永久の泥人形

アスパラガッソ

第1話「目覚め」

 あるところに1人の造形家がいました。その造形家は天才で、人々があっと驚くような作品を世に生み出し続けました。


 ある日彼は自分のスタジオで、一塊の泥を前にしてどのような作品を作ろうかと悩んでいました。ですが、中々コンセプトは決まらずに数時間深く考え込んでました。


 周りの景色や音が消えて、そこに彼と泥の塊しかないように錯覚するくらい真剣に向き合っていた彼らを、なにかが押しつぶしたのです。


 そうして息絶えた造形家と作品になり損ねた泥はやがて、その血と混ざり、その肉と混ざり、その魂と混ざり”逢いました”。そうして1つの泥の塊と成った彼は記憶を失い、どこか遠い世界へと誘われてしまったのでした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ここは……どこだ?確か僕は?……私は?俺は?はて、自分のことをなんて言っていたか忘れたな、まぁそれはあとで考えるとして、確か……あれ?おかしいな、どうしても目が覚める以前の記憶が思い出せない……それにここはどこだ?真っ暗闇の中でなにも見えないし、まるで手足が無いように身動きが取れないぞ?


 ?


 あれからどれくらいの時間が経ったか、数時間?数年?数十年?いや、あるいは数秒か、そのどれもが当てはまらないような、そんな時間すらも知覚できない暗闇の中で、頭の中の白地のキャンバスに思考の落書きを増やしていくが、やはり何も感じず、何も見えず、自分の一人称すら記憶していない汚れ1つ無い綺麗なパレットでは、屁理屈染みた空理空論すらも立てられないでいた。


 そもそも自分はどうなっている?どこか感覚的には四肢が生え揃った人だと思っているが、四肢の感覚が無く見えず聞こえずなのは、もしかして自分は人ではなく他のなにか……四肢や目も耳も無いなにかの塊なのかもしれない。いや、それ以前に自分は生きているのか?死んでいるのか?……ダメだ、正解の無い問いに真剣に答えても正解が得られるはずはない……それにこうして落書き程度の思考ができるのなら、覚えていないのは全てではなく一部分だけだろう、つまり自分のこと以外は覚えているっていうことだ。


 人の自覚があるということは、以前の自分はキチンとした人間だったのかもしれない、いや人でなくとも外の世界を感じ取れるくらいの五感や感情はあったに違いない、それか自分は自意識をすっ飛ばして作られた機械なのかも……あーくそ!なにも見えない暗闇のせいで頭が冴えわたってるのか、それとも外界を感じれない故に頭にしかリソースを使えないせいか?あぁ、小さなか弱い光でも良いからこの暗闇を少しでも照らしてくれないかな……


 ?


 そろそろなにも生み出せないのに、希望というモノを求め続ける自分に嫌気が差してきたが、本当にこの暗闇からなにも発展しないのか?四方に広がるこの景色にもいい加減飽きてきたのだが……やはり現実は物語のように無からキッカケ生まれないのだろうか……でも、どうしようもないだろう、この自分が見ている世界はこれ以上発展のしようがないのだから。


 ?


 こんにちは!僕の名前はダークネス!君の名前は?


 自分……いや、俺の名前はリムレスです。その名の通り四肢が無いよ。


 ………………はぁ。一人二役がこんなにも虚しいとは思わなかったよ。


 流石にこのままでは本当におかしくなってしまう、自己の確立のために一人称と名前は決めてみたが、それを発表する場がない、俺が一人二役が性に合ってる生粋のひとりぼっちだったら、とうとう頭がおかしくなるところだったよ。


 そういえば、暇で暇で仕方ないから試しに1日を数えてみたよ。結果はなにも変わらずただ1日が過ぎただけだったけど、だけど気づいた。俺って眠くもならないしお腹も空かないってことに、いよいよ自分が死んでいるんじゃないかって思い始めているが、もはやこの状態に生死など関係ないのではないだろうか。


 ?


 あーーーー!!!もう限界だ!なんだって俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ??記憶もない赤ちゃん同然の俺にこんな苦行を課すとは、全て終わったあとの報酬がよっぽど良くなければすぐにでも訴えてやる!!!……でも、どこに訴えればいいのだろうか?そもそもこんなひどいことができる者がいたとしたら確実に悪魔だな!神の名のもとになんたらかんたら!!……あ、いや見方を変えれば試練ということで神なのかもしれん……あーー!ジーザス!!!


 神様どうかお助け下さい……いやこの際悪魔でもなんでも良いさ、この暗闇から救ってくれたのならそれがたとえ悪魔だろうと、俺は神として崇め奉るつもりだ。


 おーい!誰かー!優良物件が転がってるぞー!今ならなんでもする券を1枚つけるからマジで!マジで!助けて!


 ?


 流石に暗闇の中にずっといたらおかしくなるな、確か人は無音の中にいると段々とおかしくなると聞いたことがあるな、やはりそれと暗闇は同程度人をおかしくさせる作用を持つのか……俺のいる場所は暗闇だが、一応なにかしらの音が聞こえる。この音がなんなのか解らないが、地の底から響いてくるような、そんな重厚な音が聞こえる。


 ?


 らーらららららーらっらー♪らーらららららーらっらー♪らーらららら、らーらららら、らーらららららった♪どうですかリムレス、上手に歌えているでしょう?


 あぁ、とても上手に歌えていると思うよ。俺がこの暗闇から出られたらすぐにでもレコードにしたいくらいにはね。


 それはとても嬉しいです!じゃあ次は新しく思いついた物語の内容です。あるところに勇者がいて、その勇者は魔王を討伐するために、動物たちを不思議なボールでゲットして、魔王ヶ島にお椀を漕いで向かい倒そうとするんですが、12時を過ぎたので帰ることになるというものです。


 どんな物語だよ……それなにかいろいろなものが混ざり過ぎていないか?著作権的に大丈夫なのだろうな。しかもオチが弱すぎて、それがオチ足り得るのか心配なんだが……


 大丈夫ですよ。なにせここには僕とリムレスしかいませんからね。そういえば僕とリムレスが出会ってから今までで丁度2000年……って、それにしても俺何やってるんだろう。ダークネスなんていないのに……


 いますよ。リムレスの後ろにずっとずぅっといましたよ?どうして気付かないんですか?


 あー遂に頭おかしくなったか、だって俺の声じゃない声が聞こえる。多分妄想のし過ぎで脳がダークネスを実在する人物だって勘違いしている。


 なんで否定するの?ダークネスは最初から……アナタノマエニズットズゥットイマシタヨ?ドウシテシラナイフリヲシテイル?ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ


 ?


 あれ、俺もしかして寝てた?マジか!ここに来て初めて寝られた気がする。最初の頃は無理に寝ようとしてたなぁ、それも遂に実現か……あれ?なんかいつもより暗闇が明るい気がする……自分でもなにを言っているかわからないけど、なんかいつもより明るいんだよ。それにさっきからなにかを感じる……これは、腕?


 感覚のまま腕をなにかを押し退けるように動かすと、ガラガラとなにかが崩れるような音がして、心地よい暖かさが身体全体に当たった。


 あれ、身体の感覚が……ある?ウソだろ?ここに来てようやく!?やったーーーーー!!!遂に外に出た?いや、その割にまだ何も見えない……なにか……これは、風?それが身体全体に当たる音はするよな?目は見えないけど多分鳥の声がする。これはとても大きな一歩、いや二歩?三歩?あの暗闇状態から前進しすぎて、これもはや歩行しているよ!


 「あ゛ぅ゛あ゛……あ゛ぁ゛あ゛!?」


 え、今のってもしかして俺の声?いや、確かに俺から発せられた声だな……でも発音はできてないのか?なんか声が凄いザラザラ?してる。


「あ゛ぇ゛う゛え゛あ゛」


 あいうえおが上手く言えないな……マジで筒に空気流し込んで無理矢理発声している感じだ。まぁとりあえずはなにもないあの世界よりはマシかな、ところで誰か周りにいないのだろうか……いや、声にもならない声で叫んでる奴に近寄りたくなるかって言われたら、俺だったら真っ先に逃げるな。


 というか俺はなにかの瓦礫?に埋まってたみたいだな、道理でなにもできなかったわけだが、それならなぜなにも感じなかった?もし普通に埋まっていたのなら、それでも手足の感覚と空腹やらを感じるはずだし、それこそいきなり明るい暗闇?になったのだろうか。


 とりあえずなにかが起きたというのは間違いないはず、そして俺は地上に出たからいつか、いつかはわからない……また数千年後かもしれないし、それはわからないけど、なんらかの生き物に出会えるはず、それまではここでジッとしているのが得策だと思う。

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