第4話 ネタバラシは盛大に
「入るぞガリアス」
威勢のいい声と同時に、っていうより勢いよく両開きの扉が開いてから声がしたと思う。まあ、そのあたりはどうでもいいんだけど。物々しい雰囲気そのままに、騎士のコスプレをした人たちを引き連れてやってきたのは、どこからどう見ても王様だった。でっかい金ぴかの王冠を頭に乗せて、白いファーの飾りがついた真っ赤なマントを身に着けて、着ている服も赤に金の目に優しくない配色だ。しかもズボンはかぼちゃパンツの形をしていて、白いタイツみたいなのを履いている。履いているのはブーツっぽい。
「父上、無粋ですよ」
俺を隠すようにして、ガリアスは答えた。ま、膝の上に座っている俺も、俺なんだけど。
「何を言っているか。お前、禁忌の召喚魔法を使ったというではないか」
ずかずかとやってきた王様は、ガリアスの父親らしい。やっぱりガリアスは金髪イケメン王子様のようだ。立派な髭に隠れてはいるものの、王様の顔はガリアスとよく似ていた。
「禁忌とされているのは、異世界から勇者や聖女を召喚することですよね?俺が召喚したのは俺の運命の番です。現にこうして召喚されたではないですか」
そんなことを言いながら、ガリアスは俺の頭を撫でている。しかもしっかりと俺を抱き寄せている。
「召喚魔法はこの世界では禁忌だろう」
王様は完全に怒っているようで、俺にもはっきりとわかるぐらい怒気を発していた。
「父上やめてください。俺のオメガが怯えています」
ガリアスがそう言うと、王様は俺をチラと見た。
「国王陛下に申し上げます」
たたたたたっと割り込んできたのはラムダだった。
「なんだ」
王様はラムダを見た。ラムダの手には分厚い本があった。しかもどこかのページが開かれている。
「ガリアス王子が用いたのはこちらの魔方陣です。記述にあるとおり、己の運命を召喚するための魔方陣なのです。確かに、神の名のもとにこの世界では召喚魔法が禁忌となりました。間違いなく勇者や聖女を召喚するための魔方陣はこの世界から消え去りました」
そう言ってラムダは他のページをめくって王様に見せた。俺からでも確認できるぐらいに白紙のページがやたらと目についた。
「お分かりですか?神が禁忌とした魔方陣はこのように消されてしまったのです」
王様は神妙な面持ちでラムダが持っている分厚い本を見ていた。あんなに分厚いのに、白紙が目立つなんて普通に考えたら乱丁だろう。
「つまり、魔方陣が消されていないから、神が禁忌としていない。……つまり、そう言いたいのだな」
王様は、ラムダが持ったままの分厚い本をペラペラとめくっている。たまに書き込みのあるページを見つけては、何やら考え込んでいるようで、そうして目を閉じて考え込むような仕草をした。そうして、しばらくすると目を開け、俺を見た。それはもう、がっつりと。
「確かにオメガのようだな。だが、魔力を全く感じない。異世界から来たからなのか?聞いたところによるとニホンという国から来たそうだな。残念ながらこの世界にそのような名前の国は存在しない。魔法地図でも反応がなかったのだから、小さな集落というわけでもないのだろう。……ガリアス、きちんと医師に確認させなさい」
王様はそう言うと騎士のコスプレをした人たちを引き連れていなくなってしまった。
俺はそれを黙って見送った後、なんとも言えない面持ちで金髪イケメン王子、ガリアスを見た。
「父上のお許しもいただけた。医師をここに」
ガリアスがそう言うと、横の小さな扉から一応白衣を纏った人が入ってきた。白衣は白衣なんだけど、デザインは魔法使いのラムダと同じものを着ていた。
「診察を頼む」
ガリアスがそう言うと、医師が俺に向かって手をかざしてきた。
「…………」
思わず悲鳴を上げそうだった。
医師の手のひらの先、つまり俺の目の前に透明な画面が現れたのだ。ゲームなんかでよく見るステータスボードみたいなやつだ。書いてあることは読めないけれど、その画面に描かれている人物は紛れもなく俺の姿だったからだ。
「彼がオメガであることは間違いありませんね。ここに子宮があります。まだ未熟で小さいですが。魔力が体内に溜まれば成長するでしょう」
「ケイタには魔力がないのか?」
「ええ、まったくないですね。おそらくですが、彼のいた世界には魔素が存在しなかったのでしょう。魔法が使えなくても魔素があれば食事や呼吸で摂取できるのです。ですが彼の体内にはまったく魔素が溜まっておらず魔力がないのです。これでは子宮が育ちません。子宮が育たなければオメガとして覚醒せず発情もしないでしょう」
「どうすればいいのだ」
「別にどうもしません。先ほど申し上げた通り魔素のない世界で生きてきたのが原因です。この世界には魔素がありますから、普通に生活すれば自然に魔素を取り込み魔力が溜まります」
「なるほど。では魔素の多い食事をとった方がいいのか?」
「それはお勧めしません。今まで摂取したことがないのですから。過剰摂取はよくないですね。ゆっくりと体内に魔素を取り込んでいった方がいいでしょう。拒絶反応が出てしまうかもしれませんからね」
「わかった。焦りは禁物ということか」
「そうです。ようやく運命の番に出会えたのです。この世界のことも含め、彼にはゆっくりと理解してもらった方がいいでしょう」
医師は頭を下げると出てきた小さな扉に消えていった。
医師とガリアスがどんどん会話を進めている間、俺は黙っていた。会話の中に入り込める余地が見いだせなかったからだ。ずっとドッキリ企画だと思っていたから、そろそろネタバラシが出てくると思っていたのに、ようやく出てきた医師がとんでもないことをしてくれたのだ。だってさ、子宮は誰でも持ってるものだろ?胎児のとき性別が定まってなくて、ホルモンシャワーをあびて性別が確定するんだろ?それなのに、子宮があるからオメガ。なんて断定されるし、魔素がない世界から来たとか言われるし。それよりも、なによりも、なんだよあのステータスボード。まるで鏡に映ったみたいな俺の姿があったじゃないか。なんか勝手に動いたし、突然現れて突然消えたし。ホログラムなのかと思って機械を探したけどどこにも見当たらなかったじゃないか。
「っの、俺、オメガなの?」
ようやく出てきた俺の声はかすれていた。
「ケイタ、そんな顔をしないでくれ。俺がケイタにもわかりやすく説明をしよう」
ガリアスはそう言って俺のことをソファーに座る自分の足の間に座らせた。まるで後ろから抱きかかえられているような姿勢になって、俺がドキドキしていると、目の前に再び透明なステータスボードが現れたのだった。
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