第2話 だからソレ、どんな設定なんだよ
「俺を差し置いて何をする気だ!」
目の前にあったラムダの顔が横に吹っ飛んだ。ベチャっという鈍い音がして、ラムダが白い大理石の床に倒れ込む。魔法使いのコスプレ衣装のおかげ?なのか、ラムダはなかなかの勢いで床を滑っていった。
「召喚されし我が運命よ。驚かせてすまない。俺はガリアス。ニトラル王国の王子だ。この度は召喚の魔方陣を使って少々手荒いことをしてしまってすまなく思う。だが、運命の番に会いたいと願う哀れなアルファを許してはもらえないだろうか?許してもらえるというのなら、名前を教えて欲しい」
片膝をつき、胸に手を当てて頭を下げる金髪イケメン王子、ガリアスの姿はどこぞのテーマパークで見たような夢見心地にさせてくれる雰囲気を持っていた。
「
反射的に俺は自分の名前を口にしていた。
「タカハシケイタ?」
若干片言な感じで俺の名前を復唱するガリアス。
「そう、圭太が名前で、高橋が名字」
思わず異世界物あるあるののりで自分の名前を解説してしまったが、あれ?本名教えるのは悪手なんだっけ?
「ケイタ……なんて心地の良い名前なんだ」
なぜだかわからないけれど、金髪イケメン王子ガリアスはうっとりとした顔でそんなことを口にした。何なの一体。圭太なんて平凡な名前だよな?
「ケイタ殿」
うっとりとしているガリアスの横に、素早く復活したラムダがやってきて、ものすごく真剣な顔で俺を見た。てか、殿って、敬称が殿ってどんだけなのよ。
「ケイタ殿は、どちらのお国に住まわれていたのだろうか?いきなり召喚してしまいましたから、ご家族に魔法便の一報を送りたいのです」
マホウビン?と俺の頭の中は、ポットでいっぱいになってしまった。だってそうだろ?マホウビンと言ったら、思い浮かべるのは虎のマークのアレである。
「ケイタ殿?まさかお国の名前をご存じないので?」
俺が返事をしないものだから、ラムダが不安そうな顔で聞いてきた。
「え?いや、お、お国の名前、ですよね。日本、日本国です」
俺がそう答えると、ラムダの顔がひきつったように見えた。それだけじゃない、ラムダの後ろにいる騎士のコスプレをした集団が、なにやら小声で話し始めた。あからさまに声を潜め、本を取り出して何かを確認しあっている。ずいぶんと手の込んだ演出である。そんなに俺を不安にさせたいのだろうか。
「ニホン?」
そう口にしたのはガリアスだった。不思議そうな顔をして、ラムダに何かを確認している。ラムダも何かを開いて、首を左右に振っていた。
「すまないケイタ。ニホンという国が地図で探せないんだが。どのあたりにあるのだろうか?」
うわぁ、きたよこれ。
そりゃあね、日本は小さな島国ですから、ヨーロッパを中心とした世界地図では端っこの辺りにいびつな形で張り付くように表記されていることぐらいわかっている。これはあれだ、日本なんてありませんよ。ドッキリ企画だな。
「地図見せてよ」
俺は言うようやく立ち上がった。そんな俺にガリアスが地図を見せてくれた。A5サイズほどの大きさではあったが、カラーで印刷されていて、結構見やすそうではある。
「ん?」
俺は地図を覗き込んで息が止まった。なぜなら、まったく想像と違う地図だったからだ。大きな大陸が、帯状に地図の上に描かれているだけの地図だったのだ。半島とか、ちょっとした島なんかはかかれてはいるが、俺のあやふやな知識で言うところの、恐竜時代の地図に似ている気がする。出来立ての地球の地図だ。地殻変動やそういうのがまだ起きていないから、大きな大陸と波のない海。そんな感じの地図だ。
「ケイタ殿、ニトラル王国はここにあります」
そう言ってラムダが地図を指さすと、地図が光った。いや、正確に言うと、ニトラル王国の領域が光っているのだった。俺の知っている世界地図には国の名前が明記されていて、国境が描かれているのが多いのだが、まさにそんな感じにニトラル王国の領土だけが光っているのだ。
「ええええええ」
いろんな意味で驚きが隠せない俺は、口から素直な声が出てしまった。
「ケイタ、どうした?」
ガリアスが俺の顔を心配そうに見つめてきた。
「な、なにこの地図」
いろんな意味を込めての質問だ。だってそうだろ?なんだよこの地図。紙にしか見えないのに、光るとか、意味が分からない。それに、やっぱり地図が、こんな世界地図見たことがない。紀元前です。とか言われても意味が分からないし、ユーラシア大陸とアメリカ大陸がくっついています。とか言われても、そしたらオーストラリアどこ行った。ってことになる。
「ケイタ殿はこの地図の使い方をご存じないのでは?」
ラムダがそう言うと、ガリアスが合点がいったと言わんばかりに頷いた。
「ケイタ、場所がわからなくても、ニホンと言いながら指させば光って示してくれるから安心してくれ。この地図は我が国の魔法省が開発した特別な地図なんだ」
ガリアスが言っている意味が分からない。
「捕捉いたしますね、ケイタ殿。この地図には魔法が練り込まれておりまして、触れた人の記憶から痕跡を探し出し、地図上に示す機能が備わっているのです。そう、この地図を開発したのは私のいる魔法省。わかりやすく言うと、私が開発したのです」
なんとなく想像はしていたけれど、魔法って言ったよね?言ったよな?ずっと聞き流していたけど、魔法ってなんだよ。ドッキリの企画複雑すぎるだろ。異世界転移ドッキリなのか?それにしたって、仕掛けが分からなさすぎる。ただの紙の地図にしか見えないし、手触りも紙だ。銅線とかが織り込まれている感じがしない。
「す、ごいです、ね」
とりあえず褒めておくか。正解が分からない以上、ありきたりな会話運びをしなくてはならないだろう。まあ、それはさておき。言われたことをやってみないとな。
「日本」
俺はそう口にして、指先で地図に触れてみた。
すると、地図は波打つみたいに光を放ち、細かな振動が指先に伝わってきた。だが、地図上に日本国を示す光は灯らなかった。たしか俺のあやふやな記憶だと、ユーラシア大陸の方から分離したんじゃなかったっけ?そう考えると、この巨大な大陸のどこかに細長く光っても良さそうなんだけどな。
「…………」
地図を見つめるラムダが無言である。
「こ、国王陛下に報告してきますので、ケイタ殿を客室にご案内してください」
ラムダが絞り出すようにそう言うと、ガリアスが無言でうなずいた。
「ケイタ、立ちっぱなしもなんだから、部屋で休もう。お茶とお菓子を用意させる」
ガリアスがそう言うと、騎士のコスプレをした集団が動き出した。ザっと音がして、扉までの道ができた。そして俺は、なぜかガリアスに抱きかかえられて移動させられたのであった。
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