第17話 魔力がとても重要です
「うわぁ」
メイドさんにダメ出しをくらったけれど、諦めきれない俺はガリアスにお願いをして、自分の部屋の浴槽のお湯を浮かべてもらった。もちろん、俺が入っている状態で……
「やはり、ケイタの魔力が足りないな」
俺の頭上にお湯を浮かべながらガリアスが言う。ちなみに俺もガリアスも裸である。なんてったって風呂場にいるからな。運命だか、番だか知らないが、男同士なのでその辺は気にしない。だが、メイドさんたちは誰も入ってこない。
「魔力がないとなんでダメなんだよ」
俺はブーたれながら聞いてみた。
「生簀に入っているマグロはこの世界の海で生まれ育ったから当然魔力を持っている。魔法は使えないと言われているが、アレだけの勢いで泳いでいるから恐らく生まれながらに身体強化の魔法を使っていると思われる」
「マグロなのに?」
「そうだ。この世界に生きるものたちは、無意識に魔法を使っているんだ。呼吸をするだけで魔素を体内に取り込んでいるからな。取り込んだ魔素は体内で魔力に変換され、魔法を行使する。ちょっとした身体強化は無意識にしてしまっているんだ。例えば重たい荷物を持ち上げたり、階段を登ったりする時に」
「へぇぇ」
俺はそんな場面を頭の中で考える。確かに、普通でも重たい荷物を持ち上げる時には掛け声かけたりするもんな。階段や坂道登る時には自然と足に力が入るから、この世界だとそんな時に魔法を使っているのか。
「湯加減はどうだ?」
なんて言いながら、ガリアスも湯船に入ってきた。ちなみに、俺の部屋の湯船はヒノキで出来ている。日本人だからな、どんな風呂がいいのか聞かれたので、理想を話したら本当に作ってくれたのだ。もしかしなくてもワガママを言ってしまったのかとドキドキしたが、この程度のことなら魔法ですぐできるからワガママでもなんでもないらしかった。むしろ、番にワガママを言われたい。とガリアスから色々と要望を聞かれて疲れてしまった俺だった。
「うん。ちょうどいいよ」
縁によりかかり、頭を仰け反らせてリラックスする俺をガリアスが嬉しそうに眺めている。すっかり恒例になってしまったため、気にもとめなくなってきたが、初日は緊張してくつろげなかった。何しろ、ガリアスは金髪イケメン王子のくせして、俺の頭を洗うのだ。番の世話をしてなんぼというのがアルファらしい。頭にお湯をかけるときには顔にガードを施し、髪を丁寧に洗い、体も泡立ちのいいボディソープで洗ってくれた。
「しっかし、本当に凄いよなぁ」
これらは聖女の要望により開発されたんだそうだ。もちろん、ドライヤーもである。ドライヤーに至っては、巻き髪用とストレートにするためのコテまで揃っていた。今ではこの国の女性にはなくてはならない魔道具なんだってさ。
俺はガリアスに、髪を乾かしてもらいながら呟いた。ドライヤーができる前までは、魔法で乾かしていたらしい。風魔法で乾かすから、乾いたあとは髪の毛が爆発しているそうで、その後の処理がものすごく大変だったんだって。ただ、聖女の言う片手で使えるドライヤーを作り出すのはかなり大変だったらしく、完成するまで聖女が浄化の旅に出ないと駄々を捏ねて大変だったと聞いた。まぁ、髪は女の命だし、女子は前髪決まらないと出かけられない。って、言うしな。
「聖女が召喚されなければ、この国は瘴気に取り込まれて消滅していたことだろう。他の国々も、魔王に攻め込まれ全滅していたはずだ」
「理由は違うけど、どこの国も助けを求めて召喚魔法を使っていたってこと?」
湯上りのリラックスタイムは、ソファーに腰かけ、メイドさんが用意してくれた柑橘の果物が浮かんだ水を飲む。すっきりとした味わいはなんとも言えない。果物の種類は日によって違うから、結構楽しい。
「そうだ。そして役割を終えた勇者や聖女は自分の意志で帰還の魔方陣で元居た世界に帰っていくのが本来の約束だった。だが、魔王討伐が目的であった勇者は時折命を落としてしまったり、大けがを負うことがあった。そうなると帰還できなくなるし、目的が達成されなかったりして短期間に召喚を繰り返すことになったりもした。結果、それが召喚の乱用につながり異世界人を消耗品のように扱うことになり、ケイタのいた世界の神々の怒りを買ってしまったというわけだ」
「まぁ、自分の世界の人間を使い捨てにされたら、そりゃ怒るよ」
異世界から来たからって、人外の扱いをされる筋合いはないんだよな。そもそも、異世界人に人権はない。なんて考えがあること自体が理不尽極まりない。大昔は日本でもあったらしいけど、それは借金だったり、犯罪だったりなにかしら理由があったと時代劇で見た気がする。無理やり連れてこられて人権がないとか、理不尽すぎるだろう。そりゃ、神様だって怒るよな。
「だが、ケイタの世界の神は俺のもとにケイタを召喚することを許してくれた」
そう言って金髪イケメン王子ガリアスは、俺の手の甲にそっと唇を落とした。こういうところが異世界の王子様ってずるいよな。元居た世界でも欧米人ならやってそうだけど、残念ながら恥ずかしがり屋の日本人にはこんなことをさらっとできる人はほぼいない。俺だって、予定はないけど結婚式で誓いのキスとかマジで無理。とか考えたもんな。
それにしたって、スキンシップなのかはわからないけど、さらっと手の甲にキスとか、頬っぺたじゃないところが紳士的すぎるだろ。俺は自分の耳が熱くなるのをしっかりと自覚した。
「な、なんでわかるの?」
ゼロ距離だから逃げることができなくて、とっさに自分の手を引っ込めるしかできなかった。
「なんでって?それはね、ケイタ……」
ガリアスが、含みを込めたような口ぶりで、そして口元にうっすらと笑みを浮かべ、それからはにかむ様な顔をして、言葉を紡いだ。
「愛しい番を召喚する魔方陣は消されなかったんだ。だから俺は、ありったけの魔力を込めてケイタを召喚したんだよ」
そう言って俺を抱き寄せた。
もともとゼロ距離なんですけど、ゼロ距離なんですけどっ。
「召喚に応じてくれてありがとう」
そう言って、多分イケメン金髪王子ガリアスは、俺の頭にキスをした。多分、見えないけどな。
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