第9話 薔薇そのニ

 愛好家の多い薔薇の花は、品種改良が進んでおり、色も豊富に一年中その麗しい姿を楽しむことが出来ます。


中には二季咲き、四季咲き、繰り返し咲きと呼ばれる、一年に何回も花開く種も存在いたします。


しかし本来ならば、春の終わりから夏までに咲く花。


秋の終わりに生る実は、栄養が豊富ですが味は酸っぱく、お茶やジャムなどに加工します。


私めは好みじゃありませんが。美容に良いと、ご婦人方には一定の人気がありますな。


ある牧場主が作って販売する薔薇のジャムが、大変に美味しいということで。主人に命じられて買いに参ったことがございます。


かなり昔の話でして。怒らないで聞いてくださいませね。


その牧場は動物も飼育しておりましたが、味が評判になってからは、食用にする薔薇を特に力を入れて育てておりました。


けれど、飼っている牛や馬は薔薇には近づきません。決して。


薔薇の根元はいつも真っ白でして。…………肥料? ええまあ、肥料です。


動物の骨を砕いたモノが、地面をびっしり埋め尽くしているのです。


最初は偶然だったらしいですがね。他には無い味を実らせる薔薇が育ったのは。


飼っていた犬が、薔薇の周辺を獲物の隠し場所にしていたとかで。


さて……腐生植物というのがあります。ふせいしょくぶつ。


これは植物に寄生して宿主の養分を吸い、育つ植物なのですが。動物の死骸に寄生して花を咲かせる種もございます。


葉緑素を持たないために腐生植物の色は青白く、大概はひょろりとして。か細い女性の指のごとくです。


腐生植物が寄生した遺骸から更に、薔薇へと腐生植物が寄生する。すると、得も言われぬ深みを増した、甘い甘い実が生る薔薇に育つのだそうです。


その腐生植物は腐肉ではなく、生き物の骨に寄生するとか。珍しいですね。


骨からひょろひょろと伸びる、萎びた指のような花と茎を想像しますと。どうにも、食欲が失せて参りますな。


まあ、そんなわけでして。花の観賞は好きですが、私めは薔薇のお茶やジャムといった物は頂きません。


牧場で下働きをする男が友人だったのは、幸いでした。


噂によると。その牧場では今でも薔薇を育てて、甘い実のジャムを作り続けております。



【了】

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