勇者でも聖女でもなく異世界から嫁を召喚!

ひよっと丸

第1話 出会い(召喚)は突然に


「うわわわわわわわぁ」


 急に目の前が暗くなったと思ったら、俺はおかしな浮遊感、簡潔に言えばジェットコースターが急落下した時のような、そんな感じを味わった。そして、目の前が明るくなったと思ったら、目の前に金髪のイケメンが立っていた。


「おおおお、素晴らしい。ようこそ我が花嫁」


 目が合った瞬間、金髪のイケメンがとんでもないことを口走った。『花嫁』って言ったか?言ったよな?聞き間違えでなければ、俺の耳にはそう聞こえたんだが。


「…………」


 状況が飲み込めない俺は、金髪イケメンの顔を凝視したまま、黙っているしかなかった。だってそうだろう?どう考えたっておかしいんだから。テレビのドッキリ企画にしては、やり口が雑すぎる。あれは、憧れの芸能人が変装してさりげなく騙してきて、いつ気が付くのかを眺める企画だ。もしくは、目の前でハプニングが起きたらどんな反応をするのか。なんてちょっと意地悪な企画なんかもあったりしたはずだ。と、言うことは、これはハプニング企画なのだろうか?だとすれば、そろそろ、


「な、何事ですか!」


 壁だと思っていた一か所が大きく開いて、コスプレをした人たちがやってきた。これはなかなか大掛かりな企画ものらしい。こんな時、一般ピープルとして、俺はどんな反応をするのが正解なのだろうか?俺は尻もちをついたような体勢のまま、事の成り行きを見守ることにした。だって、そうだろ?下手なこと口走って赤っ恥書きたくはないからな。


「見ればわかるだろ?俺の嫁を召喚したんだ」


 金髪イケメンが胸をはって堂々と答えた。やっぱり、嫁って言ったね。言ったよな。うん、俺が嫁?


「あなたねぇ、何言っちゃってくれっちゃってんですか!」


 マントを付けた騎士っぽいコスプレの人たちを押しのけて、黒いローブっぽい、映画なんかでよく見るいかにも魔法使いです。って格好をした人がぐいぐいとやってきて、金髪イケメンに怒鳴り散らしてきた。


「何を言ってるのかって?みればわかるだろう?」


 説明するのも面倒だ。と言わんばかりの態度をとる金髪イケメンに、騎士のコスプレをした人たちは、あきれ返っていた。頭を左右に振ったり、わかりやすいぐらいに頭を抱え込んだり、あるいは大げさなぐらい深いため息をついていた。こんな光景を見させられても、素人な俺は反応に困るというものだ。

 なぜなら、いまだに正解のリアクションが分からないからだ。


「召喚魔法は禁忌なんですよ!150年ほど前に神より神託が下ったのを知らないんですか?」


 魔法使いのコスプレをした人が、金髪イケメンに食って掛かる。フムフム、どうやら金髪イケメンは、神様に禁止されていることを独断でやってしまった。という設定なのか。なかなかリアクションとりにくいな。今更「俺が嫁ですか?俺男ですよ」なんて言ったところで面白くないよな。さて、どうしたものか。


「禁止されたのは、勇者や聖女の召喚だろ?」


 金髪イケメンが面倒くさそうに答えた。


「わかっていながら禁忌を犯したのですか!」


 魔法使いのコスプレをしている人物が噛みつくように言い放った。だが、金髪イケメンは動じない。


「神より禁忌とされたのは、異世界から勇者や聖女神子などを召喚して、自国の問題を解決させることだ。個人的な問題には言及されてはいない」


 どやぁと言わんばかりの顔をして、金髪イケメンが言い放った。それはもう、屁理屈というものなのではないだろうか。


「何を言っているんですか。召喚魔法が禁忌なんですよ!」


 魔法使いのコスプレをした人物が、金髪イケメンに詰め寄った。人差し指を突き立てて、金髪イケメンの鼻に押し当てている。


「禁忌になったのは、異世界からそう言った人物の召喚だろう?自国の問題は自国で解決、駄目なら近隣諸国を頼る。神はそうおっしゃたんだよな?」


 金髪イケメンがそう言うと、魔法使いのコスプレをした人物は、唾を飛ばさんばかりの勢いでこういった。


「何を言っているんですか!あなたの嫁問題だって自国で解決できるでしょう。なんならお触れを出して近隣諸国からも嫁を募集すればいいでしょう」

「すでにやった」


 金髪イケメンは即答した。

 即答されたものだから、魔法使いのコスプレをした人物は、口をパクパクとさせている。


「すでに、やった。とは?」


 魔法使いのコスプレをした人物は、言われたことが理解できなかったのか、聞き返している。


「すでにやった。お触れを出して、国中から俺の俺の運命候補という人物を集った、もちろん近隣諸国にも募集をかけた。予算を組んで、二年間かけてじっくりと面接だってした」


 なんだか、とんでもないことをドヤ顔で金髪イケメンは言ってきた。


「その予算は、そう、ラムダ、お前の所属する魔法省の予算を削ったんだがな」


 魔法使いのコスプレをしている人物は、ラムダという名前で、魔法省に所属しているらしい。意外と設定を持っていたんだな。なんて俺は呑気に考えていたんだが、どうやらそうはいかなかったらしい。


「に、二年間も?」


 ラムダは驚きのあまり金髪イケメンの胸倉をつかんでいた。


「おいおいラムダ。いくら何でも王子たるこの俺様の胸倉をつかむのは不敬だろう」


 おおおお、金髪イケメンは王子だった。


「に、二年間も予算を削られていた?そのせいで研究材料が揃わなかった?」


 どうやらラムダは相当にショックだったらしく、ぶつぶつと呟きだした。


「さすがに三年目に突入したらかわいそうだと思ってな。お前の部下に相談したら、この魔方陣の存在を教えてくれたというわけだ」


 どや顔で言う金髪イケメン王子。


「異世界召喚は禁忌でしょうが」


 ラムダはそれでも食い下がる。


「だから、俺の運命探しに国中から募ったし、近隣諸国からも募ったんだ。二年もかけてじっくりと面談をしたけれど、見つからなかった。こうなると、世界の裏側にある国まで探しに行かなくちゃいけないだろ?」


 金髪イケメン王子はどや顔で話し続ける。


「すでに二年の歳月をかけている。お前のいる魔法省の予算も削った。世界の裏側まで俺の運命探しに行くには、相当な予算が必要になる。遠征費だな。まず俺の護衛を少数精鋭としても食費だけでそれなりにかかるだろ?世界の裏側で運命が見つかったら、移動させるための交渉しなくちゃいけないし、王子たる俺の運命をそこいらの馬車に乗せるわけにはいかないから、用意しないとだろ?それをもって移動となると、いったいどれくらい魔法省の予算を削ることになることか」


 そんな金髪イケメン王子の話を聞いて、ラムダの顔色は青くなったあと、赤くなった。


「なんで魔法省の予算を削るんですか!他でもいいでしょう」


 ラムダがそう叫ぶと、金髪イケメン王子はふふんと鼻を鳴らして答えた。


「遠征に護衛、俺の運命のための馬車、防衛費や交遊費から捻出されるんだから当然削れないよな?国の維持管理に関する部門からの捻出もできない。そうなったら、一番削れるのは魔法省の予算だろ?」


 それを聞いたとたんにラムダの顔が白くなった。


「世界の裏側まで遠征なんかしたら五年はかかるじゃないか。そうなったら魔法省がかわいそうだろ?そんな話をしたら、お前の優秀な部下がこの召喚魔法の本を見せてくれたんだ。異世界からの召喚を神が禁忌としたんだから、世界の裏側にいる俺の運命が召喚されたわけだろ?見ろ、現に俺たちの知らない服装をしているじゃないか」


 金髪イケメン王子はそう言って俺に注目を集めさせた。ここにきて、ようやく俺はこのドッキリの全貌が見えたのだが、やはりどういうリアクションが正解なのかいまだにわからない。


「なるほど?いや、これは納得していい、事案?なのか……いや、しかし、異世界からの召喚ではない?世界の裏側の国から?」


 ラムダは俺のことをじっくりと観察しているようだった。異世界召喚ではないと言っているが、それはいったいどんな設定なんだろうか?しかし、世界の裏側と言ったら、ブラジルというのが鉄板なんだが、どう見ても金髪イケメン王子をはじめとしたコスプレは、中世ヨーロッパ風で南国のブラジルを思わせるコスプレではないんだが。


「では、まずは確認いたしましょう」


 コホン、と軽く咳ばらいをすると、ラムダは尻もちをついた体勢のままの俺の前に膝をついた。

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