありましたか?」


 そんなことを言われ、俺は改めて本をぱらぱらとめくった。最後のページまで行って、もう一度最初のページに戻ってみる。扉絵に描かれているのは、おそらくこの本を描いた勇者の自画像なんだろう。そして、そこには、使が解説する魔法の使い方。と書いてあった。

 そう、勇者はたった三か月で魔法が使えるようになったのだった。


「何年じゃない、三か月だ。たった三か月?早くね?」


 俺の心の声は駄々洩れだったが、気にしない。気になんてしていられないのだ。がんばれば最速で三か月で俺も魔法が使えるようになるのだ。素晴らしい。


「そうなんですよ、番様。番様たち日本人という異世界人は、とても勤勉で器用でいらっしゃるので、呑み込みがはやいのです」


 確かに。物まねは日本人の得意技だと聞いたことがある。だが、それは欧米諸国からの盛大な嫌味なんだという。そう、大変器用な日本人は、海外からの知識を吸収し、ものすごい勢いで発展させる能力を持っているのだ。そんな日本人だから、異世界から狙われたんだろうな。NOと言えない日本人。お人好しの日本人。困っている人がいたら助けてしまう日本人。だから、縁もゆかりもない異世界を救うために魔法を覚えて魔王を倒してみたり大地を浄化してみたりするんだろうな。


「なるほど。そう言うことか。わかった、俺頑張るよ。この本借りてもいいかな?」

「もちろんです。番様にお渡しするために複製を作っておきましたからご安心ください。予備もたくさんありますよ」


 そう言ってアントンは十冊ぐらい同じ薄い本を見せてくれた。


「番様が魔法の練習中に燃やしてしまうかもしれませんからね。念には念を入れてたくさん作っておいたのです」


 そんなことをドヤって言われても、なんだかうれしくない俺なのであった。

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