第2話 さ迷う青い甲冑

 さて。


夜も更けて生ぬるい風も吹き、怪談には持って来いの晩でございますな。


まあまあ、そう嫌がらず。新しい怪談を仕入れたので、聞いて下さいよ♪


どちらにしろ、少し酔いを醒まさないと帰れませんでしょうに?


では…………


ある所に、血気盛んな若者がおりました。


腕っぷしは強く、王様に仕える騎士になりましたが。些細なことでカッとするので、仲間内での評判はよろしくありませんでした。


夜遅くまで任務についていた若者と、騎士の一人。


いつもの勢いで口論となり、若者は殴ります。相手はふっとびました。


お互いに甲冑を着たまま、大したケガなどしない……はずでした。


しかし、若者が殴った騎士は兜を脱いでいて……床は石床。したたかに頭を打った相手は、動かなくなりました。


深夜の出来事で、人気が無いのを良いことに。若者は、グッタリした仲間を引きずって森の奥へ。


半月を映す静謐な湖へ小船を乗り出して、沈黙した相手を投げ込みました。


途端に。もがく腕がばしゃばしゃ、水面を激しく叩きます。


……そう。殴った相手はまだ生きていた……


起こる波で船が転覆して、若者は頭から湖へザブン!


重い重い甲冑に、その身体を捕らわれて。まもなく深く暗い水底に沈んでいきました。


二人とも、ぶくぶくと仲良く……物言わぬ骸……魚の養分へ……


ーーーーそれからですね。


鎧を身に纏う人が湖へ近づくと、青白くぬめった腕が足をつかんだり。無人なのに激しい水音がどこからか聞こえたり。するそうです。


甲冑を着た二人。水底をさ迷ってるんですねえ、まだ。


あなた様の職業も騎士ですか。偶然ですな。


はい、誰がその出来事を見ていたのかと。あはは、ごもっとも。怪談によくある矛盾ですな。


……では、これでどうでしょう。


意識の無い相手を、湖へと投げ込んだ人物。それは短気な若者だけでなく、もう一人いた。


ことの陰藪に協力した者。


恐らく、若者と仲の良い騎士仲間、親しく秘密を共用するフリをして、若者をも邪魔者として抹殺した者……。


青い甲冑の二人は、無差別に人を襲っているのではなくて。その人物を水底の仲間にしようとしている。


これならば、真実味が増しますな。


そやつは自分の悪事がバレないよう、妖怪談のようにして話を我々に広めて逃げている、と。


さてさて、帰りましょうか。月が見守るうちに。


ま、用心するにこしたことはありません。湖に住む青白い手にも、騎士のお仲間にもね。



【了】

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