第14話 めんどり

 いただけますか。そこの卵を10個ほど。


おや、いつも店番をしている方と違うようですな。新人さんですか。


私めは、シュメッターリング=シャルラッハ。男爵家で執事をしております。どうぞお見知りおきを。


そうそう卵と言えば、この間。知り合いからニワトリを貰いましてねえ。


何故なのか「気持ち悪いから飼えない」と言うのですよ。


1週間が経ちまして。気持ち悪い、の意味をようやく悟ります。


私めが抱いても驚くほど大人しく、めんどりだから鳴き声もあまりありませんで。鳥というのは案外、可愛いものだなあ、と考えていたのですが。


卵を産みました。


ははあ、これだなと。気持ち悪い、と言わしめた正体は。


卵は毛だらけ。真っ黒な毛皮を纏っているのです。


曲線に沿って、ふっさりなだらかに生え揃う毛へ触れると、何となく覚えのある触り心地。幼子の頭を撫でているような、心地良い柔らかさを感じます。


足元で見守る賢しげなめんどりが、急速に薄気味悪い生き物へと変貌しました。


恐る恐る割ってみれば、ごく普通の新鮮な卵でしたので。目玉焼きにしてみました。


自分で試食する勇気はございませんので、痩せこけた野良犬に与えてみたら。大喜びでシッポを振っていましたよ。


今朝がたも元気に歩く件の犬を見かけましたので、毒性を含んでいる、という可能性は低そうですな。少しばかり太ったのか、毛皮のボリュームが増したような気は、致しましたが。


鳥をくれた知り合いに話を伺ってみても、原因は知らぬと首を振るばかりでした。


ただ。


譲り受ける前には、友人である男性が飼っていたそうです。私めの、前の前の飼い主にあたります。


そのご友人が唐突に行方不明になりまして、整理のため家人から譲り受けた、数羽のうちの1羽が。毛玉めいた卵を産むめんどりでした。


黒い髪、赤い髪。高貴な方々もご愛用の、つけ毛や、かつらを作る職人だったらしい男性。何か卵の謎と関係がありそうです。


めんどりですか? ええ、相変わらず私めが世話を。毛の生えた卵も、慣れれば可愛らしいものですよ。


しかし、卵の使い道がイタズラにぐらいしか思いつかなくて。何か、良いアイデアはございます?


数が集まれば買い取るとか……無理ですか、そうですか。


では、そろそろ。またお願い致します。



【了】

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