第16話 どうやら邪魔はされないみたいです
「ケイタ、魔力が蓄積されているようだな」
金髪イケメン王子ガリアスと二人っきりで夕飯を食べていたら、ニコニコと嬉しそうに言われてしまった。さすがは王子様なだけあって、情報の伝わりがものすごく速い。館長だってあのミュージアムで俺の帰りを見送ったんだから。その後ここまで来て報告したんだろうか?だとすると、移動が速すぎる。俺なんか馬車に乗せられて移動したっていうのに。ただ、聖女の助言で馬車はラノベあるあるのような乗り心地の悪さはなかった。多分聖女はサスペンションの仕組みとかはわかっていなかったようだけど、パジャマにゴムひもを採用させたように、馬車のタイヤにゴムを採用はさせてくれたらしい。振動と揺れが結構軽減されていたし、座面も綿入りの柔らかい造りになっていた。あとはサスペンションが付けば完璧だと思うんだけど、どっかの国に召喚された勇者がそんな知恵を授けていないもんかと考えてしまう俺なのであった。
「なんで知ってるの?」
一応驚いておく。
多分あれだ、初日にラムダが言っていたやつだ。魔法瓶ではなくて、魔法便っていう手紙だ。確実に相手に届く手紙らしい。俺がちょっとわがままを言うと、メイドさんがすぐに使うので知ってしまったんだけどな。我儘って言っても、こんな飯じゃいやだとか、着替えは一日三回したいとか、風呂のお湯が熱すぎるとか、そんなことを言ったのではない。ただ、外に遊びに行きたいなぁ。っていう程度のワガママを言ったに過ぎないんだ。
「ケイタのことなら何でも知っているよ。なにしろ俺たちは運命だからな」
そんなことを言いながら、ガリアスは俺の口にハンバーグを入れてきた。このハンバーグももちろん聖女のレシピの一つだ。肉汁じゅわぁの美味しいやつ。海鮮丼を作った時の派生系で作られた醤油のおかげで、味は照り焼き。あまじょっぱいは万国共通で美味しいやつだ。すぐさま白飯をかきこめば口の中は当然幸せな状態である。
「うんまぁい」
俺は口の中があまりにも幸せすぎて、ガリアスとの会話を放棄した。多分だけど、話す必要はそんなになさそうなんだよな。メイドさんたちは俺の視界に入らない角度に立っていて、俺の茶碗からご飯が無くなると、既によそられた茶碗と取り替えるのだ。しかも瞬間的に。きっと魔法なんだろう。水も、コップが一回飲む事にチェンジされている。まさに上げ膳据え膳ってやつだ。
「ほうれん草とコーンのバターソテー最高」
ガリアスが俺の口に入れてくれたのは付け合せと彩りとして最適なもの。コーンってさ、大抵の男子が好きなやつだよな。味噌ラーメンにはコーンが付き物だったりするぐらいだし。
「ケイタが美味しく食べてくれて嬉しいよ」
ガリアスはそんなことを言いながら、俺の頭を撫でてくる。ちょっと食べにくいんだけど、そもそも俺はガリアスの膝の上にいたりするから、既にめんどくさいっちゃ面倒臭いんだけどな。
「なぁなぁ、養殖を考えたってことは、ガリアスはマグロが好きなのか?」
ふと思い出して聞いてみた。
「ん?ああ、聖女の文献に新鮮な方が美味しい。と書かれていたので、試してみたかったんだ」
「へぇ、でもさ、マグロは何処から来たんだ?聖女ミュージアムで見た地図だと、この周辺に海なんてなかったけど」
「ああ、それは魔法で海水ごと運んだんだ」
はい来た。
さすがは異世界。規模が違う。海水ごと運んだって、海水ごと魔法でだよ。
「え?ってことは、あの生簀はそのまま海だったってことか?」
俺は頭の中に城の中で見たマグロの生簀という名の巨大な球体を思い浮かべた。巨大なマグロがグルグルと周回していた。しかも、海水はちゃんとマグロの進行方向に逆らうような海流となっていた。いや、まって。想像するとものすごく怖いんだけど。
「ああ、マグロが泳いでいた海をそのまま持ってきたんだ。生活環境を変えない方がいいと聞いたのでな」
へぇえ、なんともすごいことだ。そのまま海を持ち込んだのかよ。やっぱ、魔法すごいわ。
「凄いな。それはガリアスがやったのか?」
「ああ、そうだ。海流の維持についてはラムダに任せはしたが」
なんかドヤっているみたいなので、俺は感動したって顔をガリアスに向けておいた。
「なぁなぁ、水をそのまま持ち上げるのって難しいのか?俺も見てみたいな。ダメか?」
いきなりだけど興味が湧いてしまった俺は、もうどうにも好奇心がおさえられなかった。だって気になるだろ。水が 空中に浮くってイリュージョンだよな。
「見たい、の、か?ケイタ。……番のオネダリ、それは聞かない訳には、いかないな。しかし、水……大量の水、か」
ガリアスが何やらぶつくさと考え込んだ。どうやら大量の水がどこにあるのか探しているようだ。俺の少ない知識だと、城には権力の象徴として噴水があるって聞いたことがあるんだけどな。でも、噴水はそんなに水がないか。でも、ゲームなんかだと城の周りにはお堀があるのが定番だよな。日本の城はもれなく巨大なお堀が城を囲んでいるんだけど。
「城の周りにお堀とかないのか?」
俺はなんとなく口にしてみた。
「それはダメだ。夜にケイタを城の外に連れ出すことなんてできない」
警備の関係でダメみたいだった。メイドさんのその向こうに立っている騎士の人が首を左右に振っているのが見えてしまった。
「僭越ながら、使用人用の大浴場は如何でしょう?」
メイドさんがナイスな提案をしてきた。
「大浴場か」
ふむ、なんて感じでガリアスが考え込む仕草をした。コレはもう、決定ということなんだろうな。メイドさんの一人が静かに部屋を出ていくのが見えた。
「ケイタ、デザートがまだ残っているよ」
コレは準備のための時間稼ぎとみた。そりゃね、俺だって風呂に入って一日の疲れをとっている人を追い出すような真似はしたくはないよ。風呂の時間は大切だからな。
「ああ、今日のこれは?」
パッと見には分かりにくい。多分ケーキなんだけど、見た感じチーズケーキっぽい。うっすらとした黄色い三角形だ。
「本日は聖女様のレシピのひとつ、ベイクドチーズケーキにございます」
おお、やっぱりチーズケーキだ。焼いてあるやつはベイクドチーズケーキって言うんだ。さすがは聖女、女子だけにあってそう言う区別をちゃんとしているんだな。しっとりとした滑らかな食感で、俺は紅茶と一緒に美味しくいただいたのだった。
それから俺はガリアスに抱き抱えられ、地下の大浴場に連れていかれた。
「ふむ、このくらいの量があれば問題なさそうだな」
ガリアスは大浴場をじっくりと眺めている。作りからいって、俺の知っている限り銭湯みたいな感じだった。一番奥に大きな浴槽があって、手前には洗い場が並んでいる。小さな椅子が並んでいる様子は完全に日本の銭湯だ。
「足元が滑りやすいのでご注意ください」
メイドさんがガリアスにそう告げると、ガリアスは分かったとでと言うようなジェスチャーをして、それからゆっくりと浴槽に近づいて行った。
俺は何故か用意された猫足の椅子に座らされ、そんなガリアスを眺めている。風呂場に猫足のしかも座面が赤いって、すんごい違和感だよ。
「ケイタ、見ていてくれ」
ガリアスはそう言うと、両手を浴槽に向けた。風呂から立ちのぼる湯気とは違い、蜃気楼みたいなものがユラユラとしているのが見えた。浴槽の湯の表面が小さく波立っているらしく、 小さな飛沫の上がる音が聞こえる。
「う、うわぁ」
まるで滝の真下にたっているかのような錯覚に陥る程の大きな水音がした。湯気なのか水飛沫なのか分からないが、自分の周りの湿度があきらかに高くなったのを感じ取ったとき、俺は巨大な水の塊を見た。
椅子に座らされていたのは、巨大な水の塊から来る水圧に俺が負けて倒れないためだったらしい。滝と言うより巨大な水の壁だった。それが空中に浮いていて、俺の目の前にあるのだ。入ったら気持ちが良さそうな、そんな温かさを感じる。
「触ってみるか?ケイタ」
ガリアスに言われ、俺はそっと手を伸ばした。
「わあ、温かい」
四角いお湯の塊だった。マグロの養殖のやつは冷たい海水だったけれど、これはお風呂のお湯そのまんまだった。
「凄い、入ってみたい」
俺が思わず口走ると、メイドさんが驚いた顔で俺を見た。
「ダメに決まってます」
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