第3話 小さい罠
ようこそ、いらっしゃいませ。旦那様は所用で戻りが遅れると……申し訳ございません。
書斎にご案内いたします。庭でも眺めながら、お待ち下さいませ。薔薇が取り取りに、真っ盛りでございますよ。
ーーどうぞ、お飲み物をお持ちしました。
はい、聞きたいことがあると。私めが返答できる内容でしたらば、幾らでも喜んで。
机の下に仕掛けてある罠について。
おお、申し訳ございません。片付けるのを忘れておったようです。
ネズミ?
いえいえ。この小さい箱型の罠は、小人を捕まえるための物でして。
あはは、冗談とお思いですか。
何ヶ月も前に、旦那様が聞き込んでいらした噂話で……私めが罠を作り、屋敷中に大量に仕掛けたのです。
一時の間、旦那様は小人捕獲に夢中になっておりましたよ。私めも少し楽しかったですけども。
詳しくお話しましょうか。
旦那様が戻られるまでの、暇つぶしにはちょうど良いかと存じますぞ。
調べますと。
小人を目撃した、との経験を語るお方は、意外に多いのです。もちろん、図鑑になど載っていない生物ですな。
大きさは十センチ足らず。その仕草や生活様式、服も着て我々と同じ暮らしぶり。時には顔が、目撃した人物にソックリだったり。
しかし、小人に覗き見の視線を感づかれると……これはロクな結末にならないようです。
小人が仕返しに来るのです。見られてしまった口封じ、なのですかねえ。
小人を見た、また近くに見た、さっきも見た……目撃回数が増加していくのが、危険信号。
そして、ある日ふっつり。小人の噂をまき散らした方は、行方知れずになります。
それで、これまたある日にふらりと。戻って来たりするのです。人が変わったようになって。
……小人に、中身を取って代わられたのではないか……
戻られた方の変貌ぶりに。周囲はそう噂したそうです。
小人を捕まえようと試みていたのは、自分にソックリな小人がいるなら是非とも観察したいと。旦那様がこう仰りましてねえ。
私めのごとき小心な執事では、旦那様の暴走をお止め出来ないので。屋敷はしばらく、上から下への大騒ぎでした。
まあ、あなた様もお察しの通り。ネズミのみの捕獲に終わりましたが。
今でも部屋に時々、趣味を兼ねて作った小型の罠を置いてみたりするのですが……
……顔色が悪いようですね、どうされました?
あなた様の語る奇妙な噂、旦那様はいつも楽しみにされておりますよ。お茶のお代わりをお持ちしましょう。
はい、本日はもうお帰りに?
この罠を欲しいと。構いませんが……もっと沢山?
大量発生のネズミに困っていらっしゃるのですか。それは大変。
お帰りの馬車を準備させますから、しばしお待ちを。手製の罠もたっぷり積んでおきますぞ。
はい、はい。ありがとうございます。それでは、また。お越しをお待ちしております。
ーーーー捕まえたら見せて下さいませね。小人。
【了】
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